第6話:元代表候補の再起
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元・オリンピック強化指定選手という過去と、右膝の故障によるトラウマを抱えていた鬼教師・黒岩。
過去に囚われ、走ることをやめた彼に対し、拓真はどんな言葉をかけ、その「才能」を再び呼び醒ますのか――!?
放課後。夕暮れ時の誰もいないグラウンドに、一人立ち尽くす影があった。
黒岩剛だ。
彼はトラックのスタートラインを見つめたまま、微動だにしない。その手には、使い古されたストップウォッチが握られていた。
「黒岩先生」
俺が背後から声をかけると、先生は肩を跳ねさせ、不機嫌そうに振り返った。
「佐藤……? なんだ、まだ残っていたのか。下校時刻は過ぎているぞ」
「先生こそ、何してるんですか。また走りたいんじゃないんですか?」
「……なっ」
黒岩先生の顔色がサッと変わる。眼光を鋭くし、俺を睨みつけてきた。
「バカなことを言うな。俺は膝を壊したんだ。二度とまともに走れるわけがない。くだらん軽口を叩いてないで早く帰れ」
「膝の怪我は、もう完治してるはずですよね」
俺の言葉に、黒岩先生が息を呑んだ。
そう、彼の頭上に浮かぶステータスは明確に示していた。
『才能:長距離走・マラソン 潜在レベル:S 覚醒度:40%』
『トラウマ:右膝の故障・夢の挫折(抑圧度:85%)』
右膝の身体的な機能障害の表示は、もうどこにもない。残っているのは、心に刻まれた「トラウマ」という名の呪いだけだ。
「先生が走れないのは膝のせいじゃない。『また壊れるかもしれない』っていう恐怖のせいだ。自分が挫折した過去から逃げてるだけだろ!」
「黙れ!!」
グラウンドに黒岩先生の怒号が響き渡った。大きな拳が固く握りしめられ、震えている。
「お前に何がわかる! 一瞬で夢が潰れた絶望が、努力のすべてが無に帰した恐怖が……ガキのお前に理解できてたまるか!」
「わかりますよ」
俺はまっすぐに先生の目を見返した。
「俺も……ずっと逃げてましたから。現実の自分から逃げて、異世界に行けば何とかなる、チート能力があれば主人公になれるって……退屈な日常のせいにして逃げてたんです。でも、違った」
俺は一歩、黒岩先生に向かって足を踏み出した。
「この世界には、最高の才能を持った奴らがたくさんいる。怪我で夢が破れたって、積み重ねてきた努力も、体に刻まれたSランクの才能も、消えてなくなったわけじゃない! 諦めてるのは先生自身だ!」
「佐藤……お前……」
「市民マラソン、走りましょうよ。完璧なタイムじゃなくていい。世界を目指す走りじゃなくていい。先生が走ることを好きだった頃の走りを、もう一度見せてください」
静寂がグラウンドを包み込む。
夕日が黒岩先生の横顔を赤く染めていた。彼は震える手で右膝を触り、それからゆっくりと目を閉じた。長い、長い沈黙の後、彼が吐き出した息は、どこか吹っ切れたような白さを帯びていた。
「……ハッ、生意気なガキだ。生徒の分せいで教員説教しやがって」
次に目を開けた時、そこにあったのは「鬼」の目でも、絶望した男の目でもなかった。
かつて世界の頂点を目指した、一人のアスリートの鋭い眼光だった。
「……5キロだ。まずはリハビリ代わりに、5キロだけ走ってやる」
その瞬間、黒岩先生の頭上のステータスが激しく光を放った。
『トラウマ:右膝の故障(抑圧度:85% ⇒ 10%)』
『覚醒度:40% ⇒ 65%』
数字の上昇とともに、黒岩先生の背筋がピンと伸びる。長年彼を縛り付けていた透明な鎖が、弾け飛んだのが見えた気がした。
「よし! じゃあ先生、俺が特別に練習メニューをプロデュースしてやりますよ!」
「ふざけるな、お前は体育の見学だろ! 明日からはグラウンド10周からやり直しだ!」
「えぇ!? 俺まで巻き込まれるの!?」
豪快に笑う黒岩先生の姿を見て、俺は口元をほころばせた。
(よし……これでまた一人、本物の天才を現実に引き戻せたな)
夕闇が迫るグラウンドで、俺たちの新しい「日常」が動き出していた。
第6話(通算第6話)をお読みいただきありがとうございました!
無事に黒岩先生のトラウマを打ち破り、彼の覚醒度を大きく引き上げることができました!
拓真の熱い言葉と「プロデューサー」としての手腕が見事に光ったエピソードでした。
そして次回からは!
物語のヒロインであり、まさかの『潜在レベル:SSS』を持つ幼なじみ・美咲の物語が本格的に動き出します。
彼女の覚醒度が「12%」で止まっている理由とは……?




