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つつがなく 〜湯灌にまつわる二十の小話〜  作者: 藤紫


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16/20

16話目『送る』

今日は土曜日。とはいえ、私共の仕事は余り土日祝日は関係ございません。車の流れが変わるぐらいでしょうか。


故人様は80代の女性。喪主様はその息子さんでした。水の流れる音がいつもより耳に鮮明に届くほど、静かな時間が過ぎていきます。つつがなく施行もすみ、お棺の蓋を閉める段になって、


『これ来る途中の花屋さんで買ってきたんだけど入れてもいいですか?』


と仰るお孫さんの手には真っ赤な花束がございました。


『綺麗ですね、故人様もお喜びになられるでしょう』


と答えると


『みんなで入れようよ、はい、お父さんも』


とご遺族様それぞれに一輪ずつお花を配ります、真っ赤なカーネーションを。


『俺、母さんに花なんか渡したこと、あったかなぁ……』


そう呟きながら、ゆっくりと故人様のお胸元へカーネーションを添えられました。


『カーネーションって言えば……幼稚園の時に……折り紙で作ったカーネーションを……』

『母さん嬉しそうに笑ってたなぁ……』


その瞬間でした。


『……あぁ……』


喪主様の喉から、変な音が漏れました。

堪えるように唇を結ばれておりますが、次第に肩が震え始めます。


『俺……母さんに、ちゃんと花渡したの……初めてかもしれない……』


嗚咽混じりの声でございました。

ご親族様方も俯かれます。

私どもはいつものように少し距離を取り、その時間が過ぎるのを静かに待っておりました。


その後、明日執り行われる告別式の確認に、斎場の職員が参りましたのをきっかけに、その場を御暇いたしました。


『コンビニ、よってこうか』


湯灌車を降りて店にはいると、


「母の日フェア」


の看板が目に入りました。

明日は五月の第二日曜日でございました。




それでは、次の斎場へ参ります……

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