↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界最低の後衛は最高の後衛だった ~三度追放された荷物持ちは、捨てられた才能だけを集めて魔王を討つ~  作者: あめのひくもり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
59/73

第五十九話 もう一組の二人

第五十九話 もう一組の二人


【次層保存記録】


【記録対象――Rain】


【特記事項――二核分離済】


その表示を見たレインとカインは、しばらく互いの顔を見たまま動かなかった。父によって二人へ分けられたことは、自分たちだけに起きた特殊な事故の後始末だと思っていたが、もし過去のRainにも同じような分離例が存在したのなら話が変わってくる。Rainが二つの核を持つことと、それを二人の人間として存在させることには、彼らがまだ知らない意味があるのかもしれない。


「行く?」


カインが尋ねた。


「ここまで来て帰れると思う?」


「君なら一回くらい休憩って言うかと思った」


「言ったら休ませてくれる?」


ノアが即答する。


「十分なら」


「短いな」


それでも一行は本当に十分間だけ休み、装備と魔力を確認してから次の階層へ進んだ。残り十四日という期限がある以上、無駄な時間は使えないが、焦って死ねばすべてが終わるという点については、レインもようやく理解するようになっていた。


扉の向こうに広がっていたのは、また別の保存世界だった。


今度は草原ではない。


赤い空の下に巨大な石造都市が広がり、その中央には半ば崩壊した塔が立っている。人の姿は見当たらず、風が吹くたびに細かな灰が街路を流れていった。


【保存世界情報――第九層】


【世界名――エルディア】


【状態――消失】


【保存率――2.1%】


ユウトが周囲を見回す。


「また滅びた世界か」


「多分。でも今回はRainの記録がある」


レインが《世界接続》を広げると、都市の中央に二つの反応が見えた。片方はこれまで何度も感じてきたRain特有の情報だが、もう片方にもほとんど同じ構造がある。


二つ。


レインとカインは何も言わず、同時に塔へ向かった。


◇◇◇


塔の最上階に残されていた記録には、二人の人物がいた。


一人は二十代ほどの女性で、銀色に近い髪を肩まで伸ばしている。もう一人は同年代の男性で、黒い髪と鋭い目を持っていた。


レインは銀髪の女性を見た瞬間、息を呑んだ。


「この人……」


百十七年前。


最初の魔王戦争の記録で見たRainに似ている。


しかし解析すると別人だった。


【Rain構成核――受容】


そして男性。


【Rain構成核――捕食】


カインが苦笑する。


「分かりやすいね」


記録が動き始めた。


銀髪の女性が崩壊していく街を見ながら、男性へ話しかける。


『境界崩壊が止まらない。このままなら三日で終わる』


『分かってる』


『統合すれば止められるかもしれない』


その言葉に、男性はすぐには答えなかった。


やがて銀髪の女性を見る。


『誰が言った?』


『観測者』


現在の一行全員の表情が変わった。


観測者は、この時代にもいた。


『二つの核が一つへ戻れば完全なRainになり、世界を再構築できると言ってる』


男性は少し考えた後、首を横に振った。


『嫌だ』


『でも、このままなら世界が――』


『世界を救うためなら、お前が消えてもいいのか?』


女性は答えられなかった。


男性は続けた。


『俺も消えたくない。お前にも消えてほしくない。二人で生きる方法を探す』


『間に合わなかったら?』


『その時まで探す』


カインが小さく笑った。


「昔から同じこと言ってる」


レインも少しだけ笑った。


「どっちが俺なんだろうな」


「両方じゃない?」


記録の中では、二人のRainが最後まで統合を拒んでいた。


しかし。


世界崩壊は止まらなかった。


三日後。


都市の半分が境界へ消えた。


残された人々を救うため、二人は別々の方法を選ぶ。


銀髪のRainは生存者を支援し、世界へ定着させる。


