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つつがなく 〜湯灌にまつわる二十の小話〜  作者: 藤紫


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5/20

5話目『糧』

どんな職業も売り上げは大切です。生きている人には糧が必要でございますから。

葬儀は人が亡くなった後、葬儀社の営業担当がご遺族様と相談をして決めていきます。例え深夜に亡くなっても、ご遺族様が看病疲れで疲弊していようとも、眠れない夜を幾日も過ごしていようとも。


『こういった祭壇がございまして…』

『お棺はこれなどがよろしいかと…』

『粗供養は皆様、こちらを選ばれる方が多いですね…』

『湯灌をされますと、故人様も喜ばれるかと…』


ご遺族様は


『こういったことはよくわかりませんので、お任せいたします。』


とおっしゃる方が多くいらっしゃいました。


営業担当は少しでも高く利益が上がるよう


『故人様のために』


という言葉の元、立派な式を挙げようと致します。


湯灌を行うことが決まりますと、営業から電話がかかってまいります。それこそ、深夜であろうと、入浴中であろうと、運転中であろうと。そこで施行のスケジュールを確認し、斎場から斎場までの移動時間を考慮し、


『〇〇時からでしたら大丈夫です』


と答えます。


『もう1時間早くできないの?』


と少し苛ついた声の営業。

なんとか調整して了承の意を伝えます。


(無理なスケジュールで先輩たちに怒られるかなぁ)


なんて考えながら、深夜2時過ぎの待機携帯を見つめました。

ご遺族様、ご会葬者様、そして故人様に満足していただけるよう、営業に苛つかれ、先輩に嫌味を言われながら時間に追われ施行をして参ります。


生きている人には糧が必要でございますから。

それでは、次の斎場に参ります……

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