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第3章 第1話 悪夢、再び

天才(変態)たちによる【勘違いブラックコメディ】の幕開けへようこそ!

 

※本作はカクヨミでも同時連載中ですが、そちらの方が数話ほど物語の更新が先行しています。

「牢獄を脱出した二人の、悪ふざけの続きが早く読みたい!」という方は、ぜひ先行しているカクヨミ版のページでも一気読みしてみてください!

 

▼カクヨミ版『牢獄のアルティザン』

https://kakuyomu.jp/works/2912051606683262649


ある昼下がり。


 


「おい、ルッカ。このワイン知ってるか?」


 


おもむろに作業場の片隅にある木箱を開けると、そこにはズラリと並ぶ銘酒たち。


 


「……はっ!? どこで手に入れたんだよ、それっ!」


 


「ん? ちょっとしたツテでな!『一番高い酒を沢山くれ』って言ったら、モンなんとかチャーノって銘柄の酒を出してきてさ!」


 


「ポンポン出ないと思うけどな……。誰のお金で買ったんだよ? ロベルタにバレると殺されるぞ……」 


 


「ん? 俺たちは教会のお抱えだぞ? ツケだよ、ツケ! 上質なお酒やツマミがないと名画が描けないって言っとけば大丈夫だって」 


 


 


――コンコン。


 


 


「おっ、きたかな?」


 


ロッシュが珍しくスキップしながら扉を開ける。


 


「ちゃーす! 居酒屋フェンネルでーす。おつまみ持ってきやしたー!あざーしたー!」


 


ドカドカと大人数人で運ばれる、パンやチーズにハムなどのツマミの数々。


 


 


「おいルッカ! この言葉知ってるか?『休憩も仕事』ってな! 2、3日は大魔神が帰ってこないから、それまで豪遊だっ!」 


 


「おっ!!なら、仕事しますか!」




2人は指先まで鮮やかな絵の具に染まった手で、ドガッと食べ物を掴み取る。


レンガみたいに固いパンを汚い手でバキバキに割り、ニンニクとオリーブオイルをぶっかけ、あろうことか高級ワインにドボドボと浸して胃袋に流し込む。


さらに、さっきまでノミを握って大理石を削っていた手――粉をかぶって真っ白になった手のままで、次の料理へと容赦なく指を突っ込んでいく。


 


「おい、このチーズ、さっき削った大理石の粉がついててジャリジャリするぞ」


 


「カルシウムが摂れて体にいいんじゃねえか?知らんけど。」


 


 


――ドンっ!


 


 


そんな不衛生極まりない作業場の扉が、勢いよく蹴り破られた。


 


「おぃ、司教様からの使いであるぞ!」


 


怒鳴り込んできたのは、息を荒くした教会の――おっさん修道士。


 


「うわぁ、おっさん……」


 


ルッカがワインに浸したパンを口に咥えたまま、露骨に嫌そうな顔をする。


 


「おっさんとは何だ!おっさんとは! 私は司教様の直属、由緒正しき使いであるぞ!」


 


ロッシュは動じることなく、木箱から一番高いワインをもう一本引き抜いた。


ポンッ!と気の抜けた小気味いい音が作業場に響く。


 


「まぁ固いこと言うなって。ほら、おっさんも一杯やってけよ。このペコなんたらチーズ、さっき削った大理石の粉がついててジャリジャリするが、歯ごたえがあって最高だぞ」


 


「石の粉を食わすな! 毒殺する気か!!」


 


「「キャハハっ!えぇー!うまいのにー」」


 


大魔神やキラキラ騎士でないとわかると、酒のツマミとして、おっさん修道士を弄び始めるふたり。


 


「クソぉ…。私は司教様の使いだぞ……」


 


「ギャハハハ!顔真っ赤にして激怒プンプン丸じゃん」


 


ルッカが追い打ちをかける。


 




「クッ!お前ら、司教様が呼んでいる。早く馬車に乗れっ!」


 


 


「「はっ?」」


 


 


――その瞬間。


 


脳裏をよぎる明確な「思い当たる節」。




さっきまでベロベロに酔っていたはずのふたりは、それ以上一切ふざけることなく無言で視線を交わすと、驚くほど大人しく馬車へと乗り込んだ。


 


(……な、なんだ急に静かになりおって。不気味な奴らめ……)


 


置いてけぼりにされたおっさん修道士が、不審そうに首を傾げながら馬車の扉を閉める。 


ガタゴトと揺れながら走り出す馬車の中で、二人の変態芸術家は、これから待ち受ける運命に思いを馳せていた――。





◇





――教会最奥にある、例のステンドグラスの下。


 


「司教様、例の芸術家2人を連れてまいりました」


 


さっきまでバカにされていた腹いせに、これ見よがしに胸を張る、おっさん修道士のドヤ顔。


 


「近くに寄れっ!」


 


冷徹な声が響くその先。神聖な光が差し込む特等席に、司教本人と、以前ロッシュがおもしろ半分で描き上げた、あの司教の肖像画が並ぶ。




 


ステンドグラスの五彩の光と、司教のハゲ頭が乱反射して二倍の眩しさを放っており、もはや直視すれば目が開けられぬほどである。


 


「「ははー」」


 


2人ともその暴力的な眩しさに耐えかね、揃ってこうべを垂れる。


 


「よくきた! 我がアルティザンの天才たちよ……!」


 


いつもになく興奮気味である。鼻息を荒くして肖像画を指差した。


 


「見事だ! この私の頭頂部から放たれる、眩いばかりの輝き……! これぞまさに古典神話の崇高なる寓意! 神聖なる教えの光が、この一枚に見事に表現されているではないか!」


 


「「は?」」


 


また、牢獄行きだと思って完全にシラフに戻っていた二人は、無言で顔を見合わせた。


 


「この神聖なる肖像画を元に着色した等身大の像を作れ! 3日後の大きな宗教祭で、民衆にお披露目するのだ! 以前、聖母マリアを2週間で作ったんだ。天才アルティザンであらば十分間に合うだろう」


 


「「……っ」」


 


二人の背筋を、氷水を流し込まれたような激しい悪寒が走り抜けた。


ここは教会の心臓部。逆らうことは死を意味する。二人は震える声を必死に押し殺し、澄ました顔の仮面を張り付けて深く頭を下げた。


 


「「……仰せのままに、司教様」」


 


 


◇


 


 


ガタゴトと馬車に揺られ、作業場に戻ってきた二人。


 


「モンなんとかチャーノ」の銘酒も、居酒屋フェンネルからドカドカと運ばれてきた美味そうなツマミも、今の二人にはもう、色を失ったただの泥のようにしか見えない。


 


ロッシュは無言のまま、作業台の前に立ち尽くす。


いつもなら真っ先に茶化してくるはずのルッカも、何も言わずにただ静かにワインのボトルを見つめていた。




 


たったの3日で完成させろ。


それが、彼らに突きつけられた新たな死刑宣告。


 


不気味なほどの静寂が、不衛生極まりない作業場を包み込んでいく。


 


――その時っ!


 


「我に秘策ありっ!」 


 


ワインボトルを見つめていたルッカの叫びが、重苦しい静寂を爆速で吹き飛ばす――!

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


画面下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にポチッと染めて評価・応援していただけると、次の突貫工事(執筆)のめちゃくちゃ励みになります!


(次回も、楽しみにお待ちください!)


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