第四十七話 十七年遅れの約束
第四十七話 十七年遅れの約束
最終試練の扉が開いた先に立っていた男を見て、レインはすぐには言葉を発することができなかった。
百十七年前、初代魔王ゼルヴァとして世界を滅ぼしかけた存在。
だが今、目の前にいる男には、魔王を象徴していた六枚の翼も、巨大な角も、周囲の空間を歪ませるほどの魔力もない。
黒い髪。
二十代後半ほどに見える顔。
どこにでもいそうな人間の青年。
ただ、その瞳だけは百年以上という時間を生きてきた者のものだった。
そして彼の指には、先ほど過去の戦場で見つけたものと同じ銀色の指輪が嵌められている。
そこには、この世界では使われていない文字が刻まれていた。
――YUTO。
レインは、その文字を見ながら口を開いた。
「ユウト……でいいんだよな」
男は、少しだけ眉を上げた。
「ようやく思い出したのかと思ったが、どうやら違うらしいな」
「指輪に書いてあった」
「そうか」
ユウトは短く答え、それからレインをじっと見た。
「それで?」
「何が」
「百年後に来ると言った男が、十七年も遅刻して目の前に立っている。何か言うことはないのか」
レインは少し考えた。
「ごめん」
「軽い」
「百十七年前の俺がした約束なんだから、今の俺に全部責任を押し付けられても困る」
「記憶を継いでいるなら同じだ」
「まだ全部戻ってない」
「言い訳だけは上手くなったな」
カインが横で小さく吹き出した。
「君、三百年前からそういう性格だったんじゃない?」
「お前は黙ってろ」
「僕も元は君なんだけど」
「それを便利に使うな」
ガルドが大盾を地面へ置き、ユウトを警戒しながら二人を見る。
「なあ。久しぶりの再会なのか知らんが、まず敵なのか味方なのかを決めてくれ。こっちはさっきから構えっぱなしで腕が疲れてきた」
ユウトの視線がガルドへ移った。
その後、リリア、セラ、ミア、ノア、エマ、カインと順番に見ていく。
そして最後に、少し意外そうな顔をした。
「本当に仲間を作ったんだな」
レインが答える。
「悪い?」
「いや」
ユウトの表情が僅かに柔らかくなる。
「むしろ安心した」
「百年前のRainは、一人だったんだろ」
「ああ。あいつは誰かに頼ることを異常なほど嫌った。助けを求めるくらいなら、自分が壊れた方がいいと本気で思っていた」
レインには、その言葉が妙に引っ掛かった。
父親の記憶の中でも、幼い自分は痛みを我慢し、誰にも頼ろうとしなかった。
どうやら、それは今の身体になってから始まった性格ではないらしい。
三百年以上前から。
Rainという存在そのものに、同じ傾向があった。
「だから百年前、お前を封印する時も一人でやった?」
ユウトは頷いた。
「そして失敗した。私は封印されたが、あいつ自身も世界から消えた。結果として約束を果たす者がいなくなった」
「だから十七年待った」
「そういうことだ」
「意外と律儀だな」
「百年待てと言われて百年待った。そこから十七年余計に待たされたんだ。律儀という言葉で済ませるな」
今度はミアが小さく笑った。
ユウトが見る。
「何がおかしい」
「魔王って、もっと怖い人だと思ってました」
「私はもう魔王ではない」
「じゃあ今は何です?」
ユウトは答えようとして、少しだけ考えた。
「……無職だ」
数秒。
完全な沈黙。
ガルドが先に耐え切れず吹き出した。
「元魔王が無職って!」
「百年以上封印されていたんだ。職がある方がおかしいだろう」
「それはそうですけど!」
ミアも笑う。
レインは頭を抱えた。
百年前に世界を滅ぼしかけた初代魔王との再会が、こんな空気になるとは思っていなかった。
しかし、ノアだけは笑っていなかった。
「確認したいことがある」
ユウトが視線を向ける。
「言え」
「この試練の達成条件」
ノアは最終試練の表示を見ることはできないが、ここまでの流れから目的を推測していた。
