第五話 鉄壁の落ちこぼれ
酒場の隅。
一人の大男が静かに酒を飲んでいた。
年齢は三十代半ばほど。
身長は二メートル近い。
鍛え上げられた身体。
だが、その重厚な鎧はところどころ傷だらけで、何度も修理された跡がある。
大男の前を通る冒険者たちは、皆、鼻で笑った。
「まだいたのか、『動く壁』。」
「攻撃できない盾役なんて、誰が雇うんだよ。」
「また追放されたらしいぞ。」
「これで何回目だ?」
「五回目だってよ。」
笑い声が酒場に響く。
大男は反論しない。
ただ黙って酒を飲み続ける。
その姿を見つめながら、レインは静かにつぶやいた。
「やっぱり……。」
リリアが不思議そうに尋ねる。
「知り合いですか?」
「いや。」
「でも、彼は世界最高の盾になれる。」
「え?」
リリアは意味が分からず首をかしげた。
レインの目には、青白い文字が浮かんでいる。
⸻
【名前】
ガルド・バルガス
【職業】
重戦士
【現在レベル】
28
【ランク】
D
【攻撃】
E
【防御】
D
⸻
普通の鑑定ならここまでだ。
しかし、その下には誰にも見えない文字が続いていた。
⸻
【潜在才能】
★★★★★
【真の適職】
守護騎士
【特殊才能】
《絶対防衛》
《挑発》
《守護領域》
【覚醒条件】
仲間を守るという強い信念を得ること。
⸻
レインは思わず息を呑む。
(守護騎士……。)
(世界に数人しか存在しない伝説職だ。)
さらに表示は続く。
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【適性武器】
大盾
【不適合武器】
両手斧
大剣
槍
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レインはすぐに理解した。
(だから弱いのか。)
今のガルドは重戦士。
本来の才能とは全く違う職業だった。
だから攻撃は弱い。
だから追放された。
しかし、本当は――。
「彼は攻撃する人じゃない。」
「仲間を守るためだけに生まれてきた人なんだ。」
リリアは驚いた顔をする。
「そんなことまで分かるんですか?」
レインは慌てて誤魔化した。
「いや……。」
「何となくだ。」
もちろん嘘だった。
だが、この能力はまだ誰にも話せない。
◇◇◇
レインはガルドの前まで歩いていった。
「失礼します。」
ガルドは顔を上げる。
鋭い目。
歴戦の戦士の眼だった。
「何だ。」
低く太い声。
レインは率直に言った。
「俺たちの仲間になりませんか。」
ガルドは一瞬きょとんとした。
次の瞬間。
豪快に笑い出した。
「はっはっは!」
「面白い冗談だ。」
酒場中の視線が集まる。
「俺は五つのパーティーを追放された男だぞ。」
「そんな俺を誘う奴なんて初めてだ。」
レインは真っ直ぐ答える。
「知っています。」
「攻撃力が低い。」
「魔物を倒せない。」
「役立たずと言われてきた。」
ガルドの笑顔が消えた。
「……どこで聞いた。」
「見れば分かります。」
「でも。」
レインは一歩近付く。
「あなたは攻撃する人じゃありません。」
「仲間を守る人です。」
その一言で。
ガルドの表情が凍りついた。
「……。」
「なぜ。」
「なぜ、それを知っている。」
「俺は昔から思っていた。」
「敵を倒すより。」
「仲間を守りたいって。」
「でも。」
「みんなに笑われた。」
「盾役のくせに攻撃しろって。」
レインは静かに頷く。
「あなたは間違っていません。」
「間違っていたのは、あなたを重戦士として育てた人たちです。」
酒場が静まり返る。
誰もが耳を疑っていた。
攻撃できない盾役を褒める者など、一人もいなかったからだ。
ガルドはゆっくり立ち上がる。
二メートル近い巨体が、レインを見下ろす。
「本当に……。」
「俺は必要なのか。」
レインは迷わず答えた。
「ああ。」
「あなたがいなければ。」
「俺たちのパーティーは完成しない。」
ガルドは長い沈黙のあと。
ゆっくりと右手を差し出した。
「ガルド・バルガス。」
「もう一度だけ。」
「人を信じてみる。」
レインはその手を強く握る。
その瞬間だった。
――【条件達成】――
――【世界最強パーティー結成率 3%】――
――【潜在才能鑑定 Lv3】――
新たな文字が浮かぶ。
【新機能解放】
《職業進化条件》
《仲間相性診断》
《未来分岐予測》
レインは驚きを隠しながら、小さく笑った。
(まだ三人。)
(でも、確信できる。)
(俺たちは、必ず世界最強になる。)
酒場の誰もが笑っていた。
「Dランクの後衛。」
「落ちこぼれ魔法使い。」
「攻撃できない盾役。」
誰が見ても、失敗パーティーだった。
しかし、その笑い声の中で、三人だけは未来を見据えていた。
世界中から「役立たず」と呼ばれた者たちが集まる時。
本当の英雄伝説が始まる。




