023 依 頼 2
「「「ラッキー!!」」」
俺達、ふたりと一匹の声が揃った。
「肉の納入で、いい稼ぎになるわ!」
「お姉ちゃん、全部は売らずに、少し残してよ! お腹一杯、お肉が食べたいよっ!」
「オークは食えねえ、たった越前……」
余裕の、俺達。
……何の不思議もありはしない。
俺達は、無敵のパーティ『フェンリル』なのだから……。
いや、本当だ。
若いとはいえ、魔力操作の達人。しかも無限に近い魔力量となった、セリア。
見習いとはいえ、魔力の瞬間放出量が多い、リゼル。
……そして、『連邦の白い悪魔』こと、フェンリルの俺。
ふはは、圧倒的ではないか、我が軍は!!
負ける要素が見当たらない。
九分九厘、俺達の勝利だ!
……って、負ける確率、九割1厘かっ!!
いや、知ってるよ、『九分九厘』が99パーセントだってことくらい……。
いやいや、そんなことを考えている場合じゃないな。
「獲物を襲っていいのは、獲物として襲われる覚悟のある者だけだ!」
初手はセリアとリゼルに任せるので、俺はのんびりしている。
セリアはパーティとしてオークと戦ったことがあるらしく、そんなに動揺した様子はないみたいだ。
でも、いくら度胸がありそうに見えても、リゼルはまだ10歳で、しかもオークとは対戦どころか、近くで見るのも初めてだろう。……しかも、3頭も……。
見た目は平然とした態度を装っているけれど、明らかに顔色が悪いし、ちょっと震えているように思える。
いや、泣き叫びながら逃げ出さないだけで、充分立派だ。大したもんだよ……。
俺達がこんなにゆっくりしているのは、オーク達が立ち止まっているからだ。
普通なら、獲物を逃がさないように突っ込んで来るんじゃないのか?
……そう考えている俺の心を読んだのか、セリアが小声で囁いてくれた。
「私達が騒いだり逃げたりする様子がないから、警戒しているのよ。罠があるんじゃないかとか、伏兵がいるんじゃないかとか……。
まあ、こっちが逃げずに突っ立っているなら、向こうも慌てる必要はないと考えても不思議じゃないしね」
「なる程……。
そして、罠や伏兵がいないか確認しながら、ゆっくりと接近するってワケか。
勿論、こっちが逃げ出せば、全力で追ってくる、と……。
足元の悪さや木々の枝なんか気にもせずに全力で走ってくるオークから、脆弱な人間が逃げ切れるわけもなし、と……」
……そう。もし、こっちがオーク3頭より弱ければ、だけどな!
セリアは大丈夫だ。オークと対峙した経験があるし、落ち着いている。
パーティで戦った時は牽制役だったそうだけど、それは役割分担というものだ。
セリアの魔法攻撃はオークのどてっ腹をぶち抜ける程の威力はないから、攻撃の主体はもっと攻撃力のある者に任せ、魔力量は少ないけれど攻撃の精度がいいセリアは魔力弾をオークの顔にぶつけるとかの支援に専念する方が効果的だということは、素人でも分かるよなぁ。
……そして、リゼル。
ゴブリンとの戦いは経験しているけれど、ゴブリンは成人男性よりはかなり小柄だ。10歳のリゼルよりは少し大きいけれど……。
それに較べて、オークは巨体だ。威圧感がまるで違う。
その迫力に気圧されて、身体が動かなくなっても仕方ないだろう。
何せ、まだ10歳の女の子なんだぞ……。
でも、リゼルには戦闘力がある。セリアを上回る、戦闘力が……。
魔力容量はごく普通……10歳としては少し多い部類……だけど、一度に放出できる魔力量が多い。
……つまり、タンク容量は普通だけど、ホースの直径が大きく、太い、というわけだ。
それが意味することは、魔法の威力が大きい、ということだ。
その分、魔力切れが早いが……。