「『約束』という名前なら、レインが百年前の約束を果たせば終わるはずだ。その約束とは何だ」
ユウトの表情から笑みが消えた。
空気が変わる。
レインも。
それを感じ取った。
「俺も聞きたい。百年前のRainは、お前に何を約束した」
「私を人間に戻すことだ」
全員の表情が変わった。
レインはユウトを見る。
今。
人間にしか見えない。
角もない。
翼もない。
解析。
【対象】
ユウト。
【種族】
人間――。
表示。
そこで。
乱れる。
【種族】
人間。
魔族。
境界個体。
――判定不能。
「見た目だけ戻ってる?」
ユウトは、自分の右手を見つめた。
「封印によって魔王としての力は抑えられている。しかし、私の中にあるものそのものが消えたわけではない」
「境界との接続?」
「ああ」
レインは過去の戦場を思い出す。
魔王ゼルヴァの魔力を支えていた、最後の一本。
魔族ではなく。
境界外へ続いていた巨大な魔力線。
百年前のRainは。
それを切らなかった。
切れば、ユウトが死ぬと知っていたから。
「だから百年後に戻ってきて、接続を安全に切るつもりだった」
「正確には」
ユウトがレインを見る。
「私から境界の力だけを分離し、人間として定着させる方法を完成させる。それが約束だった」
全員の視線が。
自然と《レゾナンス》へ向かった。
エマが右手で剣を握っている。
まだ完成度は低い。
だが。
その目的は。
世界に存在できないものを適合させること。
カインをこの世界へ残した時にも、その力を使った。
レインが呟く。
「最初からこれを使う予定だった?」
ユウトは《レゾナンス》を見る。
その表情が、明らかに変わった。
「……完成していないのか」
「まだ」
「百年以上あっただろう」
「俺に言うな。今の俺は三十歳だ」
「そこは分かっている」
「なら百年前の俺に言え」
「もういないからお前に言っている」
「理不尽だな」
「約束を引き継いだ者の宿命だ」
カインがまた笑う。
「君、本当に昔から借金みたいなものを残されるね」
「最近それを強く感じる」
父親。
弟。
ソラ。
零号。
アビス。
そして今度は。
百年前の魔王との約束。
自分が知らないところで増え続ける。
「でも」
レインは《レゾナンス》を見る。
「できないとは書いてない」
エマが反応した。
「今、解析できるんですか?」
「ああ」
【神造武具】
完成度:23%。
【対象】
ユウト。
【世界適合処理】
実行可能。
【現段階成功率】
7%。
レインの顔が引きつる。
「七%」
ミアが即座に言った。
「高いですね!」
全員がミアを見る。
「何ですか?」
ガルドが呆れる。
「お前も完全に確率感覚がおかしくなってるぞ」
「最近、一桁でも可能性があれば何とかなる気がしてきました」
ノアは真面目な顔で頷いた。
「間違ってはいない」
レインが聞く。
「ノアまで?」
「七%は現状の成功率だ。条件を整えれば上げられる」
その通りだった。
レインは詳細を開く。
【不足条件】
《レゾナンス》完成度50%以上。
神造鍛冶師覚醒率30%以上。
対象の本来名称。
対象の旧世界情報。
境界接続構造解析。
世界側定着核。
「……結構あるな」
エマが一つずつ確認する。
「私は今、覚醒率21%です」
「あと九」
「《レゾナンス》は23%」
「あと27」
ミアが手を挙げる。
「ユウトさんの本当の名前は?」
全員。
ユウトを見る。
ユウト。
少し。
困った顔。
「分からない」
「ユウトじゃないんですか?」
「それは下の名前だけだ」
レインが指輪を見る。
YUTO。
確かに。
姓はない。
「名字を忘れてる?」
「ああ」
レインの視界。
【ユウト】
旧世界名称。
復元率:28%。
【――ユウト】
「俺の記憶が戻れば分かる可能性がある」
カインが言う。
「日本の記憶?」
「ああ」
Rainの元個体名。
現在。
一部しか戻っていない。
もし。
ユウトが同じ世界から来た。
同じ時代の人間なら。
