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つつがなく 〜湯灌にまつわる二十の小話〜  作者: 藤紫


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10/20

10話目『暇』

暇です。時間を持て余しております。


明日が六曜でいう友引。友引の前日を私共は「友前」と呼んでおりました。友引には『友を引く』と言った意味合いから、友引の日は告別式が少なくなります。ちなみに六曜の「友引」は「共引き」が元で「勝負のつかない日」の意だったと斎場の方に教えて頂いたことがございました。


あっと、話がそれてしまいました。暇という話でございました。納棺後、通夜式、その翌日に告別式が執り行われます。ということは「友前」には湯灌が少ないということで、最少人数の出勤で他の同僚はお休みとなります。本日は出勤当番でしたが、午前1件、午後1件の2件のみで時間を持て余しているというわけです。葬儀に関する資料を目の前にしながら、


(なろう小説みたいに故人様が生き返って、『転生先がジジイって終わってんじゃん。』なんてこと言い出したら……。)


などとバカげたことを考えておりました。暇なのはいけませんね。


『ぼーっとしててもしょうがないから、そろそろ行こうか?』


先輩から声をかけられました。気持ちを切り替えて参りましょう。


『仕事一途な人だったから……』

『急に入院して暫くは、仕事を持ち込んでやってたそうだけど…』

『それもなくなって、次第にボケちゃったんでしょう?』

湯灌の準備をしている私の耳にそんなお話が聞こえてまいりました。


湯灌は滞りなく終わり納棺の際、喪主さまが


『これらも一緒に入れてもらってもいいかしら…。この人が一番大事だった仕事の資料みたい。同僚の方も会社的には問題ないとおしゃってたので。』


とルーズリーフをお持ちになられました。バインダーの金属類は燃え残るため、中のルーズリーフだけを外して、お足元に入れていただくことになりました。


一枚一枚、喪主様自らお入れになられる様は淡々とされていらっしゃいましたが、最後の数枚になるとその内容を確かめるように、ゆっくりとした動きでございました。そして最後の1枚をお入れになる際、


『この人も、暇だったのね……』


とおっしゃられたのは、聞き違いだったでしょうか。また、それまで淡々とされていた奥様の横顔が、その時だけ酷く寂しげに見えたのは、気のせいだったでしょうか。


私の位置からは何が書かれていたのか分かりませんでしたが、それらの上にお布団を被せお蓋を閉じさせていただきました。


斎場を出ると、先輩が


『どっかの駐車場で時間潰していこっか』


とのこと。また、暇な時間がやってまいります。


それでは、次の斎場へ参ります……。

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