第25話 俗物
一切肌を出していない素人配信者が人気なことが理解できなかったので、時間を惜しみながら姉ちゃんのしょうもない配信を確認してみた。なるほど……そういうことか。どうやらダメ人間の独特な理論が受けてるらしい。常人には思いつかないようなクソみたいな理屈が、リスナーのツボを刺激するらしい。なんだよ『男の子にとって女の子とのデートはメリットしかないわけだし、女の子がデートに五分遅刻してもそれは遅刻にカウントしちゃダメ、五分は別に遅刻じゃないから。つまり女の子が十分遅刻しても、それは五分の遅刻ということになるんだよ。五分の遅刻は遅刻にカウントされないから、十分の遅刻は問題なし』って、無敵すぎるだろ。
まあ、どこがウケてるかは分かった、分かったけど……。
『疲れたから一時間ぐらいお昼寝するねー』
なんで寝てる姿を映すだけで視聴者が群がってくるんだ? 美人は寝顔もキレイだけど、だからってこんなのを一時間も見守り続けるのは異常だって。しかもなんで投げ銭してんの? 寝てるがゆえに反応してもらえないんだよ? 投げ銭って反応を楽しんだり、認知してもらったり、そういう目的でするもんじゃないの? ここまでくると怖いんだけど。
「自分で稼げるお嫁ちゃんが手に入ってよかったわね」
「母さんはこれを認めるの? こういう人が自分の一族になっていいの?」
「世の中は稼いだ者勝ちなのよ」
その理屈は分かるんだけど、誉れというか世間体というか、人としてどうなの?
「こんなの続かないって」
「だからこそ様子を見てるんじゃないの」
「いや、一年様子見るとして、その間上手くいったとしても、一年と一ヶ月後には衰退してるかもしれないよ?」
「そんなのサラリーマンも一緒よ、栄枯盛衰って言うでしょ」
詭弁はやめてください、結婚って人生のターニングポイントなんですから。
はぁ……姉ちゃんも大概だけど、母さんも大概だな。父さんに相談しても『母さんが〝カラスは白い〟って言えば、カラスは白になるんだ』と、日本一情けない返答をされたし、俺はもう四面楚歌だよ。
「で? そういうアンタの株運用は上手くいってるの?」
「今のところは黒字だよ、元手が少ないから少額だけど」
「手毬ちゃんに負けないように頑張りなさいよ、サラリーマンなんていつまでもできる仕事じゃないんだから」
おかしいな、明らかに逆のはずなんだけど。サラリーマンって今こんなに肩身が狭いの? 俺ってこの家の恥なの?
「姉ちゃんの人気は長続きしないと思うけどなぁ、炎上きっかけで伸びたわけだし」
「大丈夫よ、天然なところもウケてるんだから」
「無理にでも働かせた方が……」
「それは機会損失よ、億万長者になれるかもしれない子が時給千円かそこらで働くなんてありえないわ」
〝なれるかも〟とか言い出したら、それは全人類に当てはまるよ。誰だって天文学的な確率でなれるんだから。
「なんで母さんは手毬姉ちゃんを働かせようとしないの? 山吹色のお菓子でも貰ったの?」
「袋麵を作るのさえ面倒くさがる子が仕事なんてできるわけないじゃないの。配信という天職があるなら、それにすがりつくべきよ」
ああ……配信者として価値を見出したというより、社会人として無価値だと判断した結果か、納得だわ。
「汚れた水にしか住めない魚だっているのよ」
不良とかヤクザを擁護してる人みたいなこと言い出したよ、この人。
「母さんも大概失礼な人だよね」
「皿洗いもまともにできない子を連れてきたアンタが悪い」
「それを俺のもとに送り込んだのは貴女ですよ? おかげでアパート追い出されたんだからな」
「私も知らなかったのよ、子供の頃にアンタの面倒を見てくれたしっかり者っていう認識だったから。というか一ヶ月以上同棲してたなら、ちゃんと躾しなさいよ」
「六歳も上の異性を調教できんって。ましてやアラサーだよ? もう人格形成が済んでるって」
「人間は成長する生き物よ、三十歳未満なんていくらでも変化の余地があるわ」
あれっ、なんか俺と母さんギスギスしかけてない? いかんな、実家を追い出されたら俺の人生完全に詰むんだぞ。
「俺からも家事を覚えるように言ってみるから……」
「勘弁してちょうだい。無駄に仕事が増えるのって、作業量以上の負担があるのよ」
ああ、精神的な苦痛ね、分かるよ。必要な苦労ならまだ頑張れるけど、しなくてもいい苦労ってやる気下がるよね。
「母さん的にはどうしたいの? 姉ちゃんを追い出したいの?」
「今追い出したら、孫に会わせてもらえなくなるかもしれないじゃない。それに億万長者になった時、おこぼれに預かれないわ」
俺の母さんって案外俗物だったんだな、てっきり『ダメな子ほど可愛いのよね』みたいな感じで姉ちゃんを受け入れてるもんだとばかり。