二人は。
元々。
知り合い。
だった。
「俺たち」
レインがユウトを見る。
「元の世界で、どういう関係だった」
ユウトは長く黙った。
「本当に」
「何」
「何も覚えていないんだな」
「だから聞いてる」
ユウトは目を閉じた。
そして。
静かに答えた。
「友人だった」
レイン。
少し。
安心。
しかし。
ユウトは続ける。
「少なくとも」
一拍。
「私が死ぬまでは」
「……死ぬ?」
カインの表情が変わる。
レインも。
嫌な予感。
「お前」
「元の世界で」
「死んでた?」
ユウトは頷く。
「私は、お前より先に死んだ」
「どうやって」
ユウトはすぐには答えなかった。
視線が。
レインから。
少しだけ逸れる。
「事故だ」
レイン。
「何の」
「交通事故」
その言葉。
この世界の誰にも意味は分からない。
でも。
レインとカイン。
二人だけ。
理解。
できる。
車。
道路。
何か。
頭の奥。
反応。
Rain由来記憶。
断片。
夜。
雨。
道路。
車のライト。
叫び声。
「……」
レイン。
頭。
押さえる。
「何か」
リリアが心配そうに見る。
「思い出しそう」
ユウトの表情。
変わる。
「無理に思い出すな」
「何で」
「今はまだ」
「またそれ?」
レインの声が。
少し。
苛立つ。
ユウト。
黙る。
レイン。
「俺」
「その言葉」
「最近一番嫌いなんだ」
「……」
「父さんも」
「アレンも」
「ルークも」
「みんな」
「今は知らない方がいい」
「まだ早い」
「その結果」
「俺は自分が何者か」
「何も知らなかった」
ユウト。
「だが」
「知らなければ」
「危険なこともある」
「知っていれば」
レイン。
「選べる」
ユウト。
止まる。
「怖くても」
「危険でも」
「俺が」
「決める」
長い。
沈黙。
ユウト。
小さく。
笑う。
「百年前のRainも」
「同じことを言った」
レイン。
「それ聞くと」
「俺」
「成長してないみたいだな」
「違う」
ユウト。
「百年前のあいつは」
一拍。
「選ぶと言いながら」
「全部一人で背負った」
そして。
仲間。
見る。
「今のお前は」
「違う」
レイン。
何も。
言わない。
ユウト。
「分かった」
一拍。
「話す」
◇◇◇
「私の元の名前は、結城悠斗」
その名前。
聞いた瞬間。
レインとカイン。
二人の頭の中で。
何かが。
弾けた。
結城。
悠斗。
ユウト。
【旧世界情報】
照合。
【対象】
結城悠斗。
一致。
ユウトの表示が変わる。
【本来名称】
結城悠斗。
【名称条件】
達成。
エマが驚く。
「名字が戻った……」
レイン。
でも。
名前だけではない。
記憶。
流れる。
大学。
講義室。
若い男。
悠斗。
笑っている。
隣。
もう一人。
顔。
見えない。
でも。
自分。
Rain。
違う。
人間。
名前。
まだ。
分からない。
二人。
くだらない。
話。
ゲーム。
酒。
就職。
将来。
普通。
本当に。
普通。
そして。
雨。
夜。
道路。
レイン。
いや。
過去の自分。
横断歩道。
車。
来る。
その瞬間。
悠斗。
自分を。
突き飛ばす。
衝撃。
血。
「……!」
レイン。
膝。
つく。
「レイン!」
ガルド。
支える。
ユウト。
目。
伏せる。
「そうだ」
声。
低い。
「私は」
「お前を」
「庇って」
「死んだ」
レイン。
息。
できない。
自分の代わりに。
悠斗。
死んだ。
「じゃあ」
レイン。
「俺は」
「その時」
「生きた?」
ユウト。
「ああ」
「何年」
「一年」
レイン。
顔。
上げる。
「一年?」
「私が死んだ」
「一年後」
「お前も死んだ」
「どうやって」
ユウト。
答えない。
でも。
もう。
レインの中。
記憶。
開き始める。
病院。
薬。
眠れない。
罪悪感。
悠斗。
自分のせい。
自分が。
生きた。
代わりに。
友人。
死んだ。
そして。
一年。
後。
高い。
場所?
