第四話 最初の仲間
リリアは、差し伸べられた手を見つめたまま固まっていた。
「……私を?」
震える声だった。
レインは静かに頷く。
「ああ。」
「俺のパーティーに来てほしい。」
リリアは俯く。
「でも……私は役立たずです。」
「魔力も少ないし、魔法も失敗ばかりで……。」
「前のパーティーにも『荷物になるだけだ』って追放されました。」
その言葉に、レインは少しだけ苦笑した。
「奇遇だな。」
「俺も昨日、『荷物持ち』って言われて追放されたばかりなんだ。」
思わず二人とも笑ってしまう。
ほんの少しだけ、重苦しかった空気が和らいだ。
「でも……。」
リリアは再び不安そうな表情になる。
「どうして私なんですか?」
「私より優秀な魔法使いは、たくさんいます。」
レインは答えなかった。
答えられなかった。
――君は世界最高の才能を持っている。
そう言っても、信じてもらえないだろう。
だから彼は、別の言葉を選んだ。
「俺は人を見る目だけはある。」
「君は、絶対に強くなる。」
リリアは驚いたように目を見開いた。
今まで誰一人、そんなことを言ってくれた人はいなかった。
「……本当に?」
「ああ。」
「俺は嘘が苦手なんだ。」
しばらく沈黙が続いた。
やがてリリアは、小さく息を吸い、レインの手を握る。
「よろしくお願いします。」
その瞬間だった。
レインの視界に再び青白い文字が浮かぶ。
――【条件を達成しました】――
――【仲間を獲得】――
――【固有スキル《潜在才能鑑定》がレベル2になりました】――
「えっ……。」
レインは思わず声を漏らす。
文字は次々と増えていく。
【新機能解放】
《才能育成》
《成長予測》
《適職変更条件》
「レベルアップ……?」
しかし、自分のレベルを確認しても変化はない。
【レベル】
30
相変わらずDランクのままだ。
「どうしたんですか?」
リリアが心配そうに覗き込む。
「いや……何でもない。」
どうやら、自分だけに見える能力らしい。
まだ誰にも話すべきではない。
レインはそう判断した。
◇◇◇
昼過ぎ。
二人は最寄りの町へ到着した。
冒険者ギルドの建物が見える。
「まずはパーティー登録ですね。」
リリアが少し嬉しそうに言う。
「そうだな。」
ギルドへ入ると、受付嬢が二人を見て目を丸くした。
「レインさん?」
「またパーティーを追放されたって聞きましたけど……。」
「情報が早いですね。」
レインは苦笑する。
冒険者の世界は狭い。
昨日の出来事が、もう町中へ広まっている。
受付嬢は申し訳なさそうに頭を下げた。
「すみません……。」
「でも、新しいパーティーですか?」
「はい。」
「二人だけですけど。」
受付嬢は書類を取り出した。
「パーティー名をお願いします。」
レインは少し考える。
そして答えた。
「《リベレーション》。」
「解放……ですか?」
「はい。」
「才能を縛るものから解放する。」
「そんなパーティーにしたいんです。」
受付嬢は優しく微笑んだ。
「素敵なお名前ですね。」
登録が終わる。
これで正式に二人だけのパーティーが誕生した。
しかし、その様子を見ていた冒険者たちは笑っていた。
「見ろよ。」
「あの荷物持ち、またパーティー作ってるぞ。」
「しかも魔力の少ない落ちこぼれ魔法使いと二人か。」
「一年も持たないな。」
「いや、一か月じゃないか?」
酒場のあちこちから失笑が漏れる。
リリアは悔しそうに拳を握った。
だがレインは気にしない。
むしろ、その時だった。
笑っている冒険者たちの頭上に、いくつもの青い文字が浮かび始めた。
【潜在才能】
★
★
★
★
★
星一つ。
星二つ。
ごく普通の才能。
しかし、その隅で一人だけ酒を飲んでいる大男の頭上には――。
【潜在才能】
★★★★★
《鉄壁の守護者》
《真の適職:守護騎士》
レインは思わず目を見開く。
(いた……。)
(二人目だ。)
その男は酒場の隅で一人、静かに酒を飲んでいた。
周囲の冒険者が笑う。
「あいつか?」
「攻撃力ゼロの盾役。」
「何度も追放された落ちこぼれだ。」
「壁にしかならない無能だよ。」
レインは確信する。
違う。
あの男は――。
世界最高の盾になる。
「リリア。」
「次の仲間が見つかった。」
「えっ?」
レインは静かに立ち上がる。
三度追放された後衛と、一度追放された魔法使い。
そして、何度も追放された盾役。
まだ誰も知らない。
この三人が、やがて魔王すら恐れる世界最強のパーティーの礎になることを。




