第四十四話 消えた弟
第四十四話 消えた弟
階段を下り始めてから、誰も言葉を発しなかった。
先頭を歩くのはレイン。そのすぐ隣をカインが歩き、その後ろにガルド、リリア、セラ、ミア、ノア、エマが続く。足元を照らす淡い魔力灯だけが、古びた石段を一定の間隔で照らしていた。
先ほどまでの第二層とは雰囲気がまるで違う。
魔物の気配がない。罠の気配もない。それどころか、迷宮特有の湿気や土の匂いすら消えていた。
まるで、この階段だけが世界から切り離されている。
そして、下へ進めば進むほど、レインの胸には説明できない感覚が強くなっていた。
懐かしい。
だが。
何を懐かしいと感じているのかが分からない。
「兄さん」
また、声が聞こえた。
今度は先ほどより近い。
幼い男の子の声だった。
レインは足を止めずに聞いた。
「カイン」
「聞こえてる」
「どんな感じがする?」
「嫌な質問だね」
カインは少しだけ眉を寄せた。
「懐かしい。でも、思い出せない。胸の奥に何かあるのに、そこへ手を伸ばすと消える」
レインは小さく頷いた。
自分と同じだった。
二人は、かつて一人だった。
七歳の時、父親によって分離される以前に起きた事件。
三人兄弟の末弟。
その子を、自分たちは存在ごと取り込んでしまった。
名前も。
顔も。
声も。
父親と母親の記憶からさえ、消した。
だから。
今聞こえている声が本当に弟のものなのか、レインには確信が持てない。
それでも。
身体だけは知っている。
「兄さん」
声がもう一度響いた。
今度は。
少し怒っていた。
「遅いよ」
レインの足が止まる。
カインも同時に止まった。
その瞬間。
二人の頭の中へ。
映像が飛び込んできた。
◇◇◇
小さな庭。
春。
花。
子供が三人。
一番大きいのがレイン。
その隣。
ルーク。
そして。
もう一人。
もっと小さい子供。
顔が見えない。
いや。
見えているはずなのに。
認識できない。
レインが。
木の枝を剣のように振っている。
ルークが追いかける。
三人目の子供も。
後ろから必死についてくる。
「兄さん!」
声。
今と同じ。
「待って!」
幼いレイン。
振り返る。
笑う。
「遅いぞ!」
三人目。
転ぶ。
泣きそうになる。
レインが戻る。
手。
差し出す。
「ほら」
小さな手が。
レインの手を握る。
その瞬間。
映像が。
消えた。
◇◇◇
レインは反射的に右手を握り締めていた。
そこには誰もいない。
「……いた」
声が震える。
「本当に」
「いた」
カインも、同じように自分の手を見ていた。
「僕たちは」
「覚えてた」
レインが見る。
「何?」
「消えたんじゃない」
カインの表情が険しくなる。
「全部食ったと思ってた。でも違う。どこかに残ってた。父親にも母親にも残らなかったのに」
「俺たちの中だけ?」
「たぶん」
後ろからノアが声をかけた。
「進めるか」
レインは一度深く息を吸った。
「ああ」
再び。
階段を下り始める。
◇◇◇
どれほど下ったのか。
時間感覚がなくなるほど長い階段の先に。
ようやく扉が現れた。
小さな扉だった。
巨大な迷宮。
その深部。
第三試練。
それなのに。
目の前にあるのは。
普通の家の扉。
木製。
少し傷がある。
レインは、その傷を知っていた。
「……これ」
カインも見ている。
「知ってる?」
「ああ」
レインが扉の右下を指す。
横に。
三本。
細い傷。
「俺がやった」
「僕も覚えてる」
幼い頃。
木剣。
家の中で振るなと怒られていた。
それでも。
ルークと遊んで。
誤って。
扉を叩いた。
父親に。
ひどく怒られた。
記憶。
一部。
戻っている。
ガルドたちは。
何も言わない。
この場所が。
レインたちにとって。
普通の迷宮ではないことを。
全員。
理解している。
レインが。
取っ手へ。
