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世界最低の後衛は最高の後衛だった ~三度追放された荷物持ちは、捨てられた才能だけを集めて魔王を討つ~  作者: あめのひくもり


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第六十九話 八体の分体

第六十九話 八体の分体


八体の分体が一斉に動き出した瞬間、レインは反射的に《全域支援》を展開したが、最初に強化したのはカインではなく二人の帝国兵だった。


敵の推定Lvは88から92であり、Lv37のカインが正面から戦える相手ではない。まして帝国兵たちはこの終焉回廊を進めるだけの精鋭とはいえ、世界法則の外側から侵入した存在を相手にすることなど想定されていなかったため、レインは防御と反応速度を優先して引き上げ、ノアが示す生還経路から外れないよう支援を調整する。


「ユウト、全部見る必要はない! 最初に動く奴だけ教えてくれ!」


「簡単に言うな。八体とも動きが違うんだよ!」


ユウトは文句を言いながらも、《境界戦術士》として敵の行動を読み始めていた。百年以上も魔王として戦った経験と新しい職業能力が結びついたことで、以前なら感覚で捉えていた境界生命体の動きが、今では明確な攻撃予兆として認識できる。


「右端が囮だ! 本命は後ろの二体、こっちじゃなく原初記録へ行く!」


その言葉を受けてノアが即座に配置を変え、帝国兵の一人を防衛へ回す。レインも支援対象を切り替えようとしたが、その前にカインが原初記録へ向かって走り出した。


「カイン、正面からやるな!」


「分かってるよ!」


カインは迫ってきた分体そのものを狙わず、床との境界に伸びている黒い線へ《境界干渉》を叩き込んだ。


分体の身体が大きく揺らぐ。


【世界捕食寄生体分体】


【現世界定着率――18%】


【境界接続――損傷】


【能力出力――低下】


レインはそこで敵の構造を理解した。


「こいつら、本体じゃない。観測者から力を送り込まれて動いてるだけだ!」


「だったら接続を切ればいい?」


「多分それが一番早い。ただし、全部お前にやらせたら保たない」


カインと敵とのレベル差は五十以上ある。《境界干渉》が有効だから戦えているだけで、まともに攻撃を受ければ一撃で致命傷になりかねない。


そこでレインは敵ではなく、カインへ意識を集中させた。


《才能共鳴》。


《成長共有》。


そして二核間の《相互支援》。


三つを重ねると、これまでレインだけが見ていた敵の接続構造がカインにも流れ込み、逆にカインが感覚的に捉えていた「切れる場所」がレインへ返ってきた。


【二核共同解析――開始】


【受容核:情報認識】


【捕食核:崩壊箇所特定】


【共有率――83%】


「見える」


カインが呟いた。


八体の身体ではない。


終焉回廊の外から、それぞれへ伸びている細い接続線が見える。


「レイン、全部同じ場所に繋がってる」


「観測者本体?」


「違うと思う。途中に何かある」


ノアがその情報を受け取り、すぐに結論を出した。


「中継点だ。観測者本体が終焉回廊へ直接干渉できないから、境界上に中継核を作って八体を送り込んでいる。一体ずつ倒すより、そこを切った方が早い」


問題は、その中継核がこの空間には存在しないことだった。


カインなら境界へ干渉できるが、八体の分体を相手にしながら接続線を逆に辿り、中継核まで到達するのは難しい。


レインは一瞬だけ考えた後、ユウトを見る。


「中継核を探せる?」


「俺の職業は敵の行動を読むもので、境界を探知する能力じゃないぞ」


「でも、八体が同じところから指示を受けてるなら、動きに共通する癖が出るはずだろ?」


ユウトの表情が変わった。


「なるほど。それならできるかもしれない」


八体すべてを見る必要はない。


いつ動き。


いつ止まり。


どの瞬間に攻撃を変えるのか。


ユウトはそれだけに集中した。


その間にも戦闘は続いており、帝国兵たちはレインの支援を受けながら攻撃を受け流し、カインは接続を切ることで一体ずつ弱体化させていく。しかし完全に倒すことはせず、原初記録へ近づけないことを最優先にしていた。