違う。
雨。
また。
雨。
橋。
カイン。
顔。
青くなる。
「レイン」
「僕も」
「思い出してる」
二人。
同じ。
記憶。
橋。
川。
夜。
過去の自分。
一人。
手。
柵。
「……」
レイン。
呼吸。
止まる。
でも。
ユウト。
強い声。
「違う」
二人。
見る。
「最後まで」
「思い出せ」
映像。
橋。
確かに。
絶望。
でも。
飛び降りる。
前。
空。
割れる。
黒い。
亀裂。
何か。
現れる。
声。
――お前は。
――生きたいか。
過去の自分。
「……分からない」
――なら。
――こちらへ来い。
そして。
足元。
消える。
転落。
ではない。
境界へ。
引き込まれる。
【Rain最初の死亡】
原因。
境界転移時。
肉体消失。
レイン。
目。
開く。
「俺」
「自殺したわけじゃ」
「ない?」
ユウト。
「ああ」
「でも」
「死にたいとは」
ユウト。
言葉。
止まる。
「思っていた」
レイン。
認める。
胸。
痛い。
でも。
不思議と。
今の自分とは。
遠い。
同じ存在。
だけど。
違う。
「その時」
ユウト。
「何かがお前へ声をかけた」
「アビス?」
「私は」
「その時」
「死んでいた」
「どうして知ってる」
ユウト。
自分の胸。
触れる。
「私の魂も」
「拾われたからだ」
レイン。
「誰に」
ユウト。
表情。
険しくなる。
「それが」
一拍。
「アビスの中にいるものだ」
全員。
静止。
「私とお前は」
「同じ存在によって」
「この世界へ落とされた」
「なぜ」
「知らない」
「でも」
ユウト。
続ける。
「お前には」
「世界を食う能力」
「私には」
「魔族へ変わる力」
「それぞれ」
「与えられた」
カイン。
「実験?」
ユウト。
「私は」
「そう考えている」
世界。
一つ。
巨大な。
実験場。
Rain。
適合。
侵食。
再構築。
ユウト。
魔王。
境界。
それを。
試している。
何者か。
「そいつが」
レイン。
「今」
「起きようとしてる」
「そうだ」
アビス。
10%。
ユウト。
「そして」
「私は」
「百年以上」
「封印の中で」
「奴の声を」
「聞いていた」
「何て」
ユウト。
レインを見る。
「Rainを」
「完成させろ」
「そればかりだ」
◇◇◇
ノアが口を開く。
「話は繋がった」
全員。
見る。
「奴は」
「Rainの分離を」
「嫌がっている」
カイン。
「僕が独立した時も」
「返せと言っていた」
「つまり」
ノア。
「完全なRainを」
「必要としている」
レイン。
「何のため」
「そこまでは」
「分からない」
ユウト。
「私は」
「世界を」
「作り替えるためだと」
「思っている」
レイン。
過去。
最初のRain。
世界。
食う。
法則。
再構築。
もし。
完全。
能力。
戻る。
そして。
アビス。
何者か。
操る。
なら。
世界。
終わる。
「だから父さん」
レイン。
「俺を分けた」
ユウト。
「おそらく」
「お前の父親は」
「そこまで」
「辿り着いていた」
レイン。
父親。
怖がっていた。
でも。
怪物の息子を。
殺さなかった。
力。
分けた。
記憶。
消した。
普通に。
生きてほしい。
その気持ち。
今なら。
少し。
分かる。
「ユウト」
「何だ」
「お前」
「人間に戻りたい?」
質問。
ユウト。
少し。
驚く。
「約束だからじゃなく」
「自分で」
