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ゴーストバスターズ  作者: そら
第一章 ようこそ、地獄へ
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3話 入学式

 警告音がするどく講堂に響き渡り、瞬く間に場内は薄闇うすやみに沈んだ。

 

 ざわめきが引いていくのと入れ替わるように、中央ステージの幕がゆっくりと引き上げられ、その奥に隠されていた光景が静かに姿を現す。


 やがて一条のスポットライトが舞台を射抜いぬく。

 

 その光の中心へ、ひとりの老爺ろうやが歩み出た。


 足取りは重くも揺るぎなく、長い年月を踏みしめてきた者だけが持つ確かな気配を帯びている。

 彼は教壇の前に立ち、たかの目のように鋭い眼差しで観衆を見渡した。


 年の頃は六十代半ばといったところだろう。


 刻まれたしわと落ち着いた面差しは歳相応のものだったが、その身体は常人のそれとは一線をかくしていた。


 黒いスーツ越しにも、なお隠しきれぬほどに盛り上がる筋肉は、日々の鍛錬の積み重ねを雄弁ゆうべんに物語っている。

 老いと力強さ――相反する二つの要素をあわせ持つその姿は、どこか異様でありながら、不思議な威圧感を放っていた。


 私達新入生の様子をあらかた見終えた老爺は、ふっと柔和な笑みを零し、先程の鋭い眼差しを温かな眼差しに変えた。


「諸君、初めまして。いや、最終面接のときに会ってるから二度目ましてかな? 私は三つ葉女学院理事長――金山純かなやまじゅんと言う。以後お見知りおきを」


 金山純。


 この学院の理事長でありながらも、政府が創設したゴースト対策研究チームの一員であり、その筆頭者である。


 ニュース番組にたびたび出演しており、ゴーストの脅威や見解などを語っており、私も良く目にしたことがある。

 と言うか、実際、最終面接のときに直接会った。

 

「さて、今日からこの学院で過ごす君たちは日本の未来を切り開く希望だ」


 金山理事長は先程までの静謐せいひつさを保っているものの、その奥底に潜む意志の強さは滲み出ていた。


「知っての通り、現在日本はゴーストの脅威により、暗雲が降りかかっている。本来ならその暗雲を払いのけるのは他ならぬ我々大人の務めだ。だが、現実は非情で、諸君ら若者の力に頼るほか打開策が無いのだ。すまない」


 そう言って、金山理事長は深く、深く、一礼する。その一礼は、形式ではない。

 逃れようのない責任と悔恨かいこん、そのすべてを己が背に引き受ける覚悟の現れのように思えた。


「戦いそのものは支えられぬが、それ以外の全てにおいて、学院は諸君らに最大限のサポートを尽くすと誓おう!」

 

 力強いその言葉は、張り詰めていた不安を、わずかに、しかし確かにほどいていく。


「さて、老いぼれの長話に付き合わせるのもしのびない。このあたりで、私の役目は終えるとしよう。ただ、最後に、希望となる諸君らの決意を聞かせてもらいたい。諸君らを代表して――立花焔たちばなほむら君! 壇上へ」


「はい!」


 静まり返る空気を凛々《りり》しい一声が断ち切った。


 立花焔と呼ばれた少女は、背筋をピンと伸ばし、堂々とした足取りで歩みを進める。

 壇上へ上がり、理事長と静かにすれ違うとそのまま教壇の前に立つ。

 

 その少女の赤い髪は壇上の光を浴びることで、鮮烈せんれつに輝き、まるで小さな太陽がそこに顕現けんげんしたかのようだった。


 切れ長の双眸そうぼうは鋭く、近寄りがたい威圧を宿しながらも、その奥に揺らぐことのない芯の強さをたたえている。 

 その一方で、左右に結われたツインテールが、彼女の厳しさにわずかな柔らかさを添えている。その対照が、かえって彼女という存在を際立たせていた。

 

 鋭さと愛らしさ――相反する二つの気配が、不思議な調和をもって同居している。


「暖かな日差しに包まれ――」


 少女は、よどみなく言葉をつむいでいく。

 声は澄み、よく通り、一切の揺らぎもない。その堂々たる様は、とても同年代とは思えなかった。


 ――すごいなあ。


 心の中で、思わず呟く。


 もし私だったら、こんな大勢の前で演説すれば、緊張で声が震えたり、裏返ったりするに違いない。


 彼女の、大人顔負けの精神力に感心しているうちに、気づけば演説は終わっていた。


 ぱち、ぱち、ぱち――。


 やがてそれは大きな拍手となり、講堂内に雨のように降り注ぐ。彼女が席に戻るまで、その喝采かっさいは途切れることなく続いていた。


「ありがとう。素晴らしい演説だった」


 金山理事長は短くそう告げると、入学式の終了を宣言し、静かに壇上から姿を消したのだった。

 




          *






 入学式が終わり、私たち新入生は校舎へと流れていく。


 その道すがら、私は凜ちゃんとクラスを確認し合った。クラス分けは掲示ではなく、合格通知に記載されている形式だ。


 入学式でせっかくの、しかも初めてできた友達なので、一緒のクラスがいいなあ、と願いながら凜ちゃんに聞いたところ――なんと幸運にも私と同じAクラスなのだと言う。


 私と凜ちゃんは二人して喜びを露にしたが、凜ちゃんの方が一枚上手で、目元にうっすらと涙が浮かんでいた。


 そんなやり取りをしているうちに、流れの終着点である校舎に辿り着く。


 一歩、足を踏み入れた瞬間、空気が、がらりと変わった。


 まるで童話の世界に迷い込んだかのような、あるいは異国の城に招かれた姫君にでもなったような、不思議な感覚。


 そのせいか、自然と背筋が伸び、無意識のうちに、ここに相応しい振る舞いをしようとしている自分がいた。


「ふふ」


 隣から、控えめな笑い声。


 視線を向けると、凜ちゃんが口元に手を当て、楽しそうに微笑んでいた。


 ――見られてた。


 その事実と、周囲を見渡せば他の新入生たちは誰一人としてそんな"お姫様ごっこ"をしていないという現実の、二重の恥ずかしさに襲われ、しばらくの間、私は心の中で悶える羽目になった。


 ……まあ、それはそれとして。


 玄関右手の階段を上ると、まず目に飛び込んでくるのはラウンジだった。

 ガラスの机やソファがゆったりと配置され、一部の壁は大きな窓へと置き換えられている。


 その向こうには、色とりどりの花々が咲き誇り、さらに奥にはドーム状の建物が静かに佇んでいた。


 階段とラウンジの境界を引くように、横に長い廊下が一本、まっすぐに伸びている。


 新入生たちは、その見えない導線に導かれるように右へと進み、自然と列を成していく。

 私と凜ちゃんも、その流れに身を委ねた。


 やがて、『1-A』と記されたプレートを掲げた教室の前に辿り着き、私と凜ちゃんは二人揃ってその教室に身を投じた。


 席順は特に決まっておらず、新入生たちは各々好きな席に腰を下ろし、私と凜ちゃんもそれに倣う。


 一番後ろの窓側の席に私が着き、凜ちゃんは私の右隣の席に腰を下ろし、取り留めのない談笑をしていると、


 ――ガラガラガラ。


 前方の引き戸が開かれると同時に、教室内の穏やかな空気が引き締まった。


 扉から現れたのは一人の女性であった。

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