焼け跡に立つ風
真冬の風は、まだ血の匂いをわずかに含んでいた。筑波嶺から吹き下ろす強い風が、焼け落ちた館の跡を容赦なく吹き抜け、灰を巻き上げ、黒い木片をぱらぱらと崩した。その風は冷たく鋭く、まるで怨念の残滓を削ぎ落とすかのようであった。
将門は馬上から、炭化した梁を見つめた。
黒く焦げた木片が、冬の風に吹かれて舞い散る。
「将門様……源護の郎党が、昨夜この村を荒らしていきました……」
村人の声は震えていた。吐く息は白く、肩は寒さと恐怖で揺れている。
将門は静かに頷いた。
「……源護は、まだ近くに潜んでおる。」
野本の細道で源氏の兵を殲滅した将門軍は、源護の行方を追って、源護の隠れ家と目される村々を次々と捜索した。抵抗する者があれば討ち、匿う村があれば焼き払った。
それは、将門の本意ではなかった。
村人たちは怯え、遠巻きに将門軍を見つめていた。
若い母が子を抱きしめながら震えていた。
(だが、怨火を断つためには、時に冷酷な風ともならねばならぬ。)
冬の風が、将門の頬を切るように吹きつけた。
村々の道には、黒鎧の騎馬武者の蹄跡が残り、堰の争いで荒れた田畑には、ようやく静けさが戻りつつあった。
英雄の名は、恐怖とともに語られ、恐怖の名は、英雄の輝きとともに語られた。冬の風が吹くたびに、枯れた稲が揺れ、噂が揺れた。
黒鎧の百騎を従えた鬼が来たらしい……
黒い大鎧、七尺を超える偉丈夫だった……
矢が雨のように降ったが、将門様には一本も当たらなかった。
筑波嶺から吹き降ろす風は、戦場の匂いを遠くまで運び、村々の噂をさらに広げていった。冬の風は、怨火の跡を吹き払いながら、坂東の地に新たな時代の匂いを運んでいた。
坂東諸侯に、平将門の信望と脅威が轟き始めたのは、まさにこの頃である。




