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つつがなく 〜湯灌にまつわる二十の小話〜  作者: 藤紫


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17/20

17話目『吸水』

自殺などの場合、死因が不明な場合や事件性が疑われる場合、行政解剖ないし司法解剖が行われる場合があります。

その故人様はご遺族にお姿を見せないよう斎場の隅の小さな部屋に連れられて、静かに待っていらっしゃいました。防水の遺体袋に入ったまま。

袋ごと洗体台に乗せジッパーを開けると、狭い部屋には逃げ場のない異臭が充満します。体液や血液、その他、人体から出せるものは全部混ざって袋の中に溜まっており、その中で故人様は漂っていました。


髪に絡んだ汚れを流していきますが、何度湯をかけても、なかなか落ちきりませんでした。

強く洗えば、今度は髪が抜け落ちます。

先輩は黙ったまま、新しいタオルを差し出しました。

洗体も念入りに行なっていきます。シャワーを当てボディソープの泡が言いようのない色に変わって流れ落ちていきます。

開腹した跡からは皮膚、脂肪、筋肉の層が見えており、今なお、じわじわと汚れの元となるモノが滲み出てきております。

こういった傷口にはいつものアレを使います。

ペット用吸水シート(大判)です。多い日も安心な、コレが一枚あれば大丈夫なのですが、今回は


『…ぐるっと、いっとくか…』


と、お腹周り全てを覆うように押し付けたあと、粘着テープでベルトを巻くように止めさせていただきました。

白い着物を着て、お化粧をしたお姿は見違えるように整いました。ウエストサイズはいつもよりふくよかだと思いますが。


故人様の生きていらっしゃる際の最期の時に何があったのかは存じ上げません。私どもは、お亡くなりになった後の時間ぐらいは、少しでも穏やかに見えるよう全力を尽くします


納棺まで済ませ、小さな部屋を出ました。故人様をご覧になった喪主様は、お言葉は何も発せずただ会釈をされたあと、再び故人様を見つめていらっしゃいました。


『そういえば、うちのムギちゃんのシート切れてたんだった。買いに行かなくちゃ』


家でワンちゃんがお留守番している先輩は、仕事終わりにペットショップに行くようです。




それでは、次の斎場へ参ります……

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