やがてユウトが叫んだ。


「分かった! 三秒ごとだ!」


「何が?」


「八体とも三秒ごとに一瞬だけ動きが揃う。その瞬間に中継核から新しい命令を受け取ってる!」


レインはすぐに《全域支援》へその周期を組み込み、三秒後の瞬間に合わせて全員の感覚を同期させた。


「カイン、次で辿れる?」


「やってみる」


三秒。


二秒。


一秒。


八体の分体が同時に僅かに停止した瞬間、レインが認識した情報をカインへ送り、カインは八本の接続線を逆方向へ辿った。


「見つけた」


カインの《境界干渉》が、空間そのものへ突き刺さる。


何もなかった場所に亀裂が走り、その向こうに黒い球体が一瞬だけ姿を現した。


【境界中継核】


【推定Lv――94】


【機能――分体制御/情報回収】


「Lv94って、あれを壊せるのか?」


ユウトが聞く。


レインは中継核を解析しながら首を横に振った。


「壊さなくていい。あれも観測者から送られてきた情報でできてる。こっちとの接続だけ切ればいい」


「また僕?」


カインが嫌そうな顔をする。


「俺もやる」


「攻撃できないでしょ」


「だからお前が切れる状態を作る」


レインは中継核そのものではなく、終焉回廊側へ意識を向けた。


ここは観測者の世界ではない。


世界継承機構のために作られた領域であり、今の正規利用者として認識されているのはレインとカインである。


それなら、侵入者に有利な状態をそのまま受け入れる必要はない。


《世界接続》を終焉回廊へ伸ばす。


【現利用者認証】


【受容核――確認】


【捕食核――確認】


【侵入情報――排除申請】


一瞬の間を置いて、応答が返る。


【承認】


中継核の定着率が急激に低下した。


【境界中継核】


【定着率18%→9%→4%】


「今だ、カイン!」


「分かってる!」


カインが接続線だけを切り裂いた。


黒い球体が消滅すると同時に、八体の分体が一斉に停止し、その身体が輪郭を失っていく。


しかし、そのうち一体だけが消えなかった。


残った分体は身体を崩しながらも、レインへ顔を向けていた。


「なぜ拒む」


その声は、先ほどまでとは違う。


分体を通して観測者本体が話している。


「二つは不完全。一つになれば完成する」


レインはもう、その言葉に迷わなかった。


「逆だよ。俺たちは一つにされたから壊れたんだ」


「二つでは弱い」


「弱くていい」


観測者の反応が一瞬止まった。


レインは続ける。


「俺一人で何でもできる必要なんてないし、カイン一人で世界を背負う必要もない。足りないところがあるなら二人で補えばいいし、それでも足りなければ仲間に頼る。それが本来のRainだったんだろ」


「非効率」


「人間なんてそんなもんだろ」


ユウトが後ろで笑った。


「それは否定できんな」


観測者はしばらく沈黙した後、最後に一つだけ言葉を残した。


「ならば、完成する前に回収する」


分体が消滅する。


同時に警告が表示された。


【世界捕食寄生体――行動変更】


【世界継承機構への直接侵食――開始】


【完全侵食まで――13日11時間】


六時間。


期限が一気に縮んでいた。


レインの表情が変わる。


「時間を早められるのか」


ノアも険しい顔で表示を確認した。


「原初記録を閲覧し、Rain本来の構造を取り戻し始めたことで、向こうも待つ理由がなくなったのだろう。今後さらに短縮される可能性を考えた方がいい」


それでも今回の防衛は成功していた。


【第四継承区画――防衛成功】


【原初記録保全率――100%】


【世界帰還機構情報――保全】


【世界捕食寄生体分体――排除】


経験値が流れ込む。


【レイン・アーク 真Lv86→88】


【カイン Lv37→41】


【結城悠斗 Lv22→25】


カインの上昇幅が大きいのは、格上の境界接続を正確に切断したことによるものらしい。


ユウトにも新しい能力が追加されていた。


【《境界戦術士》】


【新技能――《同期解析》】


【複数境界個体の共通行動源を解析可能】


「ちゃんと職業っぽくなってきたな」


レインが言うと、ユウトは少し満足そうに表示を見る。


「魔王より再就職先の方が性に合ってるかもしれん」


「給料は出ないけど」


「それを言うな」


緊張が少しだけ緩んだところで、終焉回廊が再び動き始めた。


第四継承区画の奥に、巨大な扉が現れる。


【最終成長領域――前半終了】


【受容核真Lv――88】


【捕食核Lv――41】


【世界継承機構修復率――86%】


【最終成長領域――後半解放】


その下に表示された条件を見て、レインは眉を寄せた。


【第五継承区画】


【受容核成長上限――真Lv99】


【Lv100到達――当区画では不可能】


「……九十九?」


目標は百である。


観測者内部へ到達するためにも、ノエルを復元するためにも、レインには真Lv100が必要とされている。


しかし終焉回廊は、ここから先へ進んでも九十九までしか上がれないと告げていた。


さらに表示が続く。


【真Lv100到達条件】


【最終守護個体Lv100――攻略】


【攻略条件――受容核単独では達成不能】


カインがそれを読んで笑う。


「やっぱり最後も二人らしいよ」


「お前、今Lv41だぞ」


「知ってる」


「俺が99になるまでに、どこまで上げるつもり?」


カインは少し考えた後、当然のように答えた。


「百」


「無茶言うな」


「君を超えるって言ったでしょ」


「そういう意味じゃないだろ」


二人が言い合っている間に、第五継承区画への扉が開き始めた。


その向こうに見えたのは、これまでのような滅びた世界でも、崩壊した町でもない。


青い空。


緑の草原。


遠くに見える町。


そして、人々の声。


一見すれば、どこにでもありそうな平和な世界だった。


ところがレインが《世界接続》を使った瞬間、全身に冷たい感覚が走った。


その世界は壊れていない。


滅びてもいない。


今も正常に生きている。


それなのに、攻略条件にはこう表示されていた。


【第五継承区画】


【対象世界――正常】


【崩壊率――0%】


【継承対象価値――極大】


【攻略条件――世界情報を取得せよ】


レインは表示を見つめたまま、動かなかった。


正常な世界から情報を奪えばどうなるのか。


三百十七年前のRainが犯した失敗を知った今なら、考えるまでもない。


カインも同じことに気づいたらしく、笑みを消していた。


「これ……僕たちに世界を喰えって言ってる?」


終焉回廊が初めて、Rain自身の力を使わなければ達成できないはずの、明確に間違った攻略条件を提示していた。


――第六十九話 了――

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