第22話 晒し上げ
予想通りと言うべきか、手毬お姉ちゃんの卒業アルバムやら住所やら、比較的致命的な個人情報がネットの海に晒された。姉ちゃん曰く、夜職の道にいった知人が犯人らしい(SNSの過去の投稿で特定できたらしい)。まあ、純粋な嫉妬ですわな。でも姉ちゃん、その人がやらずとも他の人が同じことをしたと思うよ。
「あっ、お母さんから着信だぁ。勘当したくせにー」
勘当したからこそだよ。追い出した娘が炎上して実家まで晒されてんだから、そら電話するわ。
「もしもし? お母さん?」
『……! …………!』
スピーカーじゃないからよく聞こえないけど、怒鳴ってることは分かる。俺が知ってるあの人は大きな声を出すようなキャラじゃないんだけど、さすがにここまでの狼藉をされたら平静じゃいらられないか。
「まあまあ、有名税だって」
やめなさい! 火に油を注ぐな! なんでこんなにナチュラルに人の逆鱗を撫でることができるの? 無神経なの? 危機感を司る神経が死んでるの?
「いやいや、私は犯罪なんてしてないって。え? なんで? なんでネットに顔と名前を出しちゃいけないの? いやいや、お母さんってば古いよー。あのねぇ、大事に育てた娘がネットにおっぱいを出す時代なんだよ、今は」
そう言われると凄い時代だなぁ……。俺は消費者側の人間だからそこまで意識がいかなかったけど、たしかにグラビアアイドルとかコスプレイヤーって、親からすればとんでもない職業だよな(多分身内がお金持ちの有名人になった嬉しさが勝つんだろうけど)。
「もー、それは住所を晒した人が悪いんだよー、私はあくまでも被害者なの」
それはそうなんだけど、一番の被害者は通話相手ですよ?
「まあまあ、私は建志君の要望通り露出ゼロだから安心してよ」
俺の要望……まあ、あながち嘘ではないな。でも俺の名前出さないでくれる?
「違う違う、この仕事は私の意思だって」
あっ、フォローしてくれてる。多分お姉ちゃんのお母さんは、俺の指示で配信をしてると思い込んでたんだろうな。っていうか仕事って…………いや、収益化の条件は達成したから、仕事と言えば仕事なんだけど。
「え? あー、じゃあ家を売っ払ったら?」
『…………ホ!』
あっ、多分今『ドアホ!』って怒鳴られたな。おそらく流れとしては『住所知られたせいで家凸が来てる』っていう苦情からの『家売り払えば?』だと思う。そりゃドアホだわ、いや、ド畜生だわ。
「大丈夫だって、私ももうすぐ大金持ちになるはずだし、家を売ったお金と合わせて新しいお家買いなよ」
『…………!』
「いやいや、配信者は夢ある仕事だよ? ムカキンさんなんて、とんでもない豪邸に住んでるらしいし」
『…………! …………!』
「見てるよ、現実は誰よりも見てるよ、もー! なんで私のやることなすこと否定するの? もうちょっと娘を信じてよ」
信じた結果がこれだから怒ってるんだと思いますよ。そして現実は全然見てない、先行者利益を得てるムカキンさんを例に出す時点で現実見えてない(彼の場合は先行者利益なしでも成功するだろうけど)。
「話にならないねぇ、お母さんったら…………はいはい、分かりましたよ。そこまで言うならもう実家に帰らないよ。念のために言っておくけど、私が億万長者になった時に手のひら返さないでよ? じゃあ、子供が生まれるまでさようなら」
言いたいことだけ言ってそのまま一方的に電話を切った。問題起こした上に逆ギレとは情けない限りだ。っていうか子供って……その……。
「さてと……気を取り直して配信でもしようかな」
向上心があるようで何よりだよ、炎上で手に入れた同時接続数なんてすぐに減るのが世の常なのに。
「うん、それはいいんだけどさ、荷物まとめてね」
「ふぇ?」
「大家さんから退去通知出てんだよね、俺ら二人」
「えっ?」
「何故かこのアパートにいるってところまで特定されててさ、ちょくちょくアパートまで凸来てるらしいんよ」
オートロックだから今のところ被害はないんだけど、管理者的には見過ごせないんだろうね。それにしても酷いよね、猶予二週間だよ? 大家さん曰く今回の件ではそこまでの強制力がないらしいんだけど、大人として自主的に出て行ってほしいとのことだ。逆らおうと思えば逆らえるんだけど、裁判になっても嫌だし、従うしかないよなぁ……。どうすんべ……会社で住所変更する時、なんか色々聞かれそうで嫌だな。
「建志君、お姉ちゃんはキミと一緒ならどこでも幸せだよ」
「……俺もだよ」
意地でも成功してよ? ここまで俺に迷惑かけてるんだから絶対に、高額納税者になってくれよ? そして俺と結婚して養ってくれよ、頼むぞ。
……無理だろうなぁ、この人じゃ。




