第3章 第4話 奇跡の溶けるハゲ像量産型
――翌朝
ハゲ像を大量に作るはめになったアルティザンのふたり。
だが、流石に前回のクオリティで作っていては、時間も労力も……何より「やる気」が消滅する。
そこでルッカは、ただ蜜蝋を流し込むだけで溶け像が完成する特製の金型を複数自作した。
「材料の蜜蝋は、あのハゲ司祭の等身大で作った余りで足りるだろ! もし足りなくなったら、その辺のラードとか酒を適当に混ぜとけ!」
もう、ハゲを彫るのが心底嫌になったルッカが投げやりに言い放てば、ロッシュも満面の笑みで親指を立てる。
「おっ、金型に入れるだけなら簡単だな!任せとけ!」
こうして、ろくでもない悪ノリから、手抜きハゲ像大量生産の幕が爆速で切って落とされる。
その工程はいたってシンプル、かつ極めて雑である。
工程その①:ドボドボ流す―――――――――――
片手鍋にたっぷり溶かした蜜蝋を、並んだ金型の口へ「トトトトトッ」と順番に流し込んでいくだけ。
工程その②:ツマミや酒を飲みながら待つ――――
流し終えたら冷めて固まるまでやることがない。ロッシュが作業場の奥から、大魔神の魔の手から死守した高級ワインを引っ張り出してきて、二人で豪快に煽り始める。
「……おいロッシュ! なんかこのツマミ、少し酸っぱくねぇか? 」
「気のせいだって! アクセントは効いてるが……まぁ腐ってはないだろ!」
工程その③:パカッと開けてゴロン―――――――
コップ1杯の酒を飲み終わる頃には、ちょうどよく冷めて固まっている。
金型を順番にパカパカと開けて、中のハゲ像を机の上にゴロンゴロンと転がし落とすだけ。
「そういやルッカ、サイズ指定されてなかったから、手のひらサイズでよかったのか?」
「おう、量産型だから大丈夫だって」
――根拠のない「大丈夫」。当然、心配しかない。
最初の数巡こそは順調に進んでいた。
だが、酒盛りをしながら片手間に作業を続けるうち、完全に酔いが回ってきた天才たちのブレーキは音を立てて壊れていく。
「作業場も汚くなったしゴミも一緒に入れとくか!掃除も出来て一石二鳥だな」
ロッシュは白目を剥きかけた恍惚の表情のまま、床に落ちていた大理石の粉や顔料の削りカスを両手で豪快に掃き集めた。
「ルッカ、よく見ろ! この大理石の粉が蜜蝋の隙間に入り込むことで、ハゲの頭皮に『男の哀愁とざらついた質感』が生まれるんだよ! これぞ光と影、さらにゴミの融合……!」
「ギャハハハ!じゃあついでにその辺の消し炭も入れといて。カサ増しカサ増し」
天才画家の歪んだ美学は、アルコールによって完全にバグっていた。
言うが早いか、ロッシュは手元にあったピノなんとかチャーノのボトルを傾け、ドボドボと流し込まれる蜜蝋の中に直接ワインを注ぎ込み始める。
「あぁ~、何してんだよロッシュ! ワインがー!」
「いいんだよルッカ! 神秘の血が混ざったハゲ像だぞ。教会も大喜びだろ! ガァハハハ!」
「それもそうだな! じゃあ僕はこの3日前の腐りかけのチーズの欠片も入れちゃうもんね!」
「カチカチの黒パンや腐った食べ物もいれとこ」
「ギャハハハ!掃除しなきゃ」
悪ふざけのブレーキは完全に壊れていた。
ロッシュはろれつの回らない口調で叫ぶと、床のホコリから木屑、さらにはルッカが実験で残していた火薬の残りカスまでを、鍋の蜜蝋の中へと見境なしに放り込みスプーンでぐるぐると力任せにかき混ぜ始める。
「よし、特製ハゲスープ一丁上がり!はぃ!型に 流してルッカ!」
「うおー! 量産量産ッ!」
トトトトトッ、ガチャン、パカッ、ゴロン。
「うおっ!転がりすぎて足元まで!くっ…くっさー。ハゲ像くっさー」
悪ふざけはエスカレートの一途をたどり、もはや型の中に何を入れているのか本人たちすら分かっていない。
――真夜中。
「なー、ルッカ……」
「んぉ? どしたロッシュ……」
「そろそろ飽きない? 入れるゴミもなくなってきたし」
「んじゃ、明日の朝には教会に持ってくか……」
「だな。少し寝るか……」
酔っているとはいえ、今回もあまりにもやりすぎである。
◇
――翌朝
流石は教会屈指の天才アルティザンふたり。
どれだけ泥酔していようとも、爆速の職人技で注文通りのハゲ像を作り上げる。
作業場のテーブルの上から棚、そして床に至るまで、異常な密度でひしめき合う手のひらサイズのハゲどもの群れ。
朝日に照らされたそれは、混ぜたワインやゴミのせいで妙にまだらで不気味な光沢を放ち、無駄に洗練された二人の技術がそのキモさに拍車をかける。
――ガチャリ、と作業場の扉が開いた。
様子を見に訪れたロベルタと、たまま遊びに来たアリアが中を覗き込む。
「「……キモっ。」」
「あ、姐さん! ちょうどいいところに!」
ルッカが揉み手をしながら、調子のいい声をあげる。
「とりあえず作業場にはもう置くスペースがないんで、教会に運ぶの手伝ってくれませんかねー?」
ロベルタは額を押さえ、深いため息をついた。
「……これだけの量だと、あたしたちだけじゃ運びきれないね。教会の下っ端どもを連れてくるさね」
そう言って、ロベルタは優しくアリアの肩に手を添え、出口へと促す。
「お嬢様、このままおかえりなさいませ。すぐに教会のむさ苦しい連中が来ますので。本日はわざわざ足を運んでいただきましたが、また別の機会に……ね?」
「えぇー! もう少し見たかったのにー!」
そう言って不満げに足をバタつかせるアリアお嬢様の背中を、ロベルタは「はいはい、お嬢様はこんなキモいもん見ちゃいけません」と強引に押して、工房の外へと連れ出す。
残されたのは異臭を放つ大量のハゲ像と手揉みをするルッカ、臨時に白目を剥いたままのロッシュだけ。
床一帯を埋め尽くす、ワインとゴミと腐ったチーズ、実質的に火薬の残りカスまでが絶妙にブレンドした、大量の『溶けるハゲ像』たち。
静かに最凶の時を待つこのキモい群れが、のちに中世ヨーロッパの歴史を根本からひっくり返す大騒動を巻き起こすとは――。
泥酔から覚めきっていない天才アルティザンふたりは、まだ夢にも思っていないのであった。
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(次回も、楽しみにお待ちください!) 更新忘れてたテヘェw