レイン。
続ける。
「戻りたい?」
長い。
沈黙。
ユウト。
百年以上。
魔王。
封印。
人間だった。
記憶。
残る。
でも。
もう。
元の世界。
戻れない。
家族。
友人。
全部。
三百年前。
死んでいる。
「分からない」
正直。
答える。
「人間に戻ったところで」
「何をする」
レイン。
「無職」
ユウト。
「そこを繰り返すな」
ガルド。
また。
笑う。
ユウトも。
少し。
笑う。
「でも」
ユウト。
レインを見る。
「一つ」
「したいことはある」
「何」
「お前に」
一拍。
「飯を奢らせたい」
レイン。
「……何で」
「元の世界で」
「最後に」
「お前が」
「今度奢るって」
「言った」
記憶。
断片。
居酒屋。
悠斗。
会計。
「次」
「俺出す」
過去の自分。
笑う。
その後。
事故。
約束。
果たせなかった。
レイン。
息。
吐く。
「三百年以上」
「それ」
「覚えてた?」
「ああ」
「執念深いな」
「十七年の遅刻より」
「ましだ」
レイン。
笑う。
「分かった」
一拍。
「戻ったら」
「奢る」
ユウト。
「なら」
少し。
笑う。
「人間に」
「戻る理由」
「できたな」
その瞬間。
レインの視界。
【対象ユウト】
現実世界側。
自己定義。
確立。
【世界適合処理】
成功率。
7%。
↓
18%。
「上がった」
エマ。
「理由だけで?」
レイン。
「カインの時と同じ」
存在。
残る理由。
重要。
◇◇◇
しかし。
まだ。
条件。
足りない。
レゾナンス。
50%。
エマ。
30%。
境界構造。
世界定着核。
「この最終試練」
ノア。
周囲。
見る。
「残りの条件を」
「揃えるために」
「あるんじゃないか」
その瞬間。
迷宮。
反応。
【最終試練】
第一段階。
――記憶。
達成。
【第二段階】
――選択。
レイン。
「選択?」
ユウト。
顔。
険しい。
「来るぞ」
「何が」
空間。
変わる。
迷宮。
消える。
そこに。
二つの。
扉。
左。
白。
右。
黒。
【選択】
一。
結城悠斗を人間へ戻す。
ただし。
魔王の力。
完全消失。
境界情報。
喪失。
二。
魔王として維持。
境界情報。
完全保持。
アビス攻略に。
大幅有利。
静寂。
レイン。
顔。
しかめる。
「……嫌な選択」
ノア。
「露骨だな」
カイン。
「ユウトを」
「人間に戻すか」
「武器として」
「残すか」
ユウト。
「私は」
レイン。
手。
上げる。
「言わなくていい」
「何」
「お前が」
「決める」
ユウト。
止まる。
「俺の」
「戦力」
「必要性」
「そんなの」
「関係ない」
「でも」
「お前の人生」
一拍。
「だろ」
ユウト。
長く。
レインを見る。
百年前。
Rain。
全部。
一人で。
決めた。
自分を。
封印。
した。
今。
レイン。
違う。
「人間に」
ユウト。
言う。
「戻る」
「いいの?」
「魔王の力」
「全部」
「なくなる」
「構わない」
「アビスに」
「戦力として」
「必要かもしれない」
「それでも」
ユウト。
少し。
笑う。
「私は」
「世界を」
「滅ぼしたいわけじゃない」
「それに」
「一度くらい」
一拍。
「普通に」
「生きてみたい」
レイン。
頷く。
白。
扉。
選択。
【結城悠斗】
人間化ルート。
確定。
その瞬間。
黒い扉。
消える。
そして。
白い扉。
開く。
その奥。
巨大な。
