第8話 「一目惚れ」
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「一目惚れ」
そう私が答えた瞬間、彼――兀斗は「ぶっ」と吹き出した。大いに失礼である。兀斗は吹き出した口に手を当ててもう片方の手は腹を抱えている。まさに腹を抱えて笑う漫画の中の人物のように。病院のベッドの上でしばらくそのまま震える。笑ってる。
もう一度言おう。大いに失礼である。
私も段々と自分の耳が赤くなっていくのがわかった。体温など知らないが、少なくとも彼の顔を真っ直ぐみれるほど正常にはいられなかった。
兀斗の提案した「ゲーム」に負け続けてこれで三回目になる。彼のへっぽこな独り言に耐えきれず、三回も彼の雰囲気に流されてしまった。一回目は「お姉さんの誕生日を教えてよ」と聞かれ「三月九日」と答え、二回目は「お姉さんの好きな食べ物を教えてよ」と聞かれ「おにぎり」と答えた。そして今回の三回目。いつも通りどうでも良い質問が来るかと呑気に考えていたのだが、彼は思わぬ質問をしてきた。
「お姉さんが理想とする異性との出会い方は?」
はい。意味わからない。
急に文字数増えたし、なんなら急にプライベートに踏み込んでくるし、なんちゅう質問だ。と思った。私はカタコトになった日本語で兀斗に問う。
「どゆいみ?」
「いや、だからさ例えば」
兀斗はテーブルの上に置いていた腕を浮かせて肘を曲げて顔の横に持ってくる。そのまま前後に振った。
「やばーい。学校遅刻するー。急がなきゃー。あ、もちろんここは口にパンを抱えてね。んでスクールバッグは肩掛け。てかあれ教科書とか全部はいんの? 薄くね?」
「入る」
「あ、そ。で走ってたら角からいきなりイケメンが飛び出てきてお互いにごっつーん。いやーん。いたーい。ここでパンを落とす。ついでにカバンの中身もぶちまける。急がなきゃいけないから急いで立ち上がって走り去る。けれどこの時にハンカチを落としてて、イケメンがそれを拾っていた。」
「……」
「ギリギリ学校に着いてセーフ。汗ダラダラ。やばーい! なんとか滑り込みで教室に着くと転校生が来るって説明があって、なんと! 入ってきたのはあの時ぶつかった男の子! こ、これは運命⁈ 的な」
「……」
やっと兀斗の口が止まる。私は呆気に取られ薄目で彼を見ていた。
「お姉さん?」
「…まあなんというか想像力が豊かなことで」
「ありがとう。俺の言いたいこと伝わった?」
うん。十分すぎるほどに。
つまり理想の恋のシチュエーションは何かということが問いたいのだろう。丁寧な説明に拍手を送ろう。
説明がひと段落終えた彼は私の返答を待つようにキラキラとした瞳でこちらを見つめる。普段はあんなに血色がない瞳も、こうして私に質問をしているときはキラキラ輝くのだ。そこがなんとも言えなく。私も正直に答えてしまう。
正直、ちょっと年上のお姉さんで美人でノリが良さそうだからという理由だけで、私との継続的な接触を好んでいたのだとしたら、真面目な答えをするつもりはなかった。ていうかそういう体だと思っていた。けれどどうだ。実際話してみると違うじゃないか。彼はまだあまりにも幼く見えた。大きすぎる身体に命の時間が速すぎて、それでも心は子供のままで。
私のこの気持ちは単なる同情なのだろうか? 否、違うと信じたい。
黙り込むわたしの耳には外の音が流れ込む。
ちゅんちゅん。
ガタンゴトン。
ぱたぱた。
きゃっきゃ。
しゃー。
「わたしは…」
そしてようやく私は口を開いた。
「わたしが理想とするシチュエーションは…」
これだ。
「一目惚れ」
こうして再び冒頭に戻る。
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