手を伸ばす。
【第三試練】
開始。
【試練名称】
――忘却。
【対象】
レイン。
カイン。
【他パーティーメンバー】
観測のみ許可。
「また俺たちだけか」
カインが小さく息を吐く。
レインは苦笑した。
「当然だろ」
「今回ばかりは」
「他の奴には」
「どうにもできない」
「そうだね」
扉。
開く。
◇◇◇
そこにあったのは。
家だった。
レインが。
幼い頃に住んでいた家。
玄関。
廊下。
階段。
壁。
家具。
すべて。
記憶のまま。
いや。
記憶以上。
正確。
母親の好きだった花。
父親の机。
ルークの玩具。
そして。
見覚えのない。
小さな靴。
玄関に。
三足。
子供用。
レイン。
その場から。
動けない。
自分。
ルーク。
そして。
三人目。
「……靴」
カインが呟く。
「小さいね」
「俺たちより」
「三つくらい下?」
「たぶん」
声。
奥。
「やっと来た」
二人。
顔を上げる。
居間。
そこに。
少年がいた。
年齢。
四歳。
五歳。
そのくらい。
黒髪。
レインと。
似ている。
だが。
目。
母親。
似ている。
少年は。
椅子へ座り。
二人を見ていた。
「兄さん」
レイン。
呼吸。
止まる。
顔。
知らない。
でも。
見た瞬間。
胸。
締め付けられる。
「……お前」
声が。
出ない。
少年。
少し怒った顔。
「遅い」
「ごめん」
無意識に。
謝った。
カインが。
横目でレインを見る。
「即謝るんだ」
「お前も謝れ」
「僕も?」
少年。
カインを見る。
そして。
首を傾げる。
「兄さんが」
「二人いる」
レイン。
困る。
「説明すると」
「長い」
「そう」
少年。
なぜか。
納得。
「じゃあ」
レインを指す。
「兄さん」
次。
カイン。
「もう一人の兄さん」
カイン。
「雑だな」
レイン。
「いいじゃん」
「君は兄さんなのに」
「僕はもう一人の兄さん?」
少年。
笑う。
「じゃあ」
「名前」
一拍。
「何?」
レイン。
聞く。
少年。
笑顔。
止まる。
「僕?」
「ああ」
少年は。
しばらく。
考えた。
そして。
困った。
顔。
「……分からない」
レイン。
胸。
痛む。
「自分の名前」
「覚えてないのか」
「うん」
「父さんも」
「母さんも」
「兄さんも」
一拍。
「みんな」
「忘れたから」
カイン。
顔。
伏せる。
少年。
足。
ぶらぶら。
させる。
「だから」
「僕も」
「忘れた」
◇◇◇
レインは。
少年の前へ。
しゃがんだ。
「ごめん」
少年。
「また謝った」
「ああ」
「何で」
「俺たちが」
レイン。
言葉。
詰まる。
七歳。
力。
暴走。
弟。
消した。
本人。
覚えていない。
でも。
責任。
消えない。
「俺が」
「お前を」
「消した」
少年は。
少し考えた。
「違う」
レイン。
「違わない」
「違う」
「なんで」
少年。
レインを指す。
「その時の兄さん」
次。
カイン。
「こっちにもいる」
二人。
黙る。
「だから」
少年。
子供らしい。
単純な声。
「二人でやった」
カイン。
僅かに。
笑う。
「逃げ道」
「塞いでくるね」
少年。
「逃げるの?」
カイン。
何も。
答えられない。
「逃げない」
レイン。
言う。
「俺も」
「カインも」
「逃げない」
少年。
「じゃあ」
「謝って」
レイン。
すぐ。
「ごめん」
カイン。
少し遅れて。
「……ごめん」
少年。
黙る。
レイン。
カイン。
待つ。
そして。
少年。
「いいよ」
あまりにも。
簡単だった。
レイン。
「……いいのか?」
「うん」
「俺たち」
「お前を」
「消したんだぞ」
「でも」
少年。
首。
傾げる。
「わざと?」
レイン。
「違う」
カイン。
「違う」
「じゃあ」
少年。
「いい」
レイン。
何も。
言えない。
子供。
だから。
簡単に。
許した?
