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つつがなく 〜湯灌にまつわる二十の小話〜  作者: 藤紫


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11/20

11話目『みずから』

湯灌について皆様はどのくらいご存知でしょうか。


『知ってるよ。体や頭を洗って気持ちよさそうだったよ。化粧もしてもらって、いつもよりかわいかったなぁ』


表向きはそのあたりですかね。もちろん、皆様にお見せしていない部分もございます。その一つが綿詰め。お腹の中でガスが発生し、お口から色々と溢れ出てきてしまってはいけませんので、喉の奥に凝固剤とともに


「ギュッ、ギュッ、ギューーーー!」


っと詰め物を致します。


さて、今日の故人様は入水自殺とのこと。

まさに「自ら(みずから)」命を絶つために水へと入り、そして、冷たくなって「水から(みずから)」上がってこられたわけです。

そのお身体は、しっかりと水分を吸って膨らんでしまっていました。

いざお口を開けていただこうとしましたが、死後硬直も相まって、しっかりと閉じられた顎はびくともしません。先輩はしばらく故人様の口元を見つめた後、ボソリと


『……折るか』


周りに聞こえないよう、低い小声がこぼれました。

故人様に手を合わせたあと、前歯にペンチを当ててグイッと力を込めます。

バキリ、と嫌な音が耳に届きました。

その空いた空間から喉の奥に凝固剤と綿を詰め、最後に開いた口を閉じるため、瞬間接着剤で上唇と下唇を不自然ではないよう貼り付けました。


自ら死を選んだ末に、死んでからこんな痛い目に遭うとは、故人様も思っていなかったことでしょう。


『ご準備が整いましたので、故人様のおそばへおいで下さい。』

『あら、さっきより、お顔がすっきりしてまともになってるんじゃない。何かしてくださったの』

『はい。お顔のマッサージをさせていただきましたので…』

『丁寧にしてくださったのね』


私共は、故人様への配慮とご遺族様の自由意志に基づいて対応致しております。ご遺族様も喜んで頂けた、必要なマッサージでございました。

それでは、次の斎場へ参ります……

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