第10話 厄介払い
手毬お姉ちゃんの実家までお伺いした結果、俺の口座に五百万が入金された。なんだろう、そこまでして娘を追い出したいのか? ニート息子ならまだしも、娘は大事にされるもんじゃないのか? 女性って自己都合で仕事辞めた場合でも『仕事でメンタル病んだぁ』って実家に泣きつけば、ずっと食わせてもらえるもんじゃなかったのか? 俺に五百万渡す余裕があるなら、実家で養ってくれよ。俺に五百万も渡したら贈与税で五十万以上損するじゃん。
っていうか手毬お姉ちゃんに渡さない辺り、本当に信用がないんだな。お姉ちゃんに渡せば、贈与税五万円ぐらい安くなるだろうに(なんなら分割して手渡しすれば、まずバレないだろうし)。
とりあえず報告だけしとくか(最低でも二年は実家に近づけないように頼まれたことは、伏せるとして)。
「お姉ちゃん、よく聞いてほしい。午前中にお姉ちゃんのご両親に会ってきたんだけどさ…………」
「っ! ど、どっち!?」
…………? どっちって……ご両親だよ? パパとママだよ? 片方じゃなくて、両方だよ?
「私をクーリングオフしようとしたのか、それとも結納に行ったのか、どっち?」
質問の意図が汲み取れていないことを察してくれたらしいけど、これはこれで汲み取れないよ。前者は分かるんだけど、後者はどういうこと? いくら初恋の相手といえど、ぐーたら三昧のニートと結婚なんかするわけないじゃん。そりゃもちろん今でも好きだけどさ、結婚はさすがに無理! 一人暮らしでも厳しい時代に、ニートと結婚は無理!
「前者だよ」
「えー!? 冗談で言ったのに!?」
その発言の方がよっぽど冗談っぽいよ。
「だってお姉ちゃん働かないし」
「うー……でも私、美人だし……」
だから何よ? 美人を無条件で養うのは、成金かバカの二択だよ。俺はどっちでもないんだよ、ごめんね。
「美人でも仕事はしなきゃいけないんだよ」
「えー? 港区女子とか私より容姿悪いのに豪遊してるじゃん」
「そうかもしれないけど、ほとんどが悲惨な末路だと思うよ」
「そうかなー?」
だって遊び相手としての優秀さと、結婚相手としての優秀さって、全然違うんだもん。たとえば容姿一つとっても、遊び相手なら最終形態(メイク、ファッション、整形など)が良ければなんでもいいけど、結婚するなら素の容姿が重要なんだよ(だって整形したところで遺伝子は変わらないし)。まあそもそも、結婚においては容姿って優先度低いけど(早婚の場合はそうでもないだろうけど)。
でさ、港区女子って結局、結婚相手としての魅力が皆無なのよ。いや、結婚相手にこだわらないのであればいくらでも結婚できるんだろうけど、遊んでくれてた成金達と結婚することは基本的に無理だよ。お互いに本心から愛し合ってたならできるかもしれんけど、そうでない場合はポイよ。一般的な男性だったら情が移るかもしれないけど、自力で成功した人間はアホ女との結婚を避けると思うんだ。大体だな……。
「健志君?」
っとと、ついつい考え込んでしまった。やっぱアレだな、俺も弱者男性寄りの人間だから、一時的とはいえ大成功してる港区女子へのヘイトが高いんだろうな(悲惨な末路ってのも、半分ぐらい願望入ってるし)。
「とにかく、美人だから仕事しないってのは通じないよ。美人であることを利用して稼げるなら、話は別だけどね」
「…………え? 稼いでたじゃん、下着当てギャンブルで」
あっ……。いや、それも美人であることを利用した稼ぎに違いはないんだけど、そういうことじゃなくて……いや、そういうことなんだけど、なんか違うんだよ。
「美人じゃなくても若い女性なら、その方法で稼げるよ。その方法で稼げない女性の方が珍しいから」
というかその方法で稼げないレベルの醜女は、居酒屋のホールで雇ってもらえないと思うよ。
「でも美人の方が有利じゃん」
「それはそうかもしれないけどさ、俺が言ってるのはアイドルとかインフルエンサーの話だよ」
「なるほど……。よしっ! この年からアイドルはさすがに厳しいと思うし、ネット活動頑張ってみるね!」
いや、ちがっ……そういうことじゃなくて……。ああ、もういいや、うん。
「どうしても働きたくないならやってみれば? ただこのアパートで配信活動とかはさすがにやめてね」
「えー? よその部屋の物音とか聞こえてこないし、防音大丈夫だって」
「……本気でやる気?」
「うん! こう見えて人の心を掴む自信あるんだぁ」
彼氏の心さえ掴めなかったのに? その恵まれた容姿で見捨てられたのに? 八年間バイトとか簡単な家事さえできなかった人間が、群雄割拠の配信活動で生き残れるとでも?
「別に止めないけど、女の武器は半分ぐらい封印してね」
「ふぇ?」
「顔を出すのは好きにすればいいけど、露出とかガチ恋営業で釣るの禁止ね」
「えー!? 不利じゃん!」
「……VTuberになれば? 声可愛いし、歌も上手いでしょ?」
上手いと言っても、子供の頃一緒にカラオケ行った時の記憶だから、あんまり覚えてないんだけど。
「スッピン無加工でも港区女子より美人な私がVに……?」
なんでいちいち港区女子と比べんだよ、実物見たことあんのかよ。多分だけど、なんやかんやでその辺の女性よりは綺麗だと思うよ?
「リスクを考えたらVの方がいいと思うよ?」
本当にリスクを考えるなら普通に働いてほしいけどな(うっかり失言して特定されそうだし)。
「んー……顔出しより収益減ると思うけど、健志君がそこまでいうならVで大成功して、健志君を養ってあげるかー」
「……期待してるよ」
絶対失敗するわ。だって舐めてるもん、明らかに。配信界隈に明るいわけじゃないけど、あんなのは元から才能ある女性が必死に努力して、そこに運が乗ってようやく成功するって世界でしょ(男性の場合はもっと厳しいだろうな)。
まあ、挑戦するためのお金はお姉ちゃんのご両親から貰った金から捻出するし、好きにすればいいさ。どうせ普通に働くのもハードモードなんだから、それだったら意欲的なハードモードの方がマシだろ。




