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初恋のお姉さんが「〝何もしてない〟のに彼氏に捨てられた」と泣きついてきたので、保護してしまった  作者: シゲ ノゴローZZ


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第3話 即落ち

「手毬姉ちゃん。エアコンの温度下げてあげるから、話を聞いてくれるかな?」


 なんで俺が譲歩しなきゃいけないんだろうか。俺としても暑いから温度下げるのは別にいいんだが、なんか情けない気がする。もうちょっと強気に出てもバチは当たらないはずなのに、これが惚れた弱み? いや、惚れてしまった弱み?


「聞く聞くー」


 俺の言い方が悪かったのかな? 今のは、寝っ転がって漫画を読むのをやめろって意味なんだけど、そんなに分かりづらかったかな? まあいいや、もう聞いてくれたらそれでいいや。


「手毬姉ちゃんって、なんで彼氏さんと別れたの?」

「うぇー……。傷心の乙女にそれ聞いちゃう? 健志君、大人っぽくなったと思ったのに、まだまだだねー」


 よかった、ちゃんと俺の話を聞いてくれてるみたいだ。俺の話に対するリアクションは、尻を引っ叩いても許されるものだけど、聞いてくれただけで及第点だよ。それにしても、初恋の相手に対する評価がここまで速攻で下落することある? 前科ついたわけでもないのに(このままいくと俺の方に前科つきそうだわ)。


「俺にとっても聞きづらいことだけど、大事なことだからさ」


 同情の余地がどこまであるのか今のうちに知っておかないとな。追い出した後で、やむにやまれぬ事情が発覚したら後味悪いし。


「……さっきの訂正させてもらうわ」

「え?」

「……大人になったじゃん。健志君」


 っ! な、なんだ? 言ってることと、その意味深な表情の意味はサッパリ分からんけど……何よりも……俺のこの胸のトキメキはなんだ? 恋した直後のそれだったぞ? くそっ、やっぱり惚れた方の負けなんだな。不意に意味深な微笑みを受けただけで動揺してるんだから、この先が思いやられるぞ。


「どういう意味かな?」

「はぁ……。なーんでそこで聞き返しちゃうかなー? やっぱり子供だねー」


 あれっ、なんか知らんけど落胆されてる? てっきり落胆の権利は、俺にしかないものだと思ってたんだけど。


「……で? 結局なんで別れたのさ」

「〝捨てられた〟ね」


 違うよ、別れたんだよ。手毬姉ちゃんの彼氏がどんな人か知らんけど、悪く言いたくないよ。だって被害者だもん、彼。そりゃアレだよ? 失恋のショックでこんなぐうたらになったって言うなら、仕方ないよ? いや、居候してる以上認められないんだけど、ある程度は俺も我慢できるよ? でも絶対に違うじゃん。誰がどう考えたって、これが別れた原因じゃん。


「そういう表現はよくないよ。向こうにも事情があるんだし」

「彼女が『別れたくないよー』って泣いてるのに、考え直さなかったんだよ? それは捨てられたって表現で間違ってなくない? 私、変なこと言ってる?」


 姉ちゃん、本当にやめて。俺にとって手毬姉ちゃんは憧れのお姉ちゃんなんだよ、子供にとって六歳上の女子は大人なんだよ。そんな貴女が〝自分に都合の悪い部分だけ徹底的に隠す〟っていうクソ女あるあるをしないでほしい。俺の知ってる姉ちゃんはそんな情けない生き物じゃないよ。もうさんざん嫌な形で知らない姉ちゃんを見てしまったけど、それでもやめてほしい。


「じゃあどうして別れ話になったのかな?」

「だーかーらー、何もしてないって言ってるじゃん」

「……何もしてないから捨てられたんだね、なるほど」

「むっ……」


 ん? 急に立ち上がってどうしたの? 履歴書でも買いに行くの? プリンターあるから、わざわざ買いに行く必要は……ちょっ……。


「姉ちゃん、苦しっ……」

「いやー、やってみたかったんだよねー」

「なっ、何をっ……」

「何って、これだよ、ヘッドロック。弟がいたらこれで言う事聞かせたいなーって、常々思ってたんだ」


 どういう願望? 世の中の女子ってそうなの? そういうこと考えて生きてるの?


「ほれほれ、お姉ちゃんにゴメンなさいは?」


 まともに喋れないです。喋れても謝罪だけは絶対にしないけど。というかこの人、本当にスタイルだけはいいな。漫画とかアニメでよく見る『せっ、背中に柔らかい物が当たってるよ!』ってヤツじゃん。最高のシチュエーションのはずなんだけど、お姉ちゃんのヘッドロックが殺人技と見紛うほどの威力だから、感触を楽しむ余裕なんてない。っていうか多分これヘッドロックじゃない! チョークスリーパーだよ!


「おやおや? 顔が真っ赤だよー? スケベー」


 たしかに俺はスケベかもしれんけど、真っ赤な理由は別にあるんだよ。チョークスリーパーは基本的に抜けられない技だとは聞いていたけど、女性の力でも凄い威力が出るんだな。待って、血管きれそっ……。




 呆気なく落ちた俺は、姉ちゃんの泣き声で意識を取り戻した。膝枕という役得を堪能すべきか、顔に涙と鼻水を垂らされた怒りでブチギレるべきか、どっちが正解なんだろうな。とりあえず今日中に履歴書と職務経歴書を書かせることが確定した。


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