第23話 帰省(寄生)
ネットに疎い俺だが〝こどおじ〟という言葉ぐらいは知っている、たしか実家暮らしの男のことだろ? 今の俺ってこどおじに含まれるのかな? 交際していない幼馴染のお姉ちゃんと一緒に実家で暮らすことになったんだけど。
「自分の家だと思ってくれていいからねー」
「ありがとうございます、お義母さん」
厚かましさと順応力を兼ね備えてらっしゃる。母さん、あんまりお姉ちゃんを甘やかさないでくれるか? ホームレスにタバコを一本恵むと会うたびにタカってくるようになるし、フリーターに金を貸すと定期的に無心される、弱者に施してもいいことなんてないんだよ(一度でも断ると今までの施しがなかったことになり、冷血漢呼ばわりされるらしいな)。
「いいのよー、薄情な息子達が三人全員出て行って寂しかったんだから」
なんか急に刺されたんだけど、俺らなんも悪くなくない? 子供はいつか旅立つものなんじゃないの? 友と一緒に線路を歩いていくもんじゃないの?
「ところでアンタ、電化製品とかはどうしたの?」
「パソコンとか以外は売り払ったよ、二束三文にしかならんかったけど」
時間があればフリマサイトとかで高く売れたかもしれんけど、処分費かからなかっただけで御の字よね。まあ俺が本当に処分したいのは手毬姉ちゃんなんだけど。
「じゃあ再び家を出るまでだいぶ時間がかかるわね」
「……なるべく早く出るから安心してよ」
使い捨て家電と呼ばれてる安物メーカーで買い揃えるよ、どうせ姉ちゃんがしょうもないことしてぶっ壊しちゃうだろうし。
「一生居てくれてもいいんだけどねぇ」
「さすがにそれは……」
家と土地が貰えるならそれもワンチャンありだけど、どうせ両親がバーストした直後に兄貴が戻ってきて、家と土地を奪っていくのが目に見えてる。
「ガキを三匹生んだのに三匹とも野生に帰ってしまった私の気持ちが分かる? 父さんとの会話なんてほぼ全パターン網羅しちゃってるから、退屈でしょうがないのよ」
会話網羅って、どうぶつの森じゃねえんだから。というか独り立ちを野生に帰ると表現するな、人として扱ってくれ。
「さあ手毬ちゃん、今から家事をビシビシ仕込んであげるからね」
あっ、さすがに甘やかすつもりはないんだ。これを機に姉ちゃんが真人間に半歩ぐらいは近づけるといいんだけど。
「うえっ!? しょ、初日ですよ? 引っ越しから一ヶ月は荷解きに費やすのが相場じゃないですかー」
どれぐらい大規模だったら一ヶ月もかかるんだよ、っていうか荷解きと呼べる量の荷物ないだろ。それ以前にこれからお世話になる相手にそれを言える度胸が凄いわ、俺相手ならまだしも親だぞ?
「お仕事してないんでしょう? だったら家事ぐらいは完璧にできないと」
「家事は建志君が……」
「子供が生まれるまでは、専業主婦が家事をほぼ全てこなさなきゃダメよ。ゴミ出しや軽い掃除ぐらいなら旦那に任せてもいいけど」
母さん、言ってることは正しいと思うけど、それネットで言っちゃダメだよ? 変な人に袋叩きにされるから。
「いや、でも私は配信者として稼いでますし」
「炎上によるブーストなんていつ消えてもおかしくないわよ。最悪の場合、アンチだけが残ることになるわ」
あれっ、母さん案外配信者のこと分かってる?
「一定以上の稼ぎをキープできたら、そこで初めて家事の分担が許されるのよ。さあまずは洗濯の基本から叩き込んであげるわ」
「おたすけー!」
実家に戻るかどうか死ぬほど悩んでたが、無情にも引きずられる姉ちゃんを見て、俺の判断は間違いじゃなかったと確信した。さすがの姉ちゃんもこれで真人間に近づけるだろ、現役のベテラン主婦にスパルタ教育されるんだから。
あとついでに言うと、一生俺の実家に寄生するっていう事態も回避できそうだね。




