表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
16/35

第16話 昔と今と

開け放たれた小さな窓から、穏やかな風と一緒に子ども達の元気な声が流れ込んできた。

 

ほんの少し先に見えるディセルネとヤーナの姿に、目を細めたシェリール。

 

外を食い入るように見つめるシェリールに、マルタの笑いの混ざった声がかかる。

「心配しなくても、子ども達はすぐに仲良くなるよ。シェリールさんは過保護だねぇ。ほら、ここに座って、今お茶淹れるから」


ダイニングテーブルを指さしたマルタは、そのままキッチンへ向かって行った。


簡素な椅子をゆっくり引いて腰を下ろすと、マルタから声がかかる。

「そうそう、シェリールさん。向かいの洗面台で腕の傷をしっかり洗っておいで。包帯巻くから」


「はい、ありがとうございます」

 

左腕にあるかすり傷は、すでに血がとまり、乾きつつあった。こびり付いた泥と血液をしっかりと洗い流したところで、包帯と茶器を持ったマルタが戻ってきた。


「さあ、ここに座って腕を出してごらん。うちの息子もよく怪我してくるんだよ。いい歳して、まだ落ち着きがないんだからね」


手際よく包帯を巻き終えると、テーブルに紅茶を準備し始めたマルタ。


「傷の手当まで、ありがとうございます。それにご自宅にまでお邪魔してしまって」


「いいんだよ、そんなこと気にしなくて。さあ、紅茶でも飲んでゆっくりしな。

それに私が、シェリールさんやディセルネちゃんと話がしたかったんだよ」


少し驚いたように目を開いたシェリールに、マルタが続けた。

「今どき珍しいじゃないか、“誰かの為に動ける人”なんてさ。私もあの場にいたんだけど、あんな咄嗟には動けないよ。何の躊躇いもなく、突っ込んでいくんだから」


優しく笑いかけながら、「本当にありがとう、子どもの未来を守ってくれて」とマルタは静かに頭を下げた。


「マルタさん、それこそマルタさんだって、自分の子どもじゃないあの男の子の為に、今僕にお礼を……」


戸惑いを混ぜたシェリールの言葉に、マルタが小さく頷く。

「きっと私もシェリールさんも、今の世の中から見たら、ちょっと“変わった人”なんだろうね」


「……そうかもしれませんね」

苦笑いを浮かべたシェリールの目を真っ直ぐに捉えると、真剣な顔をしたマルタが口を開いた。

 

「でもさ、私はそれでいいと思うんだよ。

人って誰かの手を借りたり、貸したりして共に生活していく方がいい気がするんだ。

それこそ大昔、私のばあちゃんがよく言ってたんだけど、“近ごろの若者は周りに無関心だ。もっと相手の立場でものを考えるべきだ”ってね」


紅茶を一口飲んだマルタは、ふぅと息を吐く。

「ばあちゃん達より前の世代は、それが当たり前だったみたいだね……。

だからさ、少しでもそんな世の中になればいいなって思って、近所の子ども達にお手伝いをさせてるわけさ。

大人より子どもの方が、柔軟だからね」


シェリールも目の前のカップに手を伸ばして喉を潤すと、ゆっくり話し始めた。


「マルタさんの考え方、素敵ですね。僕もそんな世の中になって欲しいと、心から願っています。

 

今までたくさんの場所を訪れましたが、この世界はどこも似たり寄ったりで……、マルタさんのような方は少ないかもしれません。


確かに200年ほど前は、今ほど他人に無関心で自分中心の世界じゃなかったと、以前読んだ書物に書いてありました。魔物の出現も、ここ50年くらいからだと」


「シェリールさんは、学があるんだね。どこかのお偉いさんかい?」

感心して身を乗り出したマルタに、手を振って否定するシェリール。


「いえいえ、たまたまそういった機会があっただけですよ」


トントントン!

扉を叩く音と、複数の声が響いてきた。


「マルタおばちゃん!アップルパイまだ?」


「もう待てないみたいだね」

笑いながら玄関の扉へ向かったマルタの背中を、静かにじっと見つめるシェリール。


彼女の背が視界から消えると、目を閉じて深く大きな息を吐いた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