021 初依頼
「じゃ、ギルドに行くわよ。
美味しい依頼は、ボードに貼り出されると同時に争奪戦だからね」
「うん!」
「おう!」
駆け出しのFランクと、10歳になったばかりの、同じく新米の見習い少女。
そんな者に受けられる依頼など、碌なものはない。
……いや、依頼に貴賤はないし、依頼者にとってはどれも切実な問題ではある。
ただ単に、『依頼料が安い』、つまり受け手が稼げないというだけなのであるが、ハンター側にとっては、それは充分に『碌な依頼じゃない』と言えるものであった。
稼げる依頼は、危険が伴うか、高度な能力を必要とする。
なので、受注者のランクを指定される。
……ということは、駆け出しには受注できない。
当たり前である。
もし駆け出しに実入りの良い依頼を受けさせたりすれば、……良くて依頼失敗、悪ければ受注パーティ全滅である。
それを防ぐためなので、駆け出し連中はぶつぶつと愚痴を溢しはするが、ギルド側に対して直接文句を言うことはない。
皆、分かってはいるのである。ただ、稼げる仕事が受けられないのが不満なだけで……。
……ただ、抜け道はある。
素材納入である。
一般依頼ではなく、事前に受注手続きをすることなく採取物を納入するだけという、常時依頼。
薬草や魔物の稀少部位、肉や毛皮。
それらの、いつでも常にウエルカム、という依頼であれば、ランクに関係なく稼げる。
自分達が死ぬことなく、重傷を負うこともなく、無事に高く売れるものをゲットできればの話であるが……。
駆け出しが稼げる方法。
駆け出しが命を落とす原因のかなりを占める、無謀な行為。
そして現在資金不足であるセリア達は……。
「……まあ、薬草採取か、角ウサギ狩りだよね……」
「うん……」
セリアの言葉に、少し項垂れて肯定する、リゼル。
当たり前である。
堅実で安全策を取るセリアと、頭が良くて慎重なリゼル。
このふたりが、駆け出しである自分達の力量を見誤ることなどないし、無謀な一攫千金を狙うようなこともない。
ハンターは、薬草採取と角ウサギ狩りに始まり、ゴブリンとコボルトを狩れるようになって、ようやく『初心者』から『新米』に呼び名が変わると言われている。
見習いを終えてFランクの正規ハンターになったばかりのセリアと、見習いになったばかりのリゼルにふさわしい初仕事であろう。
* *
「村の近くに出没するオークの討伐に……」
「できたばかりのゴブリンの巣の殲滅、と……」
依頼ボードを眺めながらそんなことを口にする姉妹に、チラチラと心配そうな目を向けるハンター達。
まあ、心配しなくても、そんな依頼は『Cランク以上』とか『4人以上のパーティ』とかいう受注条件が付いているし、もし受注条件の記載漏れがあったとしても、受付嬢が受注を拒否するため、安心ではある。
ただ、そういう身の程を弁えない依頼を受けようとする馬鹿はすぐ死ぬため、姉妹のことを案じているのである。
そして……。
「じゃ、常時依頼の薬草採取と角ウサギ狩りにするわよ。
常時依頼ならノルマも期限もないし、違約金が発生することもないから、安心だし気が楽だからね」
「うん、駆け出しの私達にふさわしい、身の丈に応じた依頼だよね!」
ズコ~!!
心配してふたりを見守っていたハンターやギルド職員達が、心の中でズッコケた。
いや、姉妹の堅実な判断に、安心はした。
……しかし、先程のオークやゴブリンの討伐依頼に対する言及は、何だったのか……。
自分達が勝手に心配しただけなので、文句を言う筋合いではない。それは分かる。
だが、何となく納得できない思いの、ハンターと職員達であった。
* *
夕方、薬草が入ったバッグを持ち、肩に角ウサギを担いでハンターギルドに戻ってきた、セリアとリゼル。
荷物があるので、フェンはセリアの肩の上ではなく、自分で歩いている。
リゼルは完全な初心者であるが、セリアは見習いを勤め上げて正規のハンターになったわけなので、いくら新米ハンターとはいえ角ウサギ、コボルト、ゴブリンあたりに後れを取るようなことはない。
……相手が群れをなして襲い掛かってくれば別であるが……。
まあ、ほぼ無限に近い魔力タンクを得た今であれば、かなりの数を相手にしても何とかなりそうではある。
しかし、慎重派であるセリアが、リゼルを危険に晒すようなことがあるはずがない。
前衛がいない、魔術師ふたりのパーティでは、樹上や大木の陰とかからの奇襲攻撃には脆弱である。
なので、見習いを連れた指導員ひとりだけのパーティとしては、角ウサギより強い魔物が出ることのない場所での狩りと薬草や山菜の採取という、安全重視の超基本的な常時依頼から始めるのは当たり前のことであった。
そもそも、見習いに基礎から教えなくてどうする、ということである。
セリアも、見習いになって初めての仕事は薬草採取と角ウサギ狩りであった。
既にCランクであったパーティが、わざわざセリアの教育のためにそんな稼ぎの少ない常時依頼を受けてくれたのである。
……あの時は、良いパーティに入れてもらえたと、本当に感謝したのであったが……。
「買い取り、お願いします」
「おう!」
受付窓口から少し離れたところにある納入場所に、どさりと獲物と採取物を下ろす、セリアとリゼル。
大物は別棟の解体場に持って行くが、小動物や薬草、山菜等はこちらで納入する。
受付窓口とは違い、こちらの担当者はむさいおっさんである。
角ウサギ3匹と、薬草少々。
この程度の稼ぎでは、宿代と食費その他でカツカツであり、怪我や病気等の予定外の出費には耐えられない。日々の暮らしが薄氷を踏むような綱渡りの連続であり、何かあればすぐに破綻する。
少女ふたりという特殊な人員構成であるため、雑魚寝や相部屋の安宿に泊まることができず、宿泊費が高くつくということの反面、稼ぎを大勢で分ける必要がないこと、お酒を飲まないこと等で出費が少なくて済むことから、他の新米パーティよりはほんの少しマシではあるが……。
しかし、何もこのような生活がずっと続くわけではない。
見習いのリゼルに基礎を教えれば、さっさと獲物をゴブリンやコボルト、そしてオークへと上げていくので、すぐに稼ぎが増えるはずである。
そして他のハンターやギルド職員達は、このふたりは角ウサギを卒業して単体のゴブリンやコボルトを狩れるようになった頃には、どこかのパーティに加入するものと思っていた。
正規のハンターになったばかりの者と、見習いになったばかりの者の、少女魔術師ふたり。
……明らかに職種バランスが悪い。いや、それ以前の問題として、人数が圧倒的に不足している。
ハンターパーティというものは、最低でも4人。理想としては5~6人で組むものである。
魔術師は不足気味であり、しかも若い女性となれば、ふたり揃って加入させてくれる……、いや、加入してくれと頼むパーティは多いはずである。
なので他のパーティの者達は、その時が来るのを楽しみに待っているのであるが……。
一度パーティ仲間に裏切られ、そしてフェンというジョーカーを抱えたふたりに、そんなつもりがあるのかどうか……。




