↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
北辰の冥影 ~将門炎舞記~  作者: 浮島太郎
怨火の果て

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
56/162

焼け跡に立つ風

 真冬の風は、まだ血の匂いをわずかに含んでいた。筑波嶺から吹き下ろす強い風が、焼け落ちた館の跡を容赦なく吹き抜け、灰を巻き上げ、黒い木片をぱらぱらと崩した。その風は冷たく鋭く、まるで怨念の残滓を削ぎ落とすかのようであった。

 将門は馬上から、炭化した梁を見つめた。

 黒く焦げた木片が、冬の風に吹かれて舞い散る。

「将門様……源護の郎党が、昨夜この村を荒らしていきました……」

 村人の声は震えていた。吐く息は白く、肩は寒さと恐怖で揺れている。

 将門は静かに頷いた。

「……源護は、まだ近くに潜んでおる。」

 野本の細道で源氏の兵を殲滅した将門軍は、源護の行方を追って、源護の隠れ家と目される村々を次々と捜索した。抵抗する者があれば討ち、匿う村があれば焼き払った。

 それは、将門の本意ではなかった。

 村人たちは怯え、遠巻きに将門軍を見つめていた。

 若い母が子を抱きしめながら震えていた。

(だが、怨火を断つためには、時に冷酷な風ともならねばならぬ。)

 冬の風が、将門の頬を切るように吹きつけた。

 村々の道には、黒鎧の騎馬武者の蹄跡が残り、堰の争いで荒れた田畑には、ようやく静けさが戻りつつあった。

 英雄の名は、恐怖とともに語られ、恐怖の名は、英雄の輝きとともに語られた。冬の風が吹くたびに、枯れた稲が揺れ、噂が揺れた。

 黒鎧の百騎を従えた鬼が来たらしい……

 黒い大鎧、七尺を超える偉丈夫だった……

 矢が雨のように降ったが、将門様には一本も当たらなかった。

 筑波嶺から吹き降ろす風は、戦場の匂いを遠くまで運び、村々の噂をさらに広げていった。冬の風は、怨火の跡を吹き払いながら、坂東の地に新たな時代の匂いを運んでいた。

 坂東諸侯に、平将門の信望と脅威が轟き始めたのは、まさにこの頃である。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。