第4章 第3話 誇りを布教
天才(変態)たちによる【勘違いブラックコメディ】の幕開けへようこそ!
※本作はカクヨミでも同時連載中ですが、そちらの方が数話ほど物語の更新が先行しています。
「牢獄を脱出した二人の、悪ふざけの続きが早く読みたい!」という方は、ぜひ先行しているカクヨミ版のページでも一気読みしてみてください!
▼カクヨミ版『牢獄のアルティザン』
https://kakuyomu.jp/works/2912051606683262649
第4章 第3話 誇りを布教
あの伝説の戦場から、精鋭近衛騎士の盛大な表彰式を経て――新しい工房は、かつてないほどの活気に満ちあふれていた。
目的はただ一つ。あの徹夜組たちに授与された『10年後の推し(全裸)メダル』の量産である。
「流石にこれだけの数を手作業で作るのは不可能だ」
ルッカのその一言により、計画は一度ストップ。
しかし、脳を綺麗に焼かれた領主と騎士たちの熱い後押しにより、最先端技術が導入されることとなる。
――最先端の『プレス鍛造技術』を応用した、前代未聞の『推しメダル製造機』の爆誕。
本来の銀製では高価すぎるため、庶民への普及を見据えて素材は銅製へ。
だが、量産型とはいえルッカのクオリティに一切の妥協はない。
メダルには徹夜組に配られたものと同じ、精巧極まる立体レリーフが堂々と刻み込まれている。
この『芸術的エロメダル』は、街の男たちのみならず、他領の男たちの間でも爆発的な人気を博していくことになる。
――ある日の領主館執務室。
そこにはあどけない少女の絵が飾られ、領主ジョナスが椅子に深々と腰掛けていた。
彼は手のひらサイズの彫刻像(あの全裸お守り)を眺めつつ、特製の銀製メダルと銅製メダルを愛おしそうに指で撫でている。
「ふふふっ。10年後ぉぉぉ……。でも、赤ん坊の頃も可愛かったよな……。――はっ! 閃いたぞ! アリアの成長に合わせた年齢別の硬貨を作ればいいではないか!」
そんな最高に軽い親バカのノリで、彼は世界を揺るがすとんでもない経済政策を思いつく。
今の愛らしい『幼き日のアリアお嬢様』の姿をベースにした『年齢別成長記録硬貨』を発行し、領地の商業をさらに発展させようというのだ。
金、銀、銅を絶妙な比率で配合した、5種類の新たな通貨の誕生である。
ロッシュが「ハイハイ(赤ん坊)期」から「ドレス姿」「ティアラを戴いたお姿」まで、その愛らしさを詰め込んだ完璧な5種類のデッサンを描き上げ、ルッカがそれを元に、鋼鉄製の超精密な金型を削り出した。
日々の買い物で使う最安硬貨
―――――――『銅貨デパリウス』―――――――
おむつ姿で無邪気に床をハイハイしながら、天使の笑顔を浮かべる【赤ん坊期】のアリアが刻まれている。
小さな手のひらや、ちぎりパンのようにむちむちとした手足のくびれ。
その柔らかな肉感は、硬い金属の凹凸であるはずなのに、触れれば吸い付くような弾力さえ錯覚させた。
コインの真ん中で、彼女が浮かべる屈託のない天使の笑顔は、日々の労働に疲弊した領民たちの心を等しく解きほぐす。
全領民の癒やし系硬貨である。
✦少し銀を混ぜた庶民硬貨
―――――――『白銅貨ピリヨン』―――――――
短いドレスの裾を一生懸命に両手でちょこんと持ち上げて、お辞儀の練習をしている【幼児期】のよちよち姿が刻まれている。
あどけない表情の愛らしさはもちろん、小さな靴を内股にすぼめ、今にも少しバランスを崩しかけている「奇跡の一瞬」を、まるで熟練のスナイパーのごとき執念で捉えた超絶の硬貨である。
ドレスの裾を握る小さな指先の強張りや、必死に背伸びをしようとする愛くるしい重心の傾きまでが、恐ろしい解像度で金属に焼き付けられていた。
庶民の男たちが「使うのがもったいない!」と買い物で出してもすぐにお釣りで回収しようとするため、市場の流通スピードが異常に狂う原因となった。
✦市場を回す本物硬貨
――――――『純銀貨クロッソ』――――――――
クスターフ家の厳格な紋章に囲まれながら、仕立てのいいフリルのドレスを着て、おすまし顔でベンチに座っている――そこに刻まれていたのは、【少女期】であるアリアの現在の姿だった。
流れるようなシルクの細やかなシワや、風に揺れる髪の毛一本一本にいたるまで、職人の執念深い刃先によって再現された本格芸術である。
少し背伸びをしたおすまし顔の愛らしさと、名家に相応しい気品。
硬質な金属でありながら、まるで極上のベールを纏っているかのような錯覚を抱かせる超絶技巧が、数センチの円盤の中に凝縮されていた。
