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死ぬのは効率が悪い  作者: nokal


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第19話 わずか数%

 俺の身体は、少々厄介だ。


 (はら)い屋の家系に生まれた俺は、生まれつき特異な体質を持っていた。それは天賦(てんぷ)の才というほど大げさなものじゃなく、単純に——人間が本来持っている力の、わずか数%ばかりが鋭く強いだけ。世の中にいる、何をさせても運動ができてしまうやつや、新体操の選手で新技を生み出してしまうような天才肌のやつ。そういうほんの少しだけ突出した人間と同じ分類だ。


 ただ一つ違うのは、俺の突出したところは視力だということ。なんでも視える。霊だろうと、人じゃない何かだろうと、時には少し先の未来までも。祓い屋の中でいえば視る専門、いわば診察医のような領域に属する。


 けれど、この力も万能じゃない。むしろ副作用のほうが俺の人生を締め上げている。——視える俺は、幽霊たちが纏う()()に、普通の人間よりもはるかに()()()()()()()。その影響は、俺の体の成長に致命的なほど深く入り込んだ。


 脆い脚。満足に歩くことすらできない脚。

 腕も、上半身も、首もなんともないのに、脚だけはまるで自分のものじゃないみたいに言うことを聞かない。だから俺は、時々()をもらって悪気を浄化する。いちばん良いのは睡眠。けれど、それだけじゃ足りない時は、人から分けてもらう。それで一時的に、脚が本来の役割を思い出すことができる。

 今回も、笹木(ささき)せんせーが気を分けてくれたから、車椅子なしで歩けた。だけど——お姉さんに会った途端、気が抜けた。その言葉どおり、全部どこかへ抜け落ちてしまったんだ。


 ……だけど。



 俺は逃げながら、先頭を走るお姉さんの背中を見つめていた。さっき手を掴まれた感触が、まだ掌に焼きついて消えない。いつもはひんやりしているはずのお姉さんの手が——あの瞬間は、驚くほど温かかった。

 それに――気づいた。

 お姉さんの手から、かすかなぬくもりとともに気が流れ込んできていた。静かな水面にさざ波が立つように、はっきりと、確かな流れとなって。まるで笹木せんせーに触れられたときと同じ感覚だった。


 ……いったい、どういうことなんだろう。


 説明が重複するが、気は分けてもらうことができる。ただ、ふつう鍛錬を積んだ者からでなければ与えてもらうことはできない。笹木せんせーのように、気を扱うことに長けた人間だけが可能なことだ。

 もちろん、気を“奪う”ことはできる。けれどそれは禁じられた行為だ。奪った気は未成熟で扱いにくく、相手の素質までもがしばらく自分の中に流れ込み、心身を乱すことがある。なにより――人から何かを奪うという行為そのものが、良くないことだから。

 それなのに。

 どうして、あのお姉さんから気の流れを感じたんだろう。彼女の手のぬくもりは、やさしいだけではなく、確かに私の内側へと何かを運び込んでいた。それがただの温もりなのか、それとも――。

 

 

 先頭の二人——お姉さんと幽霊さん——が左へ曲がり、小児病棟へ続く廊下へ駆け込む。背後では笹木せんせーが迫る悪気に応戦しているが、こういう場面で力がドバーンと出るわけじゃない。祓うには集中力が必要で、今はそんな余裕も環境もない。だから、逃げるしかない。

 お姉さんと幽霊さんは、ガラス扉をすり抜けて小児病棟へ入る。霊体だから当然だ。そして俺も、勢いそのままに飛び込もうとして——「ぶはっ」……当然ながら、ガラス扉に顔面からぶち当たった。

 振り返ったお姉さんの凛々しい眉が怒ってるのか呆れてるのか、強い表情でこっちを見る。俺は鼻をさすりながら、笹木せんせーの首から下がるカードキーをロック解除のパネルに押し当てた。その瞬間、「ぐへ」と、せんせーが情けない声を漏らしたことは——墓場まで持っていく。

 カードが反応し、ガラス扉が開く。俺と笹木せんせーは転がり込むようにして小児病棟へ滑り込んだ。バタン、と扉が閉じた直後。向こう側で悪気の黒い靄が、ガラスの前にぴたりと張りついた。

 一定時間、そこに居座り……やがてゆっくり回れ右をするように向きを変え、音もなく消えていった。


 静寂が戻る。俺と笹木せんせーは同時に、肺の奥から重く溜まっていた息を吐き出した。



ご感想等お待ちしております☺︎

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