炉。
鍛冶場。
エマ。
目。
見開く。
【神造炉】
【レゾナンス】
第二製造工程。
開始。
レイン。
「やっぱり」
「ここで」
「完成度」
「上げられる」
エマ。
炉。
見る。
右手。
震える。
でも。
恐怖。
ではない。
興奮。
「やります」
ミア。
すぐ。
横。
「私も!」
ガルド。
「爆発」
ミア。
「しません!」
ユウト。
レインへ。
小声。
「大丈夫なのか」
レイン。
「たぶん」
ユウト。
「不安しかないな」
◇◇◇
製造工程。
始まる。
必要。
魔王の境界情報。
ユウト自身。
レゾナンス。
エマ。
神造鍛冶。
ミア。
錬金。
そして。
Rain。
レイン。
設計。
三百年前。
いや。
二百年前。
自分が。
作り始めたもの。
今。
自分。
完成へ。
近づける。
妙な。
感覚。
「レインさん」
エマ。
炉。
前。
「設計」
「見えますか」
レイン。
表示。
【レゾナンス第二工程】
不足設計情報。
Rain認証。
解放。
「見える」
「言ってください」
レイン。
読み上げる。
素材。
魔力。
温度。
境界波長。
でも。
言葉。
古い。
この世界。
ない。
それでも。
レイン。
理解。
できる。
「温度」
「通常炉の」
「六倍」
エマ。
「炉が持ちません」
ミア。
「強化します!」
「魔力」
「リリア」
「はい!」
「境界情報」
「ユウト」
「どうすれば」
レイン。
「手」
「炉へ」
ユウト。
「焼ける?」
ミア。
「たぶん」
ユウト。
レインを見る。
「その言葉」
「嫌いになってきた」
レイン。
「慣れろ」
◇◇◇
作業。
続く。
一時間。
二時間。
試練空間。
時間。
外と。
違う。
らしい。
ノア。
確認。
「外の時間」
「ほとんど」
「進んでない」
便利。
でも。
レイン。
「何で」
「こういうところだけ」
「親切」
ノア。
「迷宮を」
「設計した」
「お前の父親に」
「聞け」
「もういない」
「じゃあ」
「諦めろ」
作業。
続く。
エマ。
汗。
右腕。
限界。
ミア。
補助。
リリア。
魔力。
支える。
ガルド。
炉の。
崩壊。
盾で。
押さえる。
「何で」
「鍛冶で」
「盾使ってる!」
エマ。
「炉が!」
「壊れそう!」
「先に言え!」
セラ。
未来。
「三秒後」
「左側」
「爆発!」
ミア。
「爆発するんですか!?」
ガルド。
「お前が驚くな!」
ノア。
「エマ!」
「右へ」
「ハンマー!」
カァン!
レゾナンス。
光。
【完成度】
23%。
31%。
38%。
エマ。
覚醒率。
21%。
26%。
29%。
そして。
30%。
【神造鍛冶師】
第二段階。
覚醒。
エマの。
右腕。
光。
左肩。
ない。
そこ。
魔力。
集まる。
一瞬。
誰も。
声。
出ない。
左腕。
生える?
違う。
光。
形。
腕。
ではない。
魔力の。
補助手。
エマ。
驚く。
「これ」
【神造補助肢】
鍛冶作業時のみ。
形成。
左腕欠損。
補完。
エマ。
目。
潤む。
でも。
レイン。
言う。
「治った」
「じゃない」
エマ。
見る。
レイン。
「お前の」
「能力が」
「片腕に」
「合わせて」
「進化した」
エマ。
光の。
左手。
見る。
そして。
笑う。
「はい」
「こっちの方が」
一拍。
「私らしいです」
ハンマー。
二本。
右。
現実。
左。
魔力。
同時。
振る。
カァァァン――!
