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第3章完結 第5話 小さなキッカケ





――数刻後。


 


ロベルタの手配によって、教会から呼び出された下っ端の運搬係(下級修道士たち)がゾロゾロとやってきた。


 


「ひっ……! な、何ですかこの空間は……。右を向いても左を向いても司教様のハゲ、ハゲ、ハゲ……っ!」


 


扉を開けた若き修道士が、その不気味な光景に震え上がる。


しかも、発酵したチーズと酸っぱいワインが蜜蝋と混ざり合い、作業場内はちょっとした生ゴミ処理場のような異臭に満ちていた。


 


「バ、バカ者、こ…声を上げるな! 司教様のご尊顔だぞ! ……しかし、なぜだろう。この像、なんだか凄まじく酸っぱい変な臭いがしないか……?」


 


「い、いえ先輩! これはきっと、お命を削って奇跡を成し遂げられたアルティザンたちの、聖なるインスピレーションの香りに違いありません! ほら、よく見ると赤いシミが血の涙のように神々しいです!」


 


「そ、そうだな! 疑ったら異端審問行きだ! 司教様万歳! さあ、傷をつけないよう丁重に箱へ収めるのだ!」


 


下っ端たちは「異端審問が怖いから奇跡ってことにしとこう」と必死に自分を納得させ、ウキウキで馬車に積み込んでいった。


 


 


◇


 


 


作業場から運び込まれた像は、教会の1室を埋め尽くしていた。




その数、ぴったり千体。




大量のハゲ像を前に、駆けつけたおっさん修道士は床に膝をつき、むせび泣いた。


 


「おお……! もう1000体も作ったのですか!? 1000とはなんと縁起の良い数だ! これぞまさに、神の奇跡……っ!!」


 


その横で、ルッカとロッシュは死んだ魚のような目で、互いにヒソヒソと囁き交わす。


 


「おいロッシュ、奇跡だってよ」


 


「ゴミの山だけどな。まぁ、アイツらが喜んでるなら何でもいいだろ」




 


――信仰においてなんでもアリである。




  


こうして、奇跡の身代わり司祭像は、他領の領主や熱狂的な信者たちへ、新たな『お布施』という名の大規模な強制徴収の道具として配り歩かれる。




度重なる免罪符の乱発も相まって、各地の反発勢力の怒りは急速に限界へと沸騰。




特に、この『奇跡のハゲ像』は、彼らの怒りに火をつける最悪の起爆剤となったのである。





いや、物理的な起爆剤となる。


 




 


◇


 


 


とある貴族。


 


「ほう。少し匂いがきついが妙に色合いが凝ってるな。これで、我が身に何かあっても大丈夫だ。心配ない。」


 


お祈りをしようと、彼がハゲ像の近くへロウソクを持っていった、その瞬間――!


 


――ドンっ!


 


重く鈍い音とともに、奇跡の身代わり像がはげしく破裂する。


辺り一帯に生ゴミが散乱し、その中心。


 


顔面へ腐ったチーズをベッタリと張り付けた貴族が、そこに立ち尽くしていた。




「……はっ?」




一瞬、部屋に恐ろしいほどの静寂が広がる。




だがその内心、ドス黒い怒りが凄まじい勢いでこみ上げていく。


男はわななぶ手で拳を強く握りしめると、目の前の祭壇を激しく叩きつけた。


 


 


――ドンっ!!!




 


「ふざけるな……! 悪臭を放つゴミを売りつけておいて、さらに金を毟り取る気か!」




それも配った各地で同じ悲劇が巻き起こった。




中には無事に耐えきるハゲ像もあったが……各地で巻き起こる、前代未聞の「ハゲ像連続爆破事件」。


 


飛び散る腐敗チーズとラードの悪臭にまみれ、顔面をギトギトにした貴族たちが激怒する中、教会の司教は、その強欲な目をギラつかせながら演壇に駆け上がった。


 


「静粛に! 皆様、静粛に!! これぞまさに……これぞまさに、神の奇跡、そして聖下の深い慈悲の証明でございます!!」


 


司教は狂ったように熱弁を振るう。


 


「あの像が爆発したのは、皆様の内に溜まった不信心の罪、そしてこれから降りかかるはずだった恐るべき災いを、聖下のハゲ像が『身代わり』となって吸い尽くしてくださったからに他なりません!……おお、なんという慈悲! さぁ、身代わりとなって砕け散ったハゲ像のパワーを補うため、今すぐ新たな免罪符をお買い求めになるのです!!」


 


元々、度重なる免罪符の強制販売によって教会への反感はマグマのように溜まっていたのだ。




ハゲ像を送りつけられ、顔面をラードまみれにされた他領の領主。




不満を募らせていた貴族。




固定概念を押し付けられていた信者たち。


 


彼らの怒りは、ついに限界を超える。




これまで地下に潜伏していた小さな「反乱組織」に激怒した領主たちの私兵や、貴族たちの資金が爆発的に流れ込んでいく。


 


たった1000体の中身がゴミの爆ハゲ像が弾けただけで――地味な反乱分子だった組織は、またたく間に教会を打倒しうる『軍隊』へと変貌を遂げてしまったのだ。


 




まさに、彼らの悪ノリが歴史を狂わせた瞬間であった。


 


 


自分たちの悪質な手抜き工作が、まさか教会を滅ぼしかねないガチの反乱軍を爆誕させる引き金になるとは……。


 


この時、作業場のベッドで高いびきをかいて「二度寝」をキメている天才ふたりは、当然ながら知る由もなかった。









第3章 〜量産型ハゲ司祭像。はげしく爆発編〜 完 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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(次回も、楽しみにお待ちください!)


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