黒髪のRainは崩壊部分だけを吸収し、境界へ捨てる。


一人が世界を支え。


一人が世界の壊れた部分を喰う。


二人が離れたまま、それぞれの役割を果たした。


そして。


世界崩壊が止まった。


【世界再構築――成功】


レインたちは息を呑んだ。


初めてだった。


過去のRainが。


世界を喰わず。


相方を喰わず。


二人のまま世界を救った記録。


しかし、その直後。


観測者の声が記録へ入った。


――不完全。


二人のRainが空を見る。


――統合せよ。


黒髪のRainが笑った。


『断る』


――完全体になれ。


『俺たちはこれで完成してる』


その言葉を聞いた瞬間、カインの表情が変わった。


第57話の古いRainが残した言葉。


――二つで一つになるな。


――二人のまま、完成しろ。


その意味が、ようやく繋がった。


ところが記録はそこで終わらなかった。


世界再構築から七年後。


銀髪のRainが死んだ。


戦いではない。


寿命でもない。


世界へ定着できなくなったのだ。


片方を失った黒髪のRainは、一人になった。


そして。


再び世界を喰い始めた。


記録の最後に映った彼は、泣きながら自分の右腕を境界へ封じていた。


『一人じゃ駄目だった』


映像が乱れる。


『二人でいるだけでも駄目だ』


さらに。


最後の言葉。


『互いを支えられるようにならないと、同じことを繰り返す』


記録が消えた。


◇◇◇


誰もすぐには話さなかった。


カインが最初に口を開く。


「つまり僕が死んだら、君が暴走するかもしれない?」


「逆もあるだろ」


「君が死んだら僕が世界を食べる?」


「ありそう」


「失礼だな」


「お前、自分で俺を食べるって言ってたじゃん」


「昔の話」


ノアは二人のやり取りを聞きながら、記録内容を整理していた。


「重要なのは、二核が分離していること自体ではない。受容側と捕食側が互いを制御し、同時に互いを支えられる状態を維持する必要があるらしい」


レインはカインを見る。


父はそこまで知っていたのだろうか。


七歳のレインを二人へ分けたのは、ノエルを喰ってしまった事故を止めるためだけではなく、過去のRainが辿り着いた答えをどこかで知っていた可能性がある。


その時、世界記録が更新された。


【過去Rain記録――第二封印解除】


【現Rain二核状態――再評価】


【受容核――レイン・アーク】


【捕食核――カイン】


【独立人格――成立】


【相互支援――不足】


カインが表示を指差す。


「不足だって」


「何をすればいいんだよ」


その問いに応じるように、塔の床が大きく震えた。


中央から二つの黒い影が現れる。


一体はレインと同じ姿。


もう一体はカインと同じ姿。


【二核試験――開始】


【条件】


【自己の模倣体を攻撃してはならない】


【相手の模倣体のみ撃破可能】


レインは表示を二度見した。


「待て」


カインも理解した。


レインは攻撃能力を持っていない。


つまり。


レインの偽物を倒せるのはカイン。


そしてカインの偽物を倒すには。


レインが攻撃するのではなく。


カイン自身が倒せる状況を作らなければならない。


ノアがすぐに後ろへ下がった。


「これは二人の試験だ。私たちが介入すれば失敗する可能性が高い」


ユウトも下がる。


「頑張れ。私はLv17だから応援だけしている」


「お前、元魔王だろ!」


「元だ!」


二体の模倣体が同時に動いた。


カインの偽物が本物のカインへ襲いかかり、レインの偽物は後方へ下がると、自分自身へ大量の支援能力を重ね始めた。


レインは一瞬で理解した。


自分の偽物は。


攻撃できない。


だが。


支援能力だけなら。


自分と同等。


「カイン!」


「分かってる!」


二人は互いに背中を向けた。


自分自身ではなく。


相手の敵を見る。


それが、この試験の意味だった。


――第五十九話 了――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。