022 依 頼 1
「今日は、ゴブリンの間引きにしましょう」
「うん!」
「わふ!」
常時依頼である角ウサギ狩りと薬草採取を数回行った後、セリアがそんなことを言いだした。
リゼルはふたつ返事で了承し、勿論俺も賛成した。
……というか、俺には投票権がない。使い魔扱いだからな……。
使い魔とはいっても、別に命令に絶対服従しなきゃならないとか、契約に強く縛られて、とかいうわけじゃない。あくまでも自分の意思で結んだ絆だ。
だから、調子に乗って使い魔を虐待したり奴隷扱いしたりすると、思わぬしっぺ返し……ガブリ、とか……がある場合も……。
ま、俺達の間にはそんな心配はないけどな!
俺の場合は意識を失っている間に勝手に契約されたのだけど、それは俺を助けるためだったと知っているし、セリアは誠実で、良い奴だ。
事後承諾であっても、異議はない。
ゴブリンの間引きも、常時依頼だ。ある程度減ると、一時的に取り下げられることもあるそうだけどな。
……そして、角ウサギ狩りや薬草採取に較べて、危険度が跳ね上がる。
角ウサギは、魔物とはいえあくまでも草食であり、鋭い角は自分の身を守るためのもの、威嚇用である。危険を感じない限り、自分から襲ってくることは滅多にない。
……滅多にない、ということは、たまにはあるってことだけどな……。
とにかく、常時依頼なのでいちいち窓口で受注する必要はない。
なので、ハンターギルドに顔を出す必要もなく、直接森へ向かえるから楽ちんだ。
お節介な奴らに『お前達には、ゴブリンやコボルトはまだ早い!』なんて言われることもないしな。
あ、ゴブリンよりコボルトの方が強敵らしいぞ。
コボルトの方が素早い上、アイツらは群れで行動するかららしい。
そりゃ、ふたりと1匹にゃあ荷が重いか……。
なので、多くても4~5匹、普通は単独か2~3匹で行動するゴブリンを魔法による遠隔攻撃で一方的に、という安全なアウトレンジ戦法で狩るんだとか……。
そう、『狩り』だよ。『戦い』じゃなく……。
こちらには殆ど危険がなく、一方的に蹂躙する、『狩り』だ。
命の遣り取りとかじゃない。
そんな危険を冒すようなことをやっていたら、少女ふたりで生き延びられるわけがない。
安全策。『いのちだいじに』というわけだ。
これが前衛職だと、ゴブリン相手でもある程度の危険は伴う。
戦いは水物、まぐれ当たりや思わぬ失敗もあるからな。木の根っこに足を取られて転倒するとか。
なので前衛職ふたりのパーティなんか自殺行為だけど、魔術師ふたりなら、それよりはマシだとか……。
まあ、奇襲を受けたり魔力切れになったりすると、致命的だろうけどな……。
* *
……というわけでやって来た、森の外縁部。
昨日までは森の外、草原地帯で活動していたから、今日からいよいよ本格的なハンターらしい活動となるわけだ。
敵も、向こうから積極的に襲ってくる奴だし、目当てのゴブリン以外の魔物と出くわす可能性もある。
俺も、セリアとリゼルの使い魔として、護衛役を務めなきゃな。
「いい、フェン。何度も言ったけど、最優先はリゼルの護衛だからね。その次が、自分の安全。
そして余裕があれば、私も護ってね」
「…………」
明らかに、優先順位がおかしい。
1番は、分かる。完全に理解できる。
……でも、2番と3番は逆だろうが!
どこの世界に、自分より使い魔の安全を優先するマスターがいるんだよ!!
しかし、俺は何も言わない。
反論は、既に何度もした。……そして、理解したんだよ。
セリアには、何度言っても無駄だってことを……。
ま、俺は別に契約魔法やら隷属魔法やらでセリアの命令に縛られてるってわけじゃない。
だから、好きにさせてもらうぜ。
見ず知らずの幼女を助けるために死んだ俺を、舐めるなよ。
その俺が、命の恩人である少女より自分の命の方を優先すると思うか?
……甘いぜ。グラブジャムンより甘いぜ……。
あ、グラブジャムンというのは、世界一甘い食べ物と言われている、インドの伝統的なお菓子だ。
勿論、食べたことはないぞ。
これからも、食べる予定はない。……というか、食べられないよな……。
あ。
「前方から角ウサギの匂いがするぞ。こっちが風下だから、まだ向こうには気付かれていないと思うぞ」
これでもフェンリルだからな。鼻の良さでは犬や狼にも負けないぞ。
「……パスしましょ。今日の主目的じゃないから、無駄な時間は使いたくないわ」
「了解だ」
うん、見つけた獲物を全部狩っていたら、それだけで一日が終わっちゃうよな。
せっかく角ウサギ狩りを卒業して次の段階に進もうとしているのに、今日も角ウサギ狩りばかりで終わっちゃ、意味がないよな……。
それに、報酬額としてもゴブリンの方が稼げる。
今はゴブリンが増えているとかで、特別キャンペーン中で報酬額が少し上がっているらしいしな。
よし、今後角ウサギは見つけても報告するのやめるか……。
* *
「風向きが変わったな……」
今までは前方からの微風だったのが、反転して後方寄りの風になっている。
まあ、俺の嗅覚探知には大きく影響するけれど、セリアとリゼルにとっては視覚と聴覚メインだから大して影響しないか。
……自分の探索においては、だけどな。
当然、魔物側にとっちゃあ先制探知し易くなって、メチャクチャ有利になるだろう。
とか考えていると、前方から微かな音が聞こえてきた。
風向きの関係でまだ匂いはなくても、足音とか草木をかき分ける音とか、視認する前に察知できる情報は色々とある。匂いに較べると、かなり近付いてからしか分からないけどな。
これは明らかに角ウサギとかの小動物じゃなくて、もっと大きいヤツだ。
目当てのゴブリンか、それともコボルトか……、って、足音も草木の音も、大きいぞ? それも、複数……。
そして、明らかにこっちに向かっている。
ということは、アイツらは俺達の獲物じゃなくて、俺達がアイツらの獲物、ってことだ。
……マズい!!
「中型か大型目標複数、前方から来るぞ!」
「「え!」」
そして、十数メートル先に姿を現した、3頭の魔物。
魔術師が、近距離で奇襲を受ける。
最悪のパターンだ。
オマケに、その魔物は……。
「嘘……」
「……オ、オーク……」