他領の商人たちが一目で一目惚れし、支払いに使わずそのまま「家宝」にする者が続出する。
✦淡く輝く硬貨
――――――『琥珀銀貨エレグトラム』―――――
少し大人びた表情になり、頭に美しいティアラを戴き、慈愛に満ちた微笑みを浮かべている――そこに刻まれていたのは、【未来の10代後半】におけるアリアの姿だった。
金と銀が自然に混ざり合った、琥珀色の神秘的な輝き。
その素材の妙を極限まで活かし、硬貨の枠を超えて「血管が透けるような細やかな肌の陰影」までもが表現されていた。
うっすらと色づく頬の体温や、ティアラの冷徹な煌めき、そしてすべてを包み込むような慈愛の微笑み。
それはもはや硬貨ではなく、手のひらに収まる奇跡そのものであった。
一般の領民にはその価値が理解されず、流通数も極めて少なかったが、一部の熱狂的でニッチなファン層のハートをガッチリと鷲掴みにした。
結果として、この琥珀色の硬貨を巡り、裏社会や熱狂的な収集家たちの間で「血で血を洗う小規模な抗争」が起こったとか起こらなかったとか。
マニアの間で「サンクチュアリ」と称され、今なお高値で闇取引される隠れた名品である。
✦最高級の硬貨
―――――――『プローリン金貨』―――――――
見事に成長し、豪華な薄衣を羽織って圧倒的な美のオーラを放ちながら佇む――そこに刻まれていたのは、大人の女性としての完成形、【成人姿(ヴィーナス期・服付き)】のアリアであった。一見すると、教会の聖母マリア像よりも格調高い、神聖極まるデザインである。たなびく薄衣の立体感、気高き美のオーラは見る者を平伏させる風格を湛えていた。
――しかし、この硬貨には世界の破滅を孕んだ、あまりにも邪悪なギミックが仕込まれていた。布地のシワの重なり方、そして衣越しに浮き出るシルエットが、あの戦場で大暴発した『お守りの全裸ポーズ姿』のボディラインと、ミリの狂いもなく完全に一致しているのだ。
隠された肉体の凹凸を脳内で『透過』してしまった瞬間、聖母の衣はすべてを狂わせる淫らなベールへと変貌する。
事情を知る領主ジョナスをはじめ、騎士団の男たちはこれを見るたびに脳の許容量を超えた鼻血を噴出して卒倒。
経済を回すどころか、領内の最高戦力とトップの命を瞬時に刈り取る、文字通り最悪の最終兵器であった。
◇
ヴィーナス銅製メダルとアリア硬貨――この2大『推し貨幣製造システム』の爆誕は、領内の流通速度を完全に狂わせていた。
鋼鉄の原板を合金の板に凄まじい圧力でガシャン! ガシャン! と押し付けるだけで、均一でハイクオリティな硬貨を、1日に数千枚という狂気的なスピードで爆速量産できる最強のからくりである。
ふたりが職人魂を無駄に爆発させて「最高の5種類コンプリートセット」を作ってしまったがために、他領の貴族や領民たちは、それを普通のお金として使うのをやめた。
「お嬢様の成長記録を全種類コンプリートするまでは死ねない!」と、世界中のコレクターたちが猛烈な買い占めを始めたのである。
結果として、本来なら教会の【免罪符】と【溶ける奇跡像】に流れるはずだった金貨や銀貨が、この領地の市場(お嬢様硬貨)へすべて吸い尽くされてしまう。
領主ジョナスの純粋な娘への善意は、教会の経済基盤を内側から完全に破綻させる「最悪の経済封鎖兵器」へと変貌を遂げていたのである。
もちろん、愛娘アリアには完全非公式だ。
―その頃からだろう。
あんなに熱心だった教会からの依頼がピタリと減り、たまに使いの者が来ても、なぜか敵意を剥き出しにしてくるようになった。
司教直属の修道士が工房に怒鳴り込んできて、何やらキャンバスを指差して激怒していた気もするが、今は「血管が透けるような細やかな肌」をどう表現するかの方が100倍大事だ。
細かい苦情は、ロベルタが処理しているはず。
「おいー!ロッシュー!」
「なんだ?ルッカ!ん?あっ!休憩しないとな!休憩も仕事ってな。」
「ハァ……いつも休憩してるじゃん」
ちょくちょく遊びにくるアリアお嬢様の盛大なため息。
国家規模の経済崩壊の主犯。
それが、目の前でのんきに休憩しているこのふたりであるとは、世界中の誰も気づいていないのであった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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(次回も、楽しみにお待ちください!)




