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第17話 この祈りは何処へ行く?

「ほらアップルパイだよ。みんな手はちゃんと洗ったのかい?」

マルタが中庭のテーブルにアップルパイの皿を置いた。

焼けたバターと砂糖に混じって、リンゴの甘酸っぱい香がふわっと鼻をくすぐる。

ディセルネもヤーナも子ども達に混ざってアップルパイを囲むと、美味しそうな匂いをお腹いっぱいに吸い込んだ。


「わぁ、美味しそう」

「早く食べたいなぁ」

小さな子ども達は椅子に腰掛けて、目の前に切り分けられたアップルパイが置かれるのを、今か今かと待っている。

 

大きな子ども達はマルタを手伝って、皿を並べたり、切り分けたアップルパイを配ったりと、なれた手つきで動いていた。


「さぁ、お食べ。ディセルネちゃんは、シェリールさんの隣がいいよね?

おや、ヤーナくんも食べるかい?」

マルタの足元でしっぽをパタパタさせて、お利口にお座りしているヤーナ。


『もちろん食べる!』

ヤーナは念話で必死にアピールしているが、ディセルネにしか聞こえない。


「マルタおばちゃん、ヤーナも食べたらしいぞよ。皆の分がなくなるなら、妾はヤーナと半分こでいいのじゃが」

一切れ乗った皿を持ち上げて、マルタに話しかけるディセルネ。


「それはディセルネちゃんの分だから、ちゃんとお食べ。実はアップルパイはまだ焼いてあるんだよ。だから、みんなお替わりあるからね。ヤーナくんにもあげるよ」


皿を戻した ディセルネの頭を、シェリールが優しく撫でて微笑んだ。

「ディーちゃん、ちゃんとみんなの事も考えられて偉いよ。我が子の成長を感じるって、こんな気持ちなのかな」


「じゃからのぅ、シェリールよ、妾はそもそも子どもではないと言うとるが……。

それに其方の子でもないぞよ」


軽くため息を吐いた ディセルネに、シェリールの頭がシュンと項垂れた。

「僕らは、家族に……なれたと思ったのに……」


「うわぁぁ、悄げる(しょげる)でない。

シェリールは妾に、たくさんの心を教えてくれる大事な保護者じゃ。妾はそう思うとる」


パッと顔を上げたシェリールの唇は弧を描き、目尻が柔らかく下がった。


「ディーちゃん、アップルパイを頂こうね」

彼はさっと手を顔の前に組んで、目を閉じる。

周りを見渡すと、マルタも子ども達も同じポーズをとっていた。

ほんの数秒で各々目を開けると、フォークを手にアップルパイに齧りつく。


「のう、シェリール。今のはなんじゃ?」

「今のって……、あぁ、食事の前の祈りのこと?」

「祈っておったのかぇ?何にじゃ?」

「何にって、この世界の神様にだよ」


「この世界の……神じゃと……」

「さぁ、ディーちゃんも、ちゃんとお祈りしてから食べようね」

祈りのポーズをレクチャーし始めたシェリールに、固まるディセルネ。

そんな2人のやり取りを見て、ヤーナから笑い声の念話が飛んできた。


『あはは、ディーちゃんは、自分で自分に祈るのかい?

一体何に感謝するんだい?』


『……妾も、わからんのじゃ。

じゃが、アースの世界の言葉にあったじゃろ?

“郷に入っては郷に従え”って。

まぁ妾は、この世界の人間が飢える事がないように祈るとしようかのう』


『なんだかディセルネ、神様みたいだよな』


『じゃから、妾は神じゃ』


*****


一方、久々の登場の天界の神様たち――――


いつものように水鏡を囲んでいるのは、創造神デウスとアース。その横には紅茶を準備中のセレナがいた。


「アップルパイ美味そうだな。俺も食べたい」

「アースは先程チーズケーキ食べたばかりでしょう?ほら、紅茶でも飲んで。

デウス様は緑茶の方がよろしいかしら?」


「アップルパイ美味しそうじゃなぁ……」

「デウス様?」

「おお、何じゃったかな?セレナ」


「……いや、飲み物は緑茶かとお伺いしただけですが」

 

この日の天界の夕食は、デザートがアップルパイだったとか――――

 


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