死地を読む者
義宗は、地図の四方を順に指し示しながら、まるで潮の満ち引きを読むかのように、淡々と語り始めた。
「西は信太の村々。近く、水路もよい。だが、使えぬ」
そこで義宗は、為憲を一瞥した。
その目には、冷たい現実を突きつける色が宿っていた。
「村人は国豊の郎党か縁者。舟を出した時点で露見します」
為憲の顔が苦く歪んだ。
「……確かに、信太の連中は国豊殿に心を寄せている。舟を借りるどころか、櫂を握っただけで噂が走りましょう」
義宗は淡々と頷いた。
「西の策は、動く前に破れる」
そして、北を指した。
「残るは北。島まで二里、片道半刻。潮は穏やかで、干潮でも通れる。夜襲の道は、ここだけです」
為憲が頷いた。
「北から近づき、浜に兵を揚げるのだな」
義宗は、そこで首を横に振った。
「兵は揚げませぬ」
為憲が顔を上げた。
義宗は、島の中央に描かれた館を指した。
「浜から館へは、一人幅の急坂だけ。兵を入れれば矢の的です。進めず、退けず、死ぬ」
為憲の目が細くなる。
「……つまり、兵を島に揚げて攻めるのは愚策か」
義宗は静かに頷いた。
「左様。浮島では、潮と地形が兵を殺す」
――そして、地図の裏手。館の背後に描かれた小さな印を指した。
「裏手に、捨てられた舟着き場がある。満潮と夜霧を選べば、物見を抜き、館へ出られます」
為憲の目が光った。
「そこから忍び込むのだな」
義宗は、まるで当然の理を述べるように頷いた。
「兵は要らぬ。舟を操る腕と、人を斬る覚悟。それだけでよい。潮と霧を読めば、寝所まで届く」
その声音は、死地を知る者のそれであった。
恐れも昂ぶりもなく、ただ冷たい理だけがそこにある。
義宗の軍略を聞きながら、為憲の胸には別の炎が静かに燃え上がっていた。
(国豊よ……死を目前にして、恐れを知るがよい。汝に死が迫っておるぞ)
為憲の目に、冷たい光が宿った。
そこには正義も忠義もなく、ただ、為憲の心を縛る“呪い”だけがあった。




