第7話 ――俺、お姉さんと
――俺、お姉さんと友達になりたいんだって。
そんな言葉、いつぶりに言われただろうか。彼の言葉が脳内で反復する。頭蓋骨にあたっては跳ね返って、また反対側の頭蓋骨に当たる。残念ながら脳みそという筋肉の緩衝材はない。ぶつかって跳ね返ってぶつかって跳ね返って。そうして私の骨は痛みの悲鳴をあげて、彼の言葉を承認してしまった。
我ながら滑稽。
ただし、「友達になること」と「名前を教えること」はまた別の類だ。私はその場で彼の友達になることを承諾したが名前は教えなかった。そこまで私が名前を教えないことにこだわる理由は、単純だ。呼ばれたくない。それだけの理由。
「じゃあさゲームをしよう」
「ゲーム?」
兀斗は細い指先でノートを開いた。開いたページをパラパラ。いくつか捲って白紙が現れる。彼は付属のペンを取ると紙に何やら文字を書き込んでいく。スラスラと。あ、左利きなんだ。
「友達っていうのはやりたいことを一緒にやる人同士のことを言うんでしょ。だから俺がやりたいことリストを作るから、お姉ちゃんは一緒にやってよ」
そう言いながら「やりたいことリスト」と書かれた文字の下に箇条書きで文字が増えていく。増えていく。
「いや、多くね?」
そう突っ込んだのは瑠衣だった。耐えきれず突っ込んだのだろう。私は耐えたぞ、瑠衣。
しかしまあ、確かに多い。彼はペラと次のページへ進む。
「これ全部やるわけ?」
「まさか。これはゲームのための下準備」
下準備?
「さてお姉さん。ゲームのルールを説明しよう。俺は今、ここに100個近くやりたいことを書き出した。でも俺のこの早すぎる時間を過ごす中でお姉さんと全部をやるのは不可能。ね、そうだよね。先生」
兀斗はまたあの笑みを顔に浮かべた。瑠衣は静かに頷く。
「てなわけで、お姉さんが選んでいいよ。ここから。」
「わたしが? え、まあわかった。でゲームって言うのは?」
「ただし、お姉さんが選んだ項目ができるのは、俺とゲームをして勝った時のみ。負けた場合は俺がする質問に答えること」
「…もしわたしが負け続けたら?」
それってつまり、このやりたいことリストは達成されないと言う意味で。
「書いた意味は?」
「だからこれはただの下準備って言ったじゃん」
兀斗はなんともないように答える。こんなもの、大したものでもないというふうに。大したものでもない…? これが? こんだけ書き綴ったやりたいことリストが? 彼にとっては朝飯前だというのだろうか。
チラリとノートに視線を落とす。ふと目に入ってきた項目。『ラーメン屋さんに行きたい』
はっとわたしは息を吸った。気がつかなくて良いことに気がついてしまう。固まるわたしの前で兀斗は話を続ける。
「ゲームはお互いに対等でいたいから…そうだな。お姉さん、ぱっと見ツッコむの好きそうだし、俺の話のペースに乗ったら負けってのはどう? 俺の言葉にツッコミを入れたらお姉さんの負け。俺が諦めたら俺の負け。どう?」
どうどう聞かないでよ。
「そんなんでいいの? わたし、結構耐えられる自信あるよ」
そう答えると兀斗はパッと顔を明るくした。
「もちろん」
ただし言葉は短く。
こうして私と兀斗の「ゲーム」は始まった。そして冒頭に戻る。
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