第九話 守るための
森に入って一時間。
レインたちは、ゴブリンの痕跡を追っていた。
「十三……いや、十五匹くらいだな。」
地面に残された足跡を見ながら、ガルドが言った。
リリアの表情が強張る。
「十五匹……。」
ゴブリン一匹なら大した魔物ではない。
しかし、群れになれば話は別だ。
まして三人しかいない《リベレーション》には、敵を正面から倒せる剣士がいない。
攻撃できるのは、実質リリアだけ。
「怖い?」
レインが尋ねる。
リリアは少し考えてから頷いた。
「……怖いです。」
「それでいい。」
「え?」
「怖いと思える人間の方が、生き残れる。」
レインは森の奥を見る。
「俺も怖い。」
攻撃能力のないレインにとって、魔物との戦闘は常に死と隣り合わせだ。
一撃でもまともに受ければ終わる。
だからこそ、無理はしない。
勝てる方法を探す。
それが後衛として生き残ってきたレインの戦い方だった。
「来る。」
ガルドが盾を構える。
木々の間から赤い瞳が現れた。
一つ。
二つ。
五つ。
十。
十五。
「ギギギッ!」
ゴブリンの群れだった。
棍棒。
短剣。
弓。
そして最後尾には、一回り大きな個体。
レインの視界に文字が浮かぶ。
【ゴブリン・リーダー】
レベル17
危険度:E
特殊能力:群体指揮
(やっぱり指揮個体がいる。)
レインは瞬時に状況を確認する。
敵十五。
こちら三人。
攻撃役はリリアだけ。
普通なら撤退だ。
しかし――。
【戦闘予測】
勝率:96%
推奨陣形:
ガルド 前衛
リリア 後衛中央
レイン 最後衛
推奨戦術:
《狭路防衛》
レインは周囲を見渡した。
右には岩壁。
左には大木。
敵が一度に通れる幅は三メートルほどしかない。
「ガルド!」
「岩と木の間に入ってくれ!」
「分かった!」
ガルドが走る。
巨大な盾を構え、道を塞いだ。
「リリアはガルドの三歩後ろ!」
「はい!」
「俺はその後ろ。」
これで敵は一度に二、三匹しか攻撃できない。
「来るぞ!」
ゴブリンが殺到する。
ドン!
棍棒が盾へ叩きつけられた。
ドン!
二発目。
三発目。
ガルドは動かない。
レインは手をかざす。
「ガルド。」
「守れ。」
淡い銀色の光。
【支援発動】
《防御強化》
《耐衝撃》
《疲労軽減》
三つの効果が同時にガルドへ入る。
「……!」
ガルドの目が見開かれる。
「これは……。」
盾が軽い。
身体が動く。
敵の攻撃が、はっきり見える。
「リリア!」
「右!」
《ファイアボルト!》
炎が飛ぶ。
一匹。
「次、左!」
二匹。
「ガルド、一歩下がれ!」
ガルドが下がる。
追いかけたゴブリンが狭路へ入り込む。
「今!」
《ファイアボルト!》
三匹目。
戦いは完全にレインの予測通りに進んでいた。
◇◇◇
だが――。
十匹目を倒した時だった。
「後ろ!」
レインが叫ぶ。
木の上に隠れていたゴブリンが飛び降りてきた。
狙いはリリア。
「きゃっ!」
間に合わない。
レインから遠すぎる。
ガルドも前方の敵を押さえている。
ゴブリンの短剣がリリアへ迫る。
その瞬間。
「リリア!」
ガルドが盾を投げ捨てた。
前方の敵を無視して走る。
「ガルド!?」
間に合わない。
そう思った。
だが。
ガルドの身体が光った。
【覚醒条件達成】
仲間を守るという強い信念
【職業進化開始】
重戦士
↓
《守護騎士》
ガルドの足元に巨大な魔法陣が現れた。
「《守護転移》!」
一瞬だった。
ガルドの巨体が消える。
次の瞬間。
リリアの前に現れた。
ガキン!
短剣が盾へ弾かれる。
「……俺の仲間に。」
ガルドの目が鋭く光る。
「触るな。」
ゴブリンが怯む。
その瞬間。
新たな能力が発動する。
《絶対挑発》
周囲のゴブリンが一斉にガルドを見る。
リリアへの攻撃が止まった。
レインは叫ぶ。
「リリア!」
少女はすぐに理解した。
杖を構える。
「はい!」
炎が集まる。
だが、いつものファイアボルトではない。
仲間を守りたい。
その気持ちに呼応するように、炎の中に小さな光が混じった。
レインの視界に表示が出る。
【特殊条件成立】
《星属性》
初回発現
(星属性……!)
「撃て!」
「《スター・フレア!》」
白銀の炎が森を駆け抜けた。
爆発。
光。
轟音。
残っていたゴブリンたちが一瞬で吹き飛ぶ。
最後に残ったゴブリン・リーダーが逃げようとする。
しかし。
ガルドが道を塞いだ。
「逃がさん。」
リリアが杖を向ける。
「これで終わりです。」
《スター・フレア》
閃光が走る。
ゴブリン・リーダーが倒れた。
静寂が戻った。
◇◇◇
「勝った……?」
リリアが呟く。
ガルドは自分の身体を見つめていた。
「守護騎士……。」
「俺が?」
レインは微笑む。
「言っただろ。」
「あなたは攻撃する人じゃない。」
「守る人だって。」
ガルドはしばらく黙っていた。
そして突然、大声で笑った。
「はは……。」
「ははははは!」
その目には、わずかに涙が浮かんでいた。
五つのパーティーから追放された。
攻撃できない。
役立たず。
壁にしかならない。
そう言われ続けてきた男が。
初めて、自分の力で仲間を守った。
「ありがとう、レイン。」
レインは首を横に振る。
「俺は何もしてない。」
「守ったのはガルドだ。」
しかし。
レインの視界には、別の表示が浮かんでいた。
【パーティー成長確認】
ガルド・バルガス
潜在才能解放率:21%
リリア
潜在才能解放率:8%
そして――。
【支援経験値を獲得しました】
【内部レベル上昇】
31
レインの表情が止まる。
「……え?」
自分のレベルは。
三十のはずだった。
レインは震える手で、自分のステータスを開いた。
そこには――。
【表示レベル】
30
【内部レベル】
31
二つの数字が存在していた。
「……なんだ、これ。」
世界に存在するはずのない。
三十を超えても表示されないレベル。
レインはまだ知らなかった。
この数字に――。
上限が存在しないことを。