【レゾナンス】
完成度。
49%。
50%。
【条件達成】
◇◇◇
炉。
静まる。
エマ。
その場。
座り込む。
ミア。
「エマさん!」
「大丈夫」
呼吸。
荒い。
でも。
笑っている。
レイン。
レゾナンス。
見る。
刀身。
以前より。
長い。
銀。
黒。
二色。
【神造武具】
《レゾナンス》。
完成度50%。
【新規機能】
《存在分離》。
《世界定着》。
《境界情報抽出》。
ユウト。
「これで」
レイン。
「かなり」
「近づいた」
【ユウト人間化】
成功率。
18%。
↓
64%。
「64」
ノア。
「あと」
「境界構造解析」
「世界側定着核」
レイン。
ユウト。
見る。
【境界構造解析】
レゾナンス。
新機能。
実行可能。
「やる」
ユウト。
「痛い?」
レイン。
「分からない」
「たぶんって」
「言わない?」
レイン。
「たぶん痛い」
ユウト。
「最悪だ」
◇◇◇
レゾナンス。
刃。
ユウトの。
胸。
触れる。
斬らない。
情報。
抜く。
【境界情報抽出】
開始。
ユウト。
歯。
食いしばる。
「……これは」
「痛い?」
「痛い」
レイン。
「ごめん」
「軽い」
「今度」
「飯」
「高いもの」
「奢る」
「覚えた」
情報。
流れる。
魔王。
境界。
アビス。
巨大な。
接続。
そして。
奥。
また。
何か。
見える。
【接続源】
識別。
不能。
【仮称】
――観測者。
レイン。
目。
変わる。
「観測者?」
カイン。
「何」
「アビスの」
「奥にいるもの」
「名前」
「じゃない」
レイン。
「役割」
観測。
Rain。
ユウト。
完成個体。
世界。
全部。
見ている。
「俺たち」
「ずっと」
「見られてる?」
ユウト。
「おそらく」
解析。
完了。
【ユウト境界接続構造】
完全取得。
成功率。
64%。
↓
81%。
残り。
世界側定着核。
カイン。
「僕の時は」
「レインとの関係」
「指輪」
「成長核」
「使った」
ユウト。
「私にも」
「核が必要?」
レイン。
解析。
【世界側定着核】
現実世界で。
本人が。
選んだ。
継続理由。
ガルド。
「また生きる理由?」
ユウト。
少し。
笑う。
「もうある」
レイン。
「飯?」
「それも」
「他は?」
ユウト。
長い。
間。
そして。
仲間たち。
見る。
「この世界を」
「一度」
一拍。
「人間として」
「歩いてみたい」
魔王ではなく。
封印対象でもなく。
境界個体でもない。
普通の。
人間。
【世界側定着核】
形成。
成功率。
81%。
↓
96%。
ノア。
「いける」
レイン。
「やるぞ」
ユウト。
「ああ」
そして。
レインは。
全員を見る。
「また」
「みんな」
「頼む」
ガルド。
笑う。
「最初から」
「そのつもりだ」
リリア。
頷く。
セラ。
未来視。
ミア。
錬金陣。
ノア。
設計。
エマ。
レゾナンス。
カイン。
境界補助。
レイン。
一番。
後ろ。
いつもの。
場所。
「人間に」
「戻す」
レゾナンス。
光。
ユウト。
目。
閉じる。
【世界適合処理】
開始。
その瞬間。
アビス。
10%。
11%。
12%。
一気に。
上昇。
レイン。
「何で!」
ユウト。
顔色。
変わる。
「奴が」
「気付いた!」
全員。
構える。
空間。
割れる。
黒い。
亀裂。
その向こう。
声。
――悠斗。
ユウト。
身体。
止まる。
名前。
呼ばれた。
――戻れ。
ユウト。
震える。
「嫌だ」
初めて。
明確に。
拒絶。
――お前は。
――魔王。
ユウト。
目。
開く。
レインを見る。
そして。
笑う。
「違う」
一拍。
「私は」
「無職だ」
レイン。
一瞬。
吹き出す。
「そこ?」
ユウト。
「今」
「大事だ」