違う。
もっと。
何か。
レインには。
その言葉の方が。
重い。
カイン。
隣。
俯いている。
肩。
震える。
レインは。
何も。
言わない。
泣いているのか。
それとも。
怒っているのか。
分からない。
ただ。
少し。
待った。
◇◇◇
少年が。
椅子から降りる。
「ねえ」
「何」
「遊ぼう」
レイン。
「今?」
「うん」
「試練は?」
少年。
分からない顔。
「試練?」
どうやら。
知らない。
そして。
部屋。
変化。
床。
広く。
庭。
出る。
昔。
三人。
遊んだ。
場所。
木剣。
三本。
置いてある。
少年。
一本。
取る。
レインへ。
一本。
カインへ。
一本。
渡す。
「兄さん」
「勝負」
レイン。
「俺」
「攻撃能力ないけど」
カイン。
「木剣くらい振れるだろ」
「お前」
「レベル1じゃん」
「言ったね」
「事実」
少年。
笑う。
「早く!」
三人。
構える。
レイン。
木剣。
持つ。
昔。
感覚。
少し。
戻る。
少年。
「行くよ!」
走る。
遅い。
子供。
でも。
レイン。
受ける。
カン。
軽い。
次。
カイン。
少年。
攻撃。
カイン。
避ける。
「避けるのずるい!」
「当たったら痛い」
「兄さんなのに!」
「理不尽だな」
レイン。
笑う。
「子供に」
「理屈通じないぞ」
「君も子供だっただろ」
「お前もな」
少年。
二人。
見る。
「喧嘩?」
二人。
「違う」
また。
同時。
少年。
大笑い。
その声。
庭。
響く。
レイン。
胸。
苦しい。
でも。
嫌じゃない。
楽しい。
記憶。
戻る。
◇◇◇
映像。
三兄弟。
庭。
遊ぶ。
末弟。
いつも。
二人の後ろ。
ついてくる。
ルーク。
時々。
意地悪。
レイン。
止める。
末弟。
泣く。
母。
怒る。
父。
遠くで。
笑う。
名前。
何か。
呼ばれている。
でも。
聞こえない。
ノイズ。
「――!」
「――、こっち来い!」
「――、危ない!」
名前。
あと。
少し。
◇◇◇
「兄さん」
少年。
急に。
真剣。
木剣。
下ろす。
「僕」
「ずっと」
「ここにいた」
レイン。
「一人で?」
「うん」
「寂しかった?」
少年。
少し。
考える。
「最初は」
「でも」
「みんな」
「僕を忘れたから」
一拍。
「寂しいって」
「思う相手も」
「いなくなった」
レイン。
胸。
締め付けられる。
「それでも」
「兄さんが」
「いつか」
「来る気がした」
カイン。
「なぜ」
「分からない」
少年。
笑う。
「兄さんだから」
レイン。
また。
謝りそうになる。
でも。
止める。
謝るだけでは。
何も。
戻らない。
「一緒に」
「外へ」
「行くか」
少年。
笑顔。
少し。
消える。
「行けない」
レイン。
「何で」
「僕」
自分。
指す。
「もう」
「いないから」
「ここにいる」
「これは」
「残った記憶」
レイン。
母の記録。
父親だったもの。
同じ。
死んだ。
存在。
その残り。
「戻す方法」
少年。
首。
横。
「ない」
「探す」
「無理」
「決めるな」
少年。
少し。
驚く。
レイン。
続ける。
「俺たち」
「一回」
「世界に存在しないはずの」
「カインを」
「人間にした」
少年。
カインを見る。
「そうなの?」
カイン。
「かなり無茶だったけど」
「できた」
「なら」
レイン。
少年。
見る。
「お前も」
「できるかもしれない」
少年。
考える。
でも。
首。
横。
「僕は違う」
「何が」
「僕は」
一拍。
「兄さんの中に」
「もういる」
レイン。
止まる。
「……何?」
少年。
自分の胸。
指す。
次。
レイン。
次。
カイン。
「僕の」
「レベル」
「才能」
「記憶」
「全部」
「二人の中」
カイン。
顔色。
変わる。
「じゃあ」
「君を戻すには」
「僕たちから」
「取り出す?」
「うん」
レイン。
表示。
出る。
【第三子残存情報】
検出。
レイン保有率。
46%。
カイン保有率。
46%。
迷宮残存率。
8%。
「……」
二人。
ほぼ。
半分ずつ。
持っている。
「取り出したら」
レイン。
「俺たちは」
「どうなる」
【情報分離】
実行時。
レイン。
実レベル低下。
カイン。
成長核損傷可能性。
記憶。
一部欠損。
「リスクある」
カイン。
「どれくらい」
レイン。
表示。
「俺は」
「レベル」
「たぶん50近くまで」
「戻る」
カイン。
「僕は」
「成長核」
「壊れる可能性」
「……」
少年。
即答。
「やめて」
レイン。
「でも」
「やめて」
「俺たちが」
「やったこと」
「返さないと」
少年。
少し。
怒る。
「また」
「兄さん」
「勝手に決めるの?」
レイン。
止まる。
その言葉。
父親。
一人で。
決めた。
守るため。
レイン。
全部。
奪った。
そして。
自分も。
同じ。
弟を戻すため。
自分とカインの。
リスク。
勝手に。
決めようとした。
「……ごめん」
少年。
「三回目」
レイン。
「数えてた?」
「うん」
カイン。
少し。
笑う。
「ちゃんと怒られたね」
レイン。
「お前も関係あるだろ」
