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つつがなく 〜湯灌にまつわる二十の小話〜  作者: 藤紫


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18/20

18話目『洗う』

『前職の時もコレ、大変だったんだよねぇ』

『俺もそうでした。毎日大変で…』

と話しているのは元美容師と元介護職の二人。

洗濯について話をしている様でございます。施行後、会社に戻ると大量にあるタオルなどを洗濯機に押し込みます。ベランダに干してあったタオルを取り込み、たたみ、明日の施行の準備を行っていると、洗濯機から無機質な電子音のメロディが流れてきました。

洗い終わった洗濯物をかごへ取り出します。洗濯物からは柔軟剤の香りの陰に洗剤では落としきれない匂いが隠れている気がしました。


『これはもう捨てるか』


先輩がシミが落ちきれていないタオルを台の上に放り投げます。

洗濯機の糸くずフィルターには、グレーの塊が絡みついております。故人様から抜け落ちた頭髪でございます。今日の故人様は抜けやすい方でございました。ゴソッと抜けた際、


(ヤベッ)


と思ったことなど表には出さず、


『おばあさまはきれいな手をしてらっしゃいますね』


などと視線を頭部からそらしたことを思い出しました。


グレーの塊を廃棄が決まったタオルで包み、ごみ箱へ入れます。指に2,3本白髪が絡んでおりました。


洗濯籠を持ちベランダへ参ります。大判のタオルを


『パンッ』


と広げて物干し竿にかけます。太陽が燦々と輝き、風もありますので、洗濯物も午後の施行の間に乾くことでしょう。いいお天気で助かります。


タオルを干し終わった私はその下にしゃがみ込みます。湯灌部の殆どの職員が煙草を嗜みます。室内は禁煙でございますので、灰皿はベランダの隅に置いてございます。但し、外部から見えるのは宜しくないとのことで、基本、しゃがんでの喫煙となっております。

ふと見上げると、タオルの隅にはうっすらと、落としきれなかったシミがございました。それを見ながら


(シミか……今日の夕飯、”凍み豆腐の卵とじ”にしようかなぁ……)


などと考えておりました。

頭の上では、タオルが風に揺れております。

それでは、次の斎場へ参ります……

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