第24話 ネットビジネスへの幻想
「重いので気を付けてください、それでは」
「はい、ありがとうございました」
不思議だよなぁ、なんで未だに貢物が届くんだ? お姉ちゃんは配信で『年下の幼馴染と同棲してます』って公言してんだよ? エンタメ系の配信者ならまだしも、手毬姉ちゃんなんて女性という性別を活かしてるだけの配信者だぜ? 異性との絡みなんて許さない派ばっかじゃないの? 公言してなくても『女性配信者のギフトなんてどうせ彼氏が欲しい物だぞ、お前らそれ男に貢いでるのと同じだぞ』って因縁つけられる世界なのに。
「手毬ちゃんのおかげで缶コーヒーには困らないわねぇ。むしろ多すぎて困るぐらいだわ」
「あんまりよくないと思うんだけどなぁ、こういうの」
配信なんて見てもらえるだけでありがたいのに、ギフトを貰い続けるなんて罪悪感が湧くよ(俺の考えが古いのか?)。
「男が女に貢ぐのは人類史を考えれば普通のことよ」
何が人類史だよ、学がないくせに。まあ、〝物理的に〟とか〝科学的に〟って言う人達の大半は、物理とか科学を理解してないだろうし、そこにケチをつける方がおかしいのかもしれんけど。
「それは見返りがあるかもしれないからでしょ? 姉ちゃんに貢いだって、なんの恩恵も得られないよ?」
「自己満足できるでしょ、それで日々のモチベが上がるならウィンウィンよ」
そうかなぁ、姉ちゃんが一方的に勝ってる気がするんだけど。
「んで、姉ちゃんの家事スキルはどうなの? 上がった?」
「家事をする時間を配信に充てて、その金で家政婦を雇った方が賢いわ」
なるほど、たった一週間で見込み無しと切り捨てた感じね。まあ、あの姉ちゃんに家事をやらせてるだけでも上等なんだけど。
「なんていうか気持ちの切り替えが全然できないのよ、手毬ちゃんは」
切り替えとな?
「ほら、アンタだって仕事を面倒だと思いながらも、出社する頃には気持ちを切り替えてるでしょ?」
「あー、開き直りに近いけど、なるべく仕事に対する苦手意識とか拒絶反応を抑えてるね」
「普通の人間ならそれができるのよ、皿洗いをする前は面倒でも、いざ一枚洗いだしたら最終的にシンクまで磨き上げるわ」
シンクは気分次第だけど、言ってることは分かる。最初の一枚を洗うまでは腰が重たいけど、いざ洗いだしたら普通に全部洗いきるもんな。まあ、俺はほとんど洗い物が出ない生活を続けてたからアレなんだけど。
「せめてキリのいいところまで頑張ろうっていう意思がまるでないのよね」
「そっか……」
もしかして病気なのかな? 物臭にも限度があるんだけど。
「というわけでアンタもなんかのスキルを身に着けて、在宅でできる自営業を始めなさい」
「うん?」
「AIを勉強すれば大金持ちになれるんでしょう? 頑張ってみなさいよ」
「はい?」
「大丈夫よ、手毬ちゃんでもネットで稼げてるんだから、アンタもできるわよ。他の二人よりも頭良いんだから」
「いや、アイツら(兄弟)と比較すりゃ誰でも頭良いだろうけど……」
母さんは何を言ってんの? ネットでビジネスしてる息子に会社で働けって言うのはまだ分かるけど、逆パターンって中々なくない? 普通の親って、子供が正社員で働くことを望むもんじゃないの? っていうか、無知と言えど、さすがにネットビジネスを舐めすぎじゃない? 姉ちゃんがなまじ成功しかけているからって、幻想を抱きすぎじゃない? 母さんの世代って、自分達が知らない稼ぎ方をする若者に偏見を抱く世代じゃないの?
「ほら、図書館でも行って勉強してきなさい」
「図書館にあんのかな? AI関係のビジネス本なんて」
さすがにまだなさそうじゃない? っていうかそもそもネットビジネスの本なんか置いてんの? 経済学の本ならいくらでも置いてそうだけど。
「じゃあ本屋でも行ってきなさい。ほら、町内会で貰った図書カードあげるから」
「いや、別に……」
「いいから行った行った」
なんか知らんけど、図書カード片手に家から追い出されたんだが? せっかくの休日なのに、家から追い出されたんだが?
待ってくれ、一体何が起きてんの? なんで母さんがこんな急にトチ狂ったこと言い出したの? いや、我が子に近所の娘さんの世話をさせる時点でトチ狂ってる人ではあるんだけど、さすがに正社員で働いてる息子を自営業の道に行かせようとするのは一線越えてるって。
……あの、これ大丈夫だよね? どっかで母さんが目を覚ますか、俺が実家を出るかの二択だよね? 気付いたら仕事を辞めてるとか、そんな転落人生を歩むハメにならんよね?




