弔魂
戦場の片隅では、農奴たちが大穴を掘り、敵味方の区別なく死者を埋めていた。湿地の土は柔らかく、折れた矢ごと死者を静かに飲み込んでいく。
敵として向かってきた者たちの顔が脳裏に浮かぶ。元服前の童子もいた。
(追い詰められた“民”だ……。)
どこからか旅の僧が現れ、勝手に読経を唱えはじめた。
やがて僧は「供養の志を」と金を求めてきたが、成家が無言で近づき、短く言葉を交わすと、僧は肩をすぼめ、そそくさと立ち去った。
国豊は、東山の鳥辺野に捨て置かれた母のことを思い出し、胸の奥に冷たいものが落ちるのを感じた。
(私は……母君を見送ることもできなかった。)
胸の奥が、重く痛んだ。
戦が終わり、浮島の館に戻ると、国豊は戦勝の宴を控えめに、しめやかに行うよう命じ、自らは席に着かなかった。
「勝ち戦を酒で祝わずにどうする……」
「棟梁が戦を清めねば、誰が死者に区切りをつける……」
そう呟く者もいたが、兼遠と成家が冷たい眼で睨みつけると、慌てた隣の郎党が「黙れ、阿呆」と頭を叩き、その声はすぐに消えた。
その夜、灯火の揺れる座敷で、国豊はひとり膝を抱えていた。衣には土と汗の匂いが残り、弓を引いた手にはまだ震えがある。戦は終わったが、心は静まりきらない。
飢えは人を追い詰める。幼子は泣き、女は嘆き、男は己を責めながら、それでも家族を生かそうとする。
民を飢えさせてはならぬ――豊かでなければ、争いは絶えぬ。
収穫は乏しい。無いところには何もなく、在るところには余りがある。その偏りが、争いを生む。
――灯火が揺れたとき、国豊は静かに悟った。
民に分け与える仕組みがあれば、争いは避けられる。
在るところから在らぬところへ、流れを作る役目は、自分が担うほかない。