黒い亀裂。
広がる。
レイン。
レゾナンス。
構える。
「なら」
「無職として」
「こっちに」
「来い!」
ユウト。
「もう少し」
「格好いい言い方」
「思いつかなかったのか!」
「時間ない!」
レゾナンス。
振る。
境界。
ユウト。
魔王。
力。
切り離す。
黒い。
翼。
幻影。
角。
鎧。
全部。
身体から。
剥がれる。
亀裂。
吸い込もうとする。
ユウト。
歯。
食いしばる。
レイン。
支援。
《全域支援》。
全員。
魔力。
集中。
「ユウト!」
「何だ!」
「飯!」
「忘れるな!」
「お前こそ!」
光。
爆発。
◇◇◇
静寂。
レイン。
目。
開く。
最初。
見る。
ユウト。
倒れている。
「……」
近づく。
解析。
【個体名】
結城悠斗。
【種族】
人間。
【レベル】
1。
レイン。
笑う。
「また1」
カイン。
「仲間?」
ガルド。
「違うだろ」
ユウト。
目。
開く。
「……生きてる?」
レイン。
「たぶん」
ユウト。
「今だけは」
「その言葉」
「やめろ」
全員。
笑う。
そして。
迷宮。
表示。
【最終試練】
約束。
達成。
【灰月迷宮】
攻略進捗。
100%。
【初回完全攻略】
成立。
大量。
経験値。
全員。
光。
レイン。
【実レベル】
64。
↓
70。
「……70」
ノア。
「第三記録」
レイン。
「ああ」
条件。
達成。
117年前。
Rain。
完全記憶。
解放。
でも。
同時。
別。
表示。
【世界初】
レベル70。
到達。
【規格外成長】
世界側。
認識開始。
レイン。
顔。
変わる。
【偽装レベル】
30。
維持。
でも。
次。
【世界監視者】
対象認識。
完了。
「……まずい」
ユウト。
起き上がる。
「何が」
レイン。
見る。
アビス。
覚醒率。
12%。
その下。
【観測者】
応答。
一行。
――Rain。
――やっと。
――ここまで来た。
そして。
迷宮の外。
空。
黒く。
染まり始める。
世界中。
同時。
各地。
封印。
アビス。
第三鉱山。
王国魔術院。
知られていない。
境界。
全て。
一斉に。
反応。
【世界境界安定率】
69%。
↓
61%。
↓
54%。
レイン。
息。
止まる。
ユウト。
空を。
見る。
顔色。
変わる。
「レイン」
「何」
「百年前」
「魔王軍が」
「生まれた時と」
「同じだ」
レイン。
「何が」
ユウト。
一拍。
「境界が」
「開く」
迷宮。
崩れ始める。
そして。
レインの視界。
最後。
巨大な。
警告。
【魔王軍】
第二次侵攻。
開始まで。
――30日。
ガルド。
表示。
見えない。
「何だ」
レイン。
全員を見る。
物語。
最初。
未来。
世界最強のパーティー。
魔王軍。
決戦。
そこへ。
向かう。
本当の。
時間。
始まった。
「一ヶ月後」
レイン。
言う。
「魔王軍が」
「来る」
全員。
静止。
ミア。
「一ヶ月?」
「ああ」
ノア。
すぐ。
表情。
変わる。
「なら」
「準備期間」
「30日」
レイン。
頷く。
でも。
その時。
ユウト。
言う。
「違う」
全員。
見る。
「魔王軍が」
「来るのは」
「30日後」
「だが」
ユウト。
黒い空。
見つめる。
「魔王は」
「もう」
一拍。
「こちらにいる」
レイン。
「誰」
ユウト。
答える。
「零号だ」
第三鉱山。
灰色の髪。
黒い首輪。
世界規格外。
境界適合率。
100%以上。
零号。
その瞳。
遠く。
同じ瞬間。
開く。
黒い首輪。
砕ける。
【強制命令】
解除。
【新規権限】
魔王。
付与。
零号。
静かに。
空を見る。
そして。
初めて。
笑った。
「レイン」
一拍。
「今度は」
「逃げないでね」
――第四十七話 了――




