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第4章 第2話 襲撃者

天才(変態)たちによる【勘違いブラックコメディ】の幕開けへようこそ!

 

※本作はカクヨミでも同時連載中ですが、そちらの方が数話ほど物語の更新が先行しています。

「牢獄を脱出した二人の、悪ふざけの続きが早く読みたい!」という方は、ぜひ先行しているカクヨミ版のページでも一気読みしてみてください!

 

▼カクヨミ版『牢獄のアルティザン』

https://kakuyomu.jp/works/2912051606683262649





ある夜の事。


 


作業場の屋根には、息を潜めて好機を待つ一人の襲撃者の姿があった。


 


「芸術家どもを始末せよ」との密命を受け、冷酷に暗殺の爪を研ぐプロの刺客。 


 


男は漆黒の装束に身を包み、鋭い短剣を抜いてボロボロ屋根の隙間から中を覗き込んだ。




部屋の奥では、ターゲットである世間知らずな芸術家ふたりが何も知らずに高いびきをかいて眠っている。


 


「フフフ……油断しおって芸術家ども。まとめて命を貰って――」


 


冷酷に呟きかけた襲撃者の言葉が、唐突に止まる。


 


――ふと、周囲から漂う異様な気配に気づいたのだ。


つい数分前、自分が屋根に飛び移った時には、確かに誰もいなかったはずである。


 


男が何気なく振り返り、作業場の敷地を見下ろす。




――その瞬間。


 


「…………は?」


 


プロの暗殺者とは思えない、最高に間抜けた声が、深夜の屋根上でぽつりと響いた。


 


いつの間に現れたのか、月明かりに照らされた敷地一帯を、不自然なほどガチムチな体躯の男たちが何重にも、それこそネズミ一匹通さないほど「包囲」している。


しかも、彼らが身につけているのは、最強を誇るクスターフ領主直属『近衛騎士団』の最上級鎧。


 


「な、何なんだこれは……!? なんで夜中に、最強騎士団が全力でガチガチに囲んでるんだよ……!?」


 


喉が激しく渇き、全身の毛穴という毛穴が恐怖で粟立つ。


 


「戦地にいるはずの連中が……なぜここにいる!?」


 


情報が違いすぎる。 


 


ただの芸術家を消すだけの簡単な仕事のはずだったのに、どう見ても国家反逆罪レベルの厳重警備が敷かれている。


裏の社会でどれだけ顔が広かろうが、正面から国家最強の軍隊に勝てるわけがない。


 


だが、この哀れな襲撃者は知らなかった。


彼らは芸術家を守るための警備兵ではない。




戦場で「10年後の美神」に理性を失って敵陣を文字通り木っ端微塵に突破したあと、あろうことか主君である領主ジョナスを戦場にポイッと置き去りにしたまま、ただひたすらに己の欲望のためだけに爆速で帰還してきたのである。


 


「先生達」の安眠を決して妨げないよう、鎧の擦れ合う音すら極限まで殺した、超絶的な無音高速移動による完全包囲。 


 


彼らは夜通し大行列を作って作業場を囲んでいる、ただの狂暴なファンクラブ(徹夜組)だ!!





――ガサゴソッ!!!





――物音に気付いた徹夜組の目線が赤く光る!


 


 


「ひっ……!?」


 


ボロボロ屋根の上で暗殺者が恐怖に硬直した瞬間、足元から大砲の弾をも素手で叩き落とさんばかりの勢いでガチムチの男たちが壁を駆け上がってきた。


 


「俺たちの『10年後のグッズ』の誕生を邪魔する奴は……万死に値する!!」


 


「あぁん!?」と血走った目の狂戦士(ファン)たちによって、襲撃者は逃げる間もなく引きずり下ろされ、ガチッと取り押さえられる。


超小声ながらも、骨が軋むほどの容赦ない尋問が深夜の敷地で繰り広げられる。




プロの刺客としてのプライドなど、目が逝ってる連中の物理的な暴力の前には紙切れ同然。


暗殺者はその場で秒で黒幕を吐き出した。


 


吐かされた名前は、ロベルタを脅していた裏社会のヒョロヒョロ貴族。


 


「野郎ども!! 害虫の親玉の屋敷へ突撃だァァァッッ!!」


 


「「「うおおおおおおおッッッ!!!!」」」


 


ロッシュとルッカが高いびきをかいて夢の世界を楽しんでいる、まさにその同じ夜の裏で。




怒涛の勢いのまま貴族の屋敷まで一気に突撃を敢行。




最新兵器すら粉砕したバーサーカーたちの前では、悪徳貴族の私兵などなす術なく瓦解する。 




哀れなもやし貴族は、その巨大な利権もろとも、物理的に一晩で木っ端微塵へと壊滅させられたのである。 




◇




――数日後。




戦場にポイッと置き去りにされ、後からトボトボと帰還した領主ジョナスによって、近衛騎士団には当然のように「軍規違反(主君置き去り罪)」の厳罰が下された。




しかし同時に、彼らの暴走が結果として街の「長年の膿(裏社会の悪徳貴族)」を根こそぎ出し切ったという功績を認められ、温情として徹夜組の騎士たちは盛大に表彰されることとなった。




だが、ここからが本当の「異常事態」だった。




表彰式の壇上、領主ジョナスの手から騎士たちの首へと掛けられたのは、純銀製の特製表彰メダル。




……なのだが、その表面に刻まれていたのは、領主の顔でも高貴な一族の紋章でもなかった。




メダルの円盤に収められていたのは、まさに『アリアの誕生』とでも呼ぶべき、残酷なまでに完璧なヴィーナス像だった。


十年後の未来で実らせたであろう、豊満な果実のような双丘。


それを気休め程度に遮る両腕の隙間から、瑞々しい肉の特等席がこれでもかと主張している。


職人の執念深いノミ跡は、彼女の「恥じらい」という目に見えない感情さえもレリーフの凹凸に刻み込んでいた。


光を当てる角度を変えるたび、金属の陰影が彼女の肉体のくびれをなぞり、まるで目の前で少女が秘部を隠し、身悶えしているかのような錯覚に陥る。





領主ジョナスもまた、あの奇跡の芸術に脳を焼かれた被害者の一人だったのだ。




メダルを授与された近衛騎士長は、胸元で燦然と輝く「推しの10年後の全裸メダル」を指先でそっと愛おしそうに撫でながら、全民衆に向けてキリッと澄み渡った大真面目な顔でこう言い放った。







「私はただ、クスターフ家の『誇り』を守ったまでです!!」






「「「おおおおお……っ!!」」」と、事情を何も知らない民衆が、涙を流して騎士たちの忠義に感動の拍手を送った。





◇





――そんな外の熱狂とは裏腹に、作業場のベッドの中。





「……なぁ、ロッシュ。外、なんかうるさくね?」


 


ルッカが寝返りを打ちながら、薄目をあけてぼやいた。


 


「もう季節の祭りの時期か……。どうせ俺らには関係ないよ……」


 


ロッシュは布団を頭まで深く被り、気怠げに呟く。


 


「だな……」


 


そうして、外の出来事など露知らず、仲良くそろって夢の世界へと突入したのである。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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(次回も、楽しみにお待ちください!)


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