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つつがなく 〜湯灌にまつわる二十の小話〜  作者: 藤紫


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3/20

3話目『最終試験』

湯灌部に入ってから3ヶ月ほど経った頃でございます。


「おう、わかった。今日の18時、〇〇斎場の霊安室だな。」


通話の終わった部長がスマホを机のうえに置かれ、こちらに向き直りました。


「前に言ってたあれ、今日やるぞ」

「あれって言いますと…」

「テストだよ、最終試験。〇〇斎場で18時からな。」


湯灌部に入って三ヶ月。

私はまだ、ご遺族様の前へ立たせてもらえず、運転や片付け、お棺の組み立てばかりしておりました。

施行のない待機時間は、新人同士で洗顔や洗髪、着付けや納棺を行ったり、宗派ごとの違いや斎場から斎場への最短ルートを覚えたりしておりました。顎の下の絆創膏は同期のカミソリによるものでございます。


先だって部長がこんなことをおっしゃられました。


「次、民生葬が入ったら、施行のテストするから。」


民生葬とは、生活保護世帯や身寄りのない方のためのお式でございます。

ですので、湯灌など付かないことも珍しくありません。この民生葬という機会を使って湯灌のテストをを行うそうです。


霊安室は静かでございました。 冷房は効いておりましたが、空気はどこか重たいままです。

「それじゃあ、始める。俺が喪主な、そんでほかのみんながご遺族。宗派は…浄土真宗。本来こっちが北だが狭いんで、あっち向きに設置。」

準備は慣れたもの、いつも通り行えております。安置台を引き出し故人さまに向かい手を合わせてから、洗体台へ移乗いたします。


「只今より湯灌の儀、始めさせていただきます。」


するとすかさず部長から

「湯灌の儀ってなんだよ。家が浄土真宗ってのは知ってたけど、なんかの儀式するの」

とちゃちゃが入ります。このテスト、口上や技術、立ち居振る舞いとともに、実際の施行で想定されるトラブルを再現しそれに対する対応力も見られるのです。


先輩方からも珍妙な行動を取られ、内心


(わざとやりやがって。そんなヤツ、いるか。ボケェ。)


と思いながらも表情は崩さず施行は終えました。


「時間は押したが、まあ、いいんじゃない。後片付けはよろしく。」


そう言って、部長は霊安室から出ていかれました。


故人様は孤独死とのこと。民生葬ですので、もちろん、湯灌は含まれておりませんでした。

(爺さん、ごめんな。あんたの”死”を勝手に使って。でもこれで、俺も人前に立てる。暮らしていける。)


本来なら、洗髪も化粧もされなかった故人様は、静かにお棺の中で眠っておられました。


それでは、次の斎場へ向かいます……

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