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つつがなく 〜湯灌にまつわる二十の小話〜  作者: 藤紫


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19/20

19話目『二千円』

自宅で夕飯を食べていると、待機携帯が鳴りました。


慌てて口の中のものを飲み込み、通話ボタンを押します。


『お疲れさま。明日午後二時から〇〇斎場で湯灌行ける?』


『明日の二時、十四時でございますね。確認いたします。』


シフト表を見返しますが、どう組んでも難しい状態でした。


『申し訳ございません。他の施行が入っておりますので、〇〇斎場ですと十時、若しくは十六時半になります……』


『っんだよ、お前ら、人数増えたんじゃねぇの。しょうがねぇ、じゃあ外注にするわ。また。』


待機携帯は静かになりました。


明日は「友引」でございます。その前日、「友前」で止まっていた湯灌が一気に集まってくる日でもありました。


『だから友前の待機は嫌なんだよ……営業も上からの言い方だし……』


そんな愚痴をこぼしながら、冷めかけた夕飯を口に運びます。


以前は、今より外注率が高かったそうでございます。


会社としては、自社施行率を上げるため、湯灌部の増員を行いました。四名の新人が入社し、その一人が私でございました。


部長は笑顔で、


『君らには期待してるからな。これで外に流れる金が減る』


などと口角を上げていたのを覚えております。


実際、業務拡大後、湯灌部の売上は伸びたそうです。


ですが、現場の空気は少し異なりました。


私どもの会社では、施行一件につき二千円の手当がついておりました。所謂、出来高でございます。


外注に流れる件数が減っても、部員が増えれば、一人あたりの取り分は減る。会社の利益は増えても、現場の給料は薄くなる。


そのことについて、先輩方は特に何も仰いませんでした。静かに、丁寧に仕事を教えてくださいます。


ただ、時折、


『今日は二件か……』


と、ホワイトボードを見ながら呟かれる声だけが、妙に胸に残ることがございました。


ある日、斎場で外注業者の方と鉢合わせになりました。


『どうも、久しぶりです。お宅、人増やしたんだって? おかげでこっちに回ってくる件数減っちゃってさ。今月キツいわ』


それに対し、先輩は苦笑いを浮かべながら、


『俺も給料減ったよ。会社は儲かってるらしいけど……まぁ、しょうがないわなぁ。サラリーマンだから』


そう言って軽く頭を下げました。


帰りの湯灌車の中では、先輩が今日の施行について、静かに教えてくださいました。


『最後の着付け、あそこ、もう少しシワ取れたな』


『はい』


『でも、手順は良くなってきた』


フロントガラスの向こうでは、夕焼けの道路がゆっくり流れていきます。


二千円。されど二千円。


人が増えるというのは、喜ばしいことばかりではないようでございました。



それでは、次の斎場へ参ります……

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