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第2章 第3話 からくり仕掛けのサプライズ

 


アリアの追加要望は「小さな像にも色も塗ってほしい」というものだった。




どこで知ったのか、像にも着色できると。





彫刻に色を塗る――。





前回の『透ける聖母』の件があるだけに、ルッカの脳裏には嫌な予感しか浮かばなかったようだが、背後に控える大魔王ロベルタが怖すぎて逆らうことなど到底できなかった。




一方、私が担当する絵画はというと、今回は本当に奇跡的なほど真面目な最高傑作へと近づいていた。




何層にも薄く絵の具を塗り重ねる『グレーズ技法』をふんだんに使い、アリアの愛らしさが、まるでキャンバスの中で生きているかのように描き出されていく。




血管が透けるような、リアルで瑞々しい少女の血色。




「おいロッシュ……お前、相変わらず目を瞑ったまま神がかった絵を描くの本気で不気味だからやめろ!」




真面目な顔のまま変態的な技法を発揮する私に、ルッカが横目で呆れる――そんなバカげたやり取りが繰り広げられるほど、この数日間は平穏だった。




ちょくちょくっと、遊びにくるアリアとお菓子を食べたり、バカ話をしたり。




どこか裕福な商人の娘だろうと高を括っていた私たちは、父親の戦場行きを控えた少女の不安を紛らわせるように穏やかな時間が流れていた。





◇





―――とある昼間。





いつも通り二人は作業をしていると――




「もう彫りたくねえ」




ルッカは、彫りかけのアリア像を握りしめ、プルプルと震えながら決心したように呟いた。




「おいルッカ。あんなにボロ泣きして『俺が魂を削る! キリッ』とか言ってたのは嘘かよ!」




「バカ! ちげぇーって! しかも『魂を削る! キリッ』なんて、ひと言も言ってないからな!」




ルッカは食い気味に怒鳴り返し、ギラギラとした目をロッシュに向けた。




「ただデッサンをそのまま真似した彫刻を彫りたくないって意味だよ! 俺の持っている仕掛け細工の技術をこれでもか! っとハメ込んで、サプライズを取り入れたくてな!」




ルッカの目が、ガチすぎて恐い。




「だからロッシュ! 少し協力してくれ!」




ルッカがザッと、私に右手を差し出して握手を求めてくる。




どんな仕掛けをするつもりなのかはサッパリ分からんが、なにやら面白そうだ。




「よし、乗った!」




私はその手を力強く握り返した。


協力してやろうじゃないか、私たちの芸術のために


。





◇





――そして、約束の期日。





「できた」





私の静かで、どこか誇らしげな声が作業場に響いた。




ルッカの彫刻もちょうど完成したみたいで、跳び起きる急いで厨房へ走り、敏腕マネージャー兼大魔王のロベルタを連れて戻ってきた。




「見てほしい」




見つめた作業台の上には、圧倒的な芸術が並んでいた。




額縁に収まった絵画には、お転婆で笑顔満点な元気いっぱいの少女アリアがいた。


肌の温もりまでリアルに再現されており、今にもキャンバスから飛び出してきそうだ。




手のひらサイズの小さな彫刻は、寸分の狂いもなくお転婆なアリアそのもの。今にも彼女の賑やかな笑い声が聞こえてきそうなほど、精巧極まる彩色が施されていた。




「ほぅ――」




ロベルタは腕を組み、2つの芸術品を冷徹な鑑定士のような眼光でじっと検分し始めた。




「……一応聞いておくけど。今回は光に当てたら服が透ける、なんて不敬なことはないだろうね?」




低く地鳴りのような声に背中を冷や汗が伝う。




「「ありません!!(ブンブン!!)」」




二人は千切れんばかりに激しく首を横に振った。





「……はっ! どうだか。ちょっとみせてもらうよ」




ロベルタは疑り深い目を崩さないまま、おもむろに小さな木彫りの彫刻へと手を伸ばした。


そして、衣服の装飾部分を指先で、少し強めにいじった――その瞬間だった。




静かな部屋に、不穏な金属音が響く。





カチッ、パッ!!!





「「あっ」」




二人同時に、情けない声が出た。




コンマ数ミリの精度で仕込んだ真鍮のバネと固定ピンが完璧に連動して作動。


精巧な木の衣服パーツが、まるで爆発でもしたかのように四方へと一斉に弾け飛んだのだ。





中から姿を現したのは――





一本の木塊から彫り出されたとは到底信じがたい、狂気的なまでの超絶技巧だった。




十年後のアリア――その美しい肢体が、繊細なノミ跡と完璧な色彩によって、今まさに息を吹き返したかのように再現されていた。


控えめな仕草から生まれる、わずかに内側へ向けられた膝の角度。


そして、全体のバランスを保つように配された両腕。その細部まで計算された構造が、彫刻としての完成度を高めている。


絵の具は一分の隙もなく重ねられ、衣服のひだは布の重みを感じさせる色彩の陰影が施され、むき出しになった四肢の流れるような輪郭は、気品ある白さを湛えていた。


しかし、完全に塗膜で覆われているわけではない。光の角度が変わる瞬間、滑らかに削り出された曲面に沿って、木目の持つ自然な光沢が色彩の内側からきらりと主張する。


その天然の文様が、かえって彼女の立ち姿の優美さを美しく強調していた。




私の頭脳(変態妄想)とルッカの神技(からくり技術)が最悪の形で奇跡の融合を遂げた、究極の着脱式パージギミック。






沈黙。






作業場の空気が完全に消し飛んだ。




目の前に立つロベルタの顔から一切の感情が消え失せる。


みしみし、と彼女の背後から大聖堂を丸ごと押し潰すほどのどす黒い魔力(怒気)が膨れ上がっていくのが見えた。




「……ねぇ、あんたら。一応聞いておくけど」




地獄の底から響くような声で、ロベルタがこの世で最も冷ややかなジト目を向けてきた。




「あの子が『お父様が戦場に行く』とか『絵を飾る』とか言ってたよねぇ? ……まさかとは思うけど、あの子がこの街を治める『領主様の愛娘』だってこと、今の今まで気づいてなかったの?」




「「……えっ? 商人の娘じゃ……」」




「一般の商人の父親が戦場に出陣するわけないだろ、この大バカ者共が!! あどけない子供の健気な話に脳みそ全部持ってかれてんじゃねえよ!!」






沈黙。






領主様に不敬罪で首を飛ばされる前に、目の前の鬼に物理的に消し飛ばされる。




二人はただ静かに抱き合って、ガタガタと震えながら静かにその運命を受け入れるのだった。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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(次回も、楽しみにお待ちください!)


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