表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死ぬのは効率が悪い  作者: nokal


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/30

第23話 思い出したの」


 ┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈


 

瑠衣(るい)〜」


 呼びかけると同時に、彼はあからさまに眉をひそめた。その嫌悪の色を、敢えて踏み越えて近づく。昼下がりの薄い光が廊下に満ち、静けさだけがやけに耳に残る時間帯。――オペが終わったらしい、という情報を耳にした私は(正確には、ナースたちの雑談を盗み聞きしたわけだが)、仮眠室にいる瑠衣を訪ねてきたのだ。

 もちろん、今の私にドアという障害物は存在しない。

 はっははは。腰に手を当て、得意げに胸を張ってみせると、瑠衣は額を押さえ、小さく首を振った。その仕草ひとつすら妙に絵になるのは、きっと瑠衣だからだ。


 ……まあ、それはさておき。


「私ね、飛び降りる前の記憶らしきものを、ちょっと思い出したの」


 “らしきもの”に、あえて重みを乗せて告げる。


「……そうかよ。それで? ボクに何を報告しに来たわけ?」

「え、なんか冷たくない?」


 とうとう瑠衣は珍しく、ぎろりと鋭い視線を向けてきた。そして、自分の胸を指で突きながら、「オレ、ツカレテル」と、壊れかけのロボットのような片言で言うのだ。

 まあ、そりゃそうだ。ならばここは、疲れた彼のために簡潔にまとめてあげよう。


「報告一。兀斗と私は、私がどうして自殺しようとしたのか、その原因を探ることにしました。報告二。飛び降りる直前の記憶らしきものを思い出しました。報告三。幽霊さんとお友達になりました。――はい、以上!」


「報告一の感想。……よかったな。報告二の感想。……は? 報告三の感想。……はあ?」


 思わず私はぱちぱちと拍手する。だって、瑠衣のリアクションが完璧だったのだ。イケメンの整った顔がぐしゃりと歪む様子なんて、そうそう拝めるものではない。

 瑠衣は眉間に深い皺を寄せながら、心底疲れたように長い息を吐いた。


「飛び降りる前の記憶って……じゃあ、飛び降りた理由も?」


 期待にも不安にも寄らない、微妙な色を帯びた声で瑠衣が問いかける。私はかすかに笑って、ゆっくりと首を横に振った。


「残念ながら。理由はまだ思い出せてない。ただ……屋上で誰かと話してたのは思い出したんだよね。ほんのぼんやりだけど」

「ぼんやりと?」

「うん、ぼやぁっと。輪郭も顔も曖昧なんだけど、私が一人じゃなかったのは確か」


 その言葉に、瑠衣は顎の下へ手を添えた。長い指先が白い仮眠室の光を受けて、妙に美しく見える。……ふっ。私のこういうどうでもいい感想、意外と面白いだろう?


「つまりだよ」


 瑠衣は少し間を置き、低く続けた。


「誰かに押された……って可能性もあるってことか?」

「あー……」


 考えてもみなかった方向だ。

 いや、よくある話ではある。揉み合って、勢いで――なんて展開はドラマならお決まりだし。でも、実際の私は? うーん、まったくわからない。


 そう思いながら、ふと屋上へ向かう階段の風景が記憶の奥に滲んだ。灰色の壁、金属の手すり、昼下がりの光で半分だけ照らされた踊り場。


「そういえばさ」


 思いついたように口を開く。


「廊下の隅にあった防犯カメラ、あれは?」


 記憶の隅にひっかかっていた、あの目立たない防犯カメラ。

 ――あれを確認できれば、何か手がかりが残っているかもしれない。


「廊下の、あれ……見れないのかな?」


 そう問う私に、瑠衣はあっさりとした口調で、「ああ、あれダミーだから」と告げた。


 ……あ。

 まじですか。

 会話終了。詰み。手札ゼロ。


「いや、でも――……」と、瑠衣がふいに思い出したように言葉をつなぐ。そのまま立ち上がり、肩に掛かっていた白衣を無造作に脱いだ。


「確か……医療関係者専用のエレベーターには防犯カメラがあった気がする。……いや、なかったか。どっちだったかな。確認しておくよ」

「ありがとう」


 写っていたとしても、そこから事態がすんなり進展するとは思えない。それでも――希望というのは、ほんの欠片でも持っていたい。


「で?」


 瑠衣が半眼で私を見る。


「報告三の“幽霊さんと友達になった”ってやつは? 一体どういう経緯で?」

「ああ、それね」


 説明しようとすると、自然と声が弾んだ。


「幽霊さんからいろいろ話を聞いてたらさ、幽霊さんが幽霊さんになった時期と、私が飛び降りた時期が近かったの。ほんと一週間差くらい。だから、何か関係あるのかなぁって思って。幽霊さんと話してたら、私の方の手がかりも見つかるかもしれないじゃん? だって瑠衣が言ってたでしょ、“幽霊になるのは何かしら未練がある”って。その未練と私の飛び降りが……こう、偶然じゃなくて何か繋がってたり――って、まあそんな都合よくいくと思ってるわけじゃないけど。……って、おや? あれ? 瑠衣さん? 瑠衣さーん? おーい?」


 私が喋り倒しているあいだに、瑠衣の上半身がふらり、と揺れ出した。白衣を片腕に引っかけたまま、眠りに落ちかけている。「お、お、お……?」そのまま私の方へ傾いてきたので、慌てて両手で支え、二段ベッドの方へ誘導する。「ちょ、瑠衣さーん? おーい?」「…………すー、すー、すー……」


 いや寝てんのかい!

 今、私、普通に話してたよね⁉︎

 ねえ、聞いてたよね⁉︎ ……ねえ⁉︎


 とりあえず、崩れ落ちる美男子の体をどうにかベッドへ横たえる。深呼吸をひとつして、寝息を立て始めた彼の顔を見下ろした。


「……」


 整った眉。まっすぐ通った鼻筋。淡く色づいた唇。そして、白衣を着ていた時より露わになった力強い首筋――そのどれもが、恐ろしいほど綺麗だ。


「……ほんと、顔だけはいいんだよなぁ」


 誰に聞かせるでもなくぼそりと呟く。

 まあ……。これだけ疲れてるんだ、仕方ないか。

 私はそっと立ち上がり、音を立てないようにドアの向こうへと消えた。



ご感想等お待ちしております☺︎

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