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第4章 第1話 芸術家たちの防衛策






とある荒野で、あのお守りが歴史を木っ端微塵にぶっ壊した――




まさにその直後――……。




天地を揺るがす大惨事の元凶であることなど露知らず、ふたりはかつてないほど自由に己の歪んだ芸術を爆発させていた。





ロッシュは、領主夫人パメラの姿を幻視し、その「双丘」の肉の質感すら描き分けんとする偏執的なクローズアップをキャンバスに描き殴り。


ルッカは、さらに複雑な連動をみせる「新しいパージギミック」の開発に没頭し、精密な真鍮のバネをいじくり回していた。





ギィ……。





いつもと違って驚くほど勢いのない、弱々しい音を立てて作業場の木扉が開く――。




「ハァ……。あんたら、ちょっと今いいかい……?」




入ってきたのはロベルタだった。


しかし、いつもの大魔神のオーラはどこへやら、その顔に落ちるのは深い疲労の影。




「あら? どーしたの姐さん。珍しく元気なさそうじゃん」




ルッカが部品を組み立てながら軽口を叩く。




「いや……ほら、ちょっと前にさ、あのヒョロヒョロの貴族の依頼をこっぴどく断っただろ? あれ絡みさ……」




深く溜息をつき、近くの椅子に力なく腰掛けるロベルタ。




漂う空気は、あまりにも意味深。




「ってことは……だぞ?」




ルッカの視線が、そっと部屋の隅の棚へと向けられる。




「おっ! 姐さんにお玉をへし折られる心配が、今日に限って言えば、万に一つもない……!」




ふたりの目がギラリと輝く。




「ロッシュ、仕事は終わりだ! ワイン飲むぞ!」




「だな! 休憩も職人の重要な工程だからな!」




「バカ言ってんじゃないよッッ!!」




力のない声ながらもロベルタの怒号が響き、ふたりは慌てて工具と筆を握り直した。




「あんなもやし野郎、姐さんの一撃でいつも通りやっちまえばいいだろ?」




ロッシュは怒られた手前、今度はロベルタに視線すら向けずにキャンバスの双丘へとこだわり抜いた淫靡な桃色の絵の具を乗せる。




「まー……見た目は弱そうだけどさ。あの男、裏の社会で結構…顔が広いらしくてねぇ。ちと、目をつけられちまったみたいでさ」




ロベルタの肩から、あからさまに力が抜けていく。いつもの威圧感は完全に消え失せていた。




「教会や領主様の保護は求めなかったのか?」




ルッカは手を止め、珍しく真面目なトーンで尋ねる。




「今、街の外じゃ反勢力の動きが活発化してるだろ? 教会も領主館も、その対応にかかりきりで動けないみたいで…」




ロベルタは首を振り、最後にふたりを鋭く、しかし心配そうに見つめて釘を刺す。




「あんたらも用心しな。あの手合いは、プライドを潰されたら裏で何をしだすか分からんからね……それと、さっき裏口のノブに、これが深々と突き刺さってたんだよっ!」




ロベルタが深い拒絶感を滲ませながらルッカの作業台に置いたのは、いつものお玉ではなく、衣服の切れ端が巻き付いた一本の不気味な短剣だった。




その鋭い刃先には、まだ乾ききっていない裏社会の『生々しい血痕』がべっとりと付着している。




「あの貴族、本気さ。すでに雇ってるよ……裏の社会で『首切り道化』って呼ばれてる、プロの暗殺者をね」





「「へーぃ」」





返ってきたのは、ふたりそろった完全に気の抜けた生返事。


そればかりか、ルッカはロベルタの目の前で、その禍々しい短剣をひょいとつまみ上げると、何のためらいもなくゴミ箱へとボッシュートォっ!





「全く、これだから芸術家ってやつは……!」





ドンッ、と不機嫌そうな音を立てて扉が閉まり、ロベルタの足音が廊下の向こうへと遠ざかっていく。




……バタン!




っと表玄関の扉が閉まった――まさにその瞬間。




ルッカは何食わぬ顔で足元のゴミ箱へ手を突っ込み、たった今捨てたはずの短剣をシュバッと素早く回収。




「さっきはああ言ったけどさ。この短剣、重心がめちゃくちゃ珍しいバランスなんだよ。暗殺用にしては柄が重い。ほら、ここを回すと……中に別の仕掛けを隠せるスペースがある。そそるじゃねえか」




画架の隣で短剣をいじるルッカに対し、ロッシュも筆を止めてどれどれと覗き込む。




「フンッ!……からくりはどうでもいいが、この刃にこびりついた『血の赤色』を見ろ。裏社会のドス黒さが肉汁のように滲み出た、実にいい赤だ。乾ききる前に削り取って、絵の具の顔料に混ぜたいな」




危機感の欠片もなく、ゴミ箱から回収した暗殺者の警告をふたりで囲んでベタベタと触り始める。





「……おい」




「なんだルッカ?」




「自衛しろってさ、姐さん」




「はっ! 色のタッチが変わるから、無駄な筋肉なんて絶対につけたくないの!」




ロッシュは短剣を放り出すと、再び筆を握り直し、傲岸不遜な笑みを浮かべてキャンバスに向かう。




「だよなー。指先の感覚が狂ったら、からくりが作れねえし」




ルッカも納得したように作業台へ戻り、また真鍮のバネを調整し始める。




「よし、じゃあ相手の目を一瞬で眩ませる、ピンクの目潰し絵の具でも調合しておくかな〜」




「いいなっ!それっ! 俺はその絵の具を発射する仕掛け武器みたいなの作るぜ!」






いつまでも危機感を持たない、ブレない変態芸術家ふたり。


だが、彼らの知らない裏社会の暗雲は、確実にすぐ近くまで忍び寄っていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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(次回も、楽しみにお待ちください!)


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