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つつがなく 〜湯灌にまつわる二十の小話〜  作者: 藤紫


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8話目『窮屈』

お棺には色々な種類がございます。

一般的なものとしては、ベニヤ板へ木目プリントを貼り付けたものでございます。段ボールへ入った状態で斎場へ届きますので、地下倉庫や霊安室の片隅で組み立てるのでございます。

もちろん、高級なお棺もございます。

白い布張りのお棺。内側にはベルベット調の生地が貼られ、枕元にはレース飾り。高価なものになりますと、一般的なお棺が何十本も買えてしまうお値段になります。


その日、私どもが地下で組み立てていたのは巨人棺でございました。

故人様は恰幅の良いお爺様。通常のお棺では少々難しいとのことで、営業担当がこちらをおすすめしたようでございます。

地下倉庫で段ボールを開き、木工用ボンドを継ぎ目へ流し込みながら組み立ててまいります。普通のお棺より一回り大きく、板も重たいため、持ち上げるだけでも一苦労でございました。


『これ、腰やるんだよなぁ』


先輩がそうぼやきながら、お棺の蓋を持ち上げておりました。


なんとか組み上がった巨人棺を台車へ乗せ、ご遺族様のお待ちの式場へ運び込みます。

その姿を見たお孫様が、不満そうなお声を上げられました。


『え……こんなお棺なの?』


以前、お婆様が亡くなられた際には、随分立派なお棺だったそうです。

白い布張りで、お棺の中もベルベットのような生地になっており、とても華やかだったとのこと。

対して今回のお棺は、大きいとはいえ木目プリントの一般棺。豪華とは言い難い見た目でございます。

喪主様が困ったように口を開かれました。


『斎場の方に言われて……身体の大きい方は、このお棺じゃないと難しいって……』


ご親族様方の視線が、故人様のお腹周りへ向きます。


『故人様が窮屈な思いをなさいますと、お身体にもよろしくございませんので』


私どもがそう説明いたしますと、皆様、一応はご納得くださいました。

もっとも、お孫様だけは最後まで少し釈然としないご様子でございました。

施行の最中、私はぼんやりと、


(死ぬ時に太ってると棺も選べんってことを、肥満外来の掲示板に貼ったらどうなるかなぁ)


などと取り留めのないことを考えながらも、表面上は厳かに施行をつつがなく進めていきました。

それでは、次の斎場へ参ります……。

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