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第3章 第2話 中空構造(スッカスカ)






「うおっ!? なんだ急に大声出しやがって、耳元で吠えるなルッカ!」


 

ロッシュが耳を押さえながら椅子から飛び退く。



「おいロッシュ、これを見ろ!」


 

ルッカはまだ開けていないワインボトルをひったくると、その先端の黄色い部分をドヤ顔で指差した。

 


「……あ? 蜜蝋だろ? ワインボトルの栓をコーティングしてるやつ。それがどうした、お前。そんなにお酒が飲みたいのか? 現実逃避のやけ酒なら俺も付き合うが」

 


「ちげーよっ!!」


 

ルッカの容赦のないツッコミが作業場に響く。

 


「いいかロッシュ、この蜜蝋を溶かして型に流し込むんだ! 中は中空になっちまうが、これならすぐにでも等身大の像ができるぞ!」


 

「……おいルッカ、お前。教会のハゲを、中身がスカスカのワックス像で騙す気か?」


 

「これしか生き残る道はねえんだよ! 資金なら、さっきのモンなんとかチャーノの銘酒を数本裏で売り払えば、すぐに必要な材料も手に入る!」



ルッカはニヤリと汚い笑みを浮かべると、右手をガシッと前に突き出した。

 


「もちろん、お前も手伝うよな?」


 

「……フッ。同じパターンの握手、だな」

 


ロッシュがその手を力強く握り返す。



こうして、教会の心臓部をハメ倒すための、最悪で最高な悪巧みが静かに幕を開けた――。



◇


 

ロッシュがモンなんとかチャーノを闇市に売りさばきに走っている間、ルッカは蜜蝋を流し込むための型制作に取り掛かった。


 

ルッカは作業場の隅にあった手頃な木箱をバラすと、ノコギリと槌を叩きつけて即席の鋳造型の枠を爆速で組み上げていく。


そこに消石灰と細かく砕いた砂を絶妙な比率で敷き詰め、金属のヘラで滑らかに均していく。


 

等身大の像を一発で型取るのは物理的に不可能なため、ルッカは最初から「頭、胴体、両腕、下半身」の5つのパーツにバッサリと分割する作戦をとった。


パーツ単位に小分けすれば、複雑な人間のデコボコもただの単純な四角や円柱の組み合わせに変わる。

 


職人の精密な計算と手際により、作業場の床はあっという間に砂の型で埋め尽くされていく。



ロッシュが大量の蜜蝋を担いでゼェゼェと息を切らしながら戻ってくる頃、すでに5分割の型が堂々と鎮座していた。


 

ルッカは額の汗を手の甲で拭うと、ニカッと白い歯を見せて自慢げに型を指差す。

 


「蜜蝋ってのは低い温度でドロドロに溶けるから簡単に成形できる。完璧だろ? って……おいおい、本当にあの高級ワインを全部売っ払って、これだけの蜜蝋を買い込んできたのかよ」



ルッカが床に積まれた黄色い蝋の塊を見上げて、呆れたように、しかし口元をニヤつかせながら呟く。

 


「当たり前だろ。あのハゲの脂ぎったドタマを等身大にするんだ。これでも足りないくらいさ……まぁ、俺たちの命の水として数本だけ裏にハネておいたけどな」

 


ロッシュはまだ上がらない息を整えながら、巨大な鋳造用大鍋に火をかけた。


ベースがおっさんの頭皮だろうと、美の探求者として色彩の艶に一切の妥協は許さない。画家の瞳に怪しい熱が宿る。

 


ここからは時間との勝負。蜜蝋は熱を加えれば一瞬で溶けるが冷めるのも早い。


言葉を交わさずとも互いの意図を察する超絶的な連携が発動する。


 

「ロッシュ、火力を上げろ! 蝋を一気に沸騰させる!」


 

「分かってる! だが焦がしたらハゲの肌の『ピンクの艶』が濁るだろ、黙ってろ!」

 


グツグツと怪しい音を立てて、大鍋の中で大量の蜜蝋が黄金色の液体へと変わっていく。


作業場の空気は、独特の甘い香りとサウナのような熱気で瞬く間に満たされていった。

 


ルッカが手際よく砂の型を固定し、大鍋の取っ手をロッシュと共に掴む。



「いくぞ、せーの……っ!」


 

ドボドボドボッ!!!


 

沸騰した黄金の液体が、5分割された砂の型へと勢いよく流れ込む。


ルッカの精密な計算通り、型を満たした蜜蝋が砂の冷たさによって外側からわずか数ミリの厚さで「殻」のように固まり始める。


 

「よし、今だ! 残りを抜けっ!」


 

「うおおおおおっっ!!」



二人は息を合わせて重い型をひっくり返し、まだ固まっていない内側のドロドロの液体を一気に別のバケツへと排出した。


型を開けば、そこにはルッカの狙い通り、外見は完璧な人間の形をしながら中身は空っぽな「厚さ数ミリのパーツ」が姿を現す。

 


「……ククッ、見ろよルッカ。中身がスカスカで空っぽなんて、あのハゲの脳みそと一致してるな」


ロッシュが、早くも固まりつつある顔パーツを覗き込んでゲラゲラと笑う。


「違えねえ。……よし、あとはこの5つのハリボテを、内側から熱したコテで溶接して一本に繋ぎ合わせるだけだ。納期がたったの3日しかねえっていうからどうなるかと思ったが、このやり方なら今日の夜には等身大が完成するぞ」

 

「おっ! これなら明日の朝からは私の出番だ。残りの2日で、あのハゲが泣いて喜ぶような極上の塗装を施してやるさ」 


二人は全身煙まみれで、再び汚い笑い声を響かせ合う。


だが、彼らはまだ気づいていない。


自分たちが手際よく作ったこの「中身スカスカのハリボテ構造」こそが、数日後の宗教祭の熱気によって恐るべき珍事を引き起こすとは……。




最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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(次回も、楽しみにお待ちください!)


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