19話目『二千円』
自宅で夕飯を食べていると、待機携帯が鳴りました。
慌てて口の中のものを飲み込み、通話ボタンを押します。
『お疲れさま。明日午後二時から〇〇斎場で湯灌行ける?』
『明日の二時、十四時でございますね。確認いたします。』
シフト表を見返しますが、どう組んでも難しい状態でした。
『申し訳ございません。他の施行が入っておりますので、〇〇斎場ですと十時、若しくは十六時半になります……』
『っんだよ、お前ら、人数増えたんじゃねぇの。しょうがねぇ、じゃあ外注にするわ。また。』
待機携帯は静かになりました。
明日は「友引」でございます。その前日、「友前」で止まっていた湯灌が一気に集まってくる日でもありました。
『だから友前の待機は嫌なんだよ……営業も上からの言い方だし……』
そんな愚痴をこぼしながら、冷めかけた夕飯を口に運びます。
以前は、今より外注率が高かったそうでございます。
会社としては、自社施行率を上げるため、湯灌部の増員を行いました。四名の新人が入社し、その一人が私でございました。
部長は笑顔で、
『君らには期待してるからな。これで外に流れる金が減る』
などと口角を上げていたのを覚えております。
実際、業務拡大後、湯灌部の売上は伸びたそうです。
ですが、現場の空気は少し異なりました。
私どもの会社では、施行一件につき二千円の手当がついておりました。所謂、出来高でございます。
外注に流れる件数が減っても、部員が増えれば、一人あたりの取り分は減る。会社の利益は増えても、現場の給料は薄くなる。
そのことについて、先輩方は特に何も仰いませんでした。静かに、丁寧に仕事を教えてくださいます。
ただ、時折、
『今日は二件か……』
と、ホワイトボードを見ながら呟かれる声だけが、妙に胸に残ることがございました。
ある日、斎場で外注業者の方と鉢合わせになりました。
『どうも、久しぶりです。お宅、人増やしたんだって? おかげでこっちに回ってくる件数減っちゃってさ。今月キツいわ』
それに対し、先輩は苦笑いを浮かべながら、
『俺も給料減ったよ。会社は儲かってるらしいけど……まぁ、しょうがないわなぁ。サラリーマンだから』
そう言って軽く頭を下げました。
帰りの湯灌車の中では、先輩が今日の施行について、静かに教えてくださいました。
『最後の着付け、あそこ、もう少しシワ取れたな』
『はい』
『でも、手順は良くなってきた』
フロントガラスの向こうでは、夕焼けの道路がゆっくり流れていきます。
二千円。されど二千円。
人が増えるというのは、喜ばしいことばかりではないようでございました。
それでは、次の斎場へ参ります……