物理職である前衛なしの、魔術師ふたりだけのパーティとしては、互いの欠点を補い合っていると言えなくもない。
まあ、とにかく、リゼルの攻撃はオーク達に対して効くらしいんだ。
……動揺せず、普段通りの力が発揮できれば、だけどな。
それと、セリアのような精密な魔力操作はできないから、ちゃんと狙ったところに当てることができれば、ってことと……。
「そろそろ来るわよ。攻撃用意……」
あ、さすがに時間切れか。
オーク達も、こっちが罠や伏兵を用意しているわけじゃなく、ただの不時遭遇に過ぎないということを理解したのか、にたにたと下卑た笑いを浮かべながら、ゆっくりと接近し始めた。
まあ、こっちが逃げる素振りを見せていないから、恐怖で固まってしまい動けないとでも思ったか……。
そして連中は、セリアとリゼルに視線を集中させており、俺は完全に無視されている。
そりゃそうか。小柄な俺は肉が少なくて食いでがないだろうけど、セリアとリゼルは人間、雌、子供と、『柔らかくて旨い肉』の3大条件を全て兼ね備えているんだ。
……オマケに、逃げ足が遅い。
逃げ足が速そうな俺なんか、完全無視されて当然だよな。
これだけ近付けば、コントロールが悪いリゼルでも外すことはないだろう。
そしてただ魔力塊をぶつけるだけの攻撃だから、詠唱とかは必要ないらしい。
ゆっくりと近付いてくる巨体のオークは、的としての難度はかなり低い。
「私は左、リゼルは真ん中。2撃目は、私が右、リゼルは残ったヤツ。
フェンは、私達の直衛よ。いい?」
「「了解!!」」
ふむ、狙いが粗いリゼルに真ん中のを撃たせれば、もし外れても左右のヤツに当たるかもしれないか。
そして2撃目は、残ったヤツを狙う。自分が無傷であろう右のオークに確実に当て、リゼルはもし初弾が中央のに当たっていればセリアが初弾を当てた左のに追加攻撃を。外していたら、再度中央のを。その選択は、リゼルに判断を任せたわけだな。
そして遠隔攻撃の手段がない俺は、万一に備えてふたりの護衛役。
……いい判断だ。
「撃て!」
バシュッ!
バシュッ!
セリアの号令で放たれたふたつの魔力弾は、それぞれが狙った目標に命中した。
……まあ、これだけ近ければなぁ……。
それに、相手はゆっくり歩いていた上、こっちに向かっていた。……つまり、射線上から外れないワケだ。静止目標に次ぐ狙いやすさだよな。
セリアが撃った魔力弾は、狙い通り、左のオークの顔面に。
リゼルの方も、中央のオークの胸部に命中した。
胴体より小さい上に動きが大きい頭部に正確に当てるとは、さすがセリアだ。
……でも、威力が小さいから、即死攻撃とはならない。
痛みと、目をやられたのか、その場に立ち止まって派手に暴れているけどな。
リゼルが当てた方は、顔面に較べると防御力が高い胸部だけど、リゼルの攻撃力はセリアを大きく上回る。
なので、貫通して即死、とは行かないものの、同じくその場で苦しんでいる。
そして残った無傷のヤツが、さすがに危機感を抱いたのか、姿勢を低くして全力で突っ込んで来た。
でも、それを見越しての、自分の第2撃は右のオークを、というセリアの指示だ。
いくら姿勢を低くして走ろうが、自分に向かって直線的な動きをするデカい標的なんか、セリアが外すわけがない。
バシュッ!
1撃目と同じく、顔面に命中!
こっちに向かって走っているのだから、腕で顔を護ることはできなかったらしく、剥き出しのままだったからね、顔面……。
着弾の衝撃と、視界を奪われたために、オークが前のめりになって派手に転倒した。
……よし、貰った!!
立ち止まっている2頭には、リゼルとセリアが魔力弾による攻撃を続けるだろう。
だから、俺はコイツをいただいて、活躍しないとな。
俺はセリアの護衛、使い魔なんだから!




