最終話『つつがなく 〜あとがきに代えて〜』
最終話までお付合い頂き、恐れ入ります。
感想等がございましたら、ご記入の程、お願いいたします。
今までぽつぽつと湯灌にまつわるお話をさせていただきましたが、最後に「つつがなく」という話をいたしたいと思います。
「つつがなく」……漢字で表記いたしますと「恙無く」となります。
「恙」とは、憂い、心配、病などを意味する言葉だそうです。
私が関わらせていただきました故人様には、それぞれの人生、生き様そして死に様があったのでしょう。私はその最期の時をつつがなくお送りするお手伝いをさせていただきました。
施行の際の所作、振る舞い、口調など、それら全てに意識をはらい、厳かにあるいは、和やかに、ご遺族様が憂いを持たれぬよう、会社が売上やクレームを心配せぬよう、プロらしく見えるようにつつがなく、演じてまいりました。
神聖な祈りの心も持ち合わせず、故人様の心残りなど考えもせず、ただ淡々とあるいは雑念を持って仕事を行ってまいりました。
人は死にます。その後、極楽浄土へ行くのか、神の御元へ行くのか、はたまた、転生して勇者になるのか、死に戻って人生をやり直すのか、そんなことは知りません。
私はノルマをこなすサラリーマンでしかありませんから。
そんな私にご遺族様は
『ありがとう』
とおっしゃられます。
ですが、本当に『有り難い』ことなのでしょうか?故人様に形式的に手をあわせているだけの姿が、少しでも優雅に見えるよう指先の角度を気にしている様が。自分の評価を気にしている人間が。
そんな思いを笑い飛ばすため、この『つつがなく』を書いてみました。
私が関わらせていただきました故人様全てが憂いなく安寧に過ごされるよう、また土山の下で静かにお休みいただけるよう心からお祈り申し上げます。
「恙」という字には、「たい・つちくれ」という、土が積み重なった様子を表す字が『心』の上に乗っているという説もあるそうです。
まあ、葬儀屋らしい漢字ですね。
ここで終わろうと思ったのですが、その「たい・つちくれ」という文字は環境依存文字のため使えませんとシステムに怒られました。
最後まで、つつがなくとは行かないようです。
それでは、次の斎場へ参ります……




