第2章 第4話 大魔神降臨
「……何か、言い残したい弁解はあるかい?」
目の前に立つロベルタの、あまりの低音ボイスに作業場の床が震えた。
私たちは額を床にこすりつけながら、壊れた玩具のように必死に口を動かす。
「ご、極度の戦場の緊張を緩和しやすいように、という職人の配慮でしてね!? これを見れば『絶対に生きて帰るぞ!』って気持ちになりませんかね!?」
ルッカが限界の声を張り上げれば、ロッシュもすかさず言葉をねじ込む。
「そうそう! それに昔の偉い人は、性欲を内に我慢するのではなく戦の外に放出すると、そのパワーは『神のごとし』って言ってたじゃないか!」
サプライズ目的で仕込んだカラクリだったのだが、目の前の大魔神には、ただの苦しい言い訳にしか聞こえない。
「きぃー……さぁー……まぁー……らぁァァァッ!!」
「「ヒィっ!!」」
ロベルタから、大聖堂の鐘を叩き割るかのような怒声が放たれた。
――その時である。
――パカ、パカ、パカ、パカ……。
窓の外から、規則正しい蹄の音が響いてくる。領主館の紋章を掲げた馬車が、すぐそこまで近づいていた。
「「「はっ……!」」」
三人の身体が、同時に硬直する。
「あんたら……これ……!また、元の姿にくっつくんだろうね!?」
ロベルタが般若の顔のまま、今度は大慌てで叫んだ。
見られたら、全員まとめて不敬罪で即日処刑だ。
「ええ、ここをこうして、この溝をこう合わせると……ほら!」
ルッカが天才的な手つきで、床に散らばった衣服パーツを爆速でパズルのように組み立て直していく。
「待てルッカ! 右腕の角度をあと3ミリ内側に! そうすれば、隠れた全裸の曲線が衣服の隙間からより官能的に――」
「うるせえ変態!! 今そんなこだわり発揮してたら首が飛ぶんだよ!!」
ルッカの怒りの裏拳がロッシュの顔面に炸裂し、ロッシュが再び床へ沈む。
その間もルッカの指先は、ミリ単位のからくりパーツを狂いなくハメ込み続けていた。
ルッカはただの職人ではない。
手のひらサイズだからこそ、衣服のパーツだけを紙のように極限まで薄く軽く削り出していたのだ。
固定ピンを仕込み、特定の装飾を強く押すとピンが外れてパーツが弾け飛ぶという、最先端のからくり技術をこの小さな彫刻に組み込んでいたのである。
「あーーーっ……! 私のヴィーナスがぁ……また服なんかで隠されちまうぅぅ……! 」
元の服を着せられていく像を見て、床に沈んだロッシュが心底残念そうな声をあげた。
――お前ががっかりしてどうする。
トントン。
「すいませーん! お邪魔しまーす!」
何も知らないアリアが、無邪気な笑顔で扉を開けて入ってきた。
「……いけるかい?」
ロベルタが、アリアから死角になる位置で、喉を震わせながら緊迫した声を漏らす。
「「イエス, マム!!」」
ルッカとロッシュが、背筋をピンと伸ばして完璧な敬礼を決めた。
―――だから、お前ら急に誰になりきってんだ。
「わあ、すごい! 本当に完成したのね!」
無垢な足取りで部屋へ入ってきたアリアは、並んだ二つの作品を見つめ、両目をキラキラと輝かせた。
額縁の中でまるで生きているかのように瑞々しく微笑む自分の絵画。そして、今のアリアみたいな元気な木彫りの彫刻。
「絵も、この小さなお人形も、どっちもすっごく可愛い!!」
世界に一つだけの芸術を前に、純粋に跳び上がって喜ぶアリア。
その無垢な笑顔の裏で、冷や汗で全身をびしょ濡れにしながら見守るしかない大人たち。
「よし、じゃあ! このままお父様のいる領主館へ運びましょう! 案内するわ!」
こうして、心臓が爆発しかけた芸術家ふたりと敏腕マネージャーは、爆弾のような隠しギミックを抱えたまま、いざ領主館へと乗り込むことになるのだった。
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