「僕は」
「今」
「黙ってた」
「ずるい」
少年。
「兄さんたち」
「仲いいね」
二人。
「良くない」
少年。
また。
笑う。
◇◇◇
「じゃあ」
レイン。
今度は。
聞く。
「お前は」
「どうしたい」
少年。
少し。
考える。
長い。
沈黙。
そして。
「名前」
レイン。
「何?」
「僕の名前」
少年。
「思い出して」
「それだけ?」
「うん」
「外へ」
「出なくていい?」
「僕」
「もう」
「生きてない」
声。
寂しい。
でも。
受け入れている。
「でも」
「名前が」
「戻れば」
一拍。
「いたこと」
「なくならない」
レイン。
胸。
痛む。
存在。
消えた。
名前。
消えた。
誰も。
覚えていない。
それは。
死ぬより。
残酷。
「分かった」
レイン。
「思い出す」
カイン。
隣。
「二人で」
少年。
笑う。
「うん」
その瞬間。
第三試練。
表示。
【目的更新】
第三子の名称を復元せよ。
【制限時間】
なし。
レイン。
少し。
安心。
「時間制限」
「ない」
カイン。
「珍しいね」
レイン。
「この迷宮」
「急かす時と」
「急かさない時の」
「差が激しい」
少年。
「迷宮」
「父さんが」
「作ったから」
レイン。
「性格悪いな」
カイン。
「同意」
◇◇◇
名前。
どうやって。
思い出す。
少年。
教えない。
「自分で」
「思い出して」
それが。
試練。
レイン。
家。
見る。
庭。
遊び。
記憶。
断片。
名前。
いつも。
ノイズ。
なら。
別の。
手がかり。
「母さん」
レイン。
「何て」
「呼んでた」
少年。
「分からない」
「父さん」
「分からない」
「ルークは」
「たぶん」
「兄ちゃん」
「そうじゃなくて」
少年。
笑う。
「分かってる」
レイン。
考える。
三兄弟。
自分。
レイン。
ルーク。
三人目。
父親。
名前。
付け方。
何か。
規則。
「レイン」
「ルーク」
カイン。
呟く。
「共通点」
「ないね」
「雨と」
「光?」
「ルークは」
「意味違う」
「父親」
「適当に付けた?」
レイン。
「あり得る」
その時。
少年。
頬。
少し。
膨らませる。
「父さん」
「ちゃんと考えた」
二人。
同時に。
少年を見る。
「知ってるじゃん」
少年。
「あ」
自分で。
口。
押さえる。
カイン。
「今」
「記憶」
「出た?」
少年。
「少し」
レイン。
「何を」
少年。
目。
閉じる。
「父さん」
「三人の名前」
「同じ本から」
「取った」
レイン。
「本?」
映像。
父。
本。
古い。
表紙。
この世界の文字。
ではない。
Rain。
名前。
由来。
境界。
父親は。
境界外から。
何か。
読んだ。
三人。
その本から。
名前。
つけた。
「Rain」
レイン。
自分。
表示。
旧分類名。
Rain。
カイン。
「僕の」
「名前」
「今」
「カイン」
「それは自分で付けた」
「元は」
一つ。
レイン。
だから。
関係なし。
ルーク。
Luke。
レイン。
目。
変わる。
「英字」
この世界。
ない。
でも。
自分は。
読める。
Rain。
Luke。
なら。
三人目。
「同じ」
「本」
少年。
突然。
歌う。
幼い。
短い。
歌。
聞いたこと。
ない。
でも。
父親の記憶。
反応。
子供たちへ。
読み聞かせ。
本。
遠い世界。
物語。
雨。
光。
そして。
空。
いや。
違う。
少年。
「兄さん」
「思い出して」
声。
レイン。
胸。
何か。
開く。
映像。
父。
三人目。
抱く。
母。
寝ている。
父。
赤ん坊へ。
言う。
「お前は」
ノイズ。
「――だ」
レイン。
頭。
痛い。
でも。
逃げない。
「もう一回」
カイン。
「無理するな」
「思い出す」
「壊すなよ」
「分かってる」
父。
声。
もう一度。
「レイン」
長男。
「ルーク」
次男。
そして。
三男。
「――」
音。
戻る。
レイン。
目。
見開く。
「……ノア」
後ろ。
透明な境界。
観測している。
ノア。
反応。
「俺?」
「違う」
少年。
笑う。
レイン。
涙。
出る。
「ノエル」
少年。
完全に。
動きを止めた。
カイン。
胸。
押さえる。
記憶。
戻る。
「……ノエル」
二人。
同時。
その名。
呼ぶ。
少年。
顔。
くしゃくしゃ。
涙。
一気に。
流れる。
「やっと」
「やっと」
一拍。
「呼んでくれた」
レイン。
近づく。
今度は。
触れる。
少年。
消えない。
抱き締める。
小さい。
温かい。
記録なのに。
温かい。
カイン。
少し。
離れて。
見ている。
ノエル。
レインの肩越し。
見る。
「もう一人の兄さん」
カイン。
「何」
「来て」
カイン。
一瞬。
迷う。
でも。
近づく。
三人。
抱く。
レイン。
ノエル。
カイン。
本当なら。
ここに。
ルークも。
いた。
家族。
四兄弟?
いや。
レインとカインは。
元は一人。
ややこしい。
でも。
今は。
どうでもいい。
ノエル。
泣く。
「兄さん」
「ごめん」
レイン。
「それは」
「俺たちが」
「言う方」
「違う」
ノエル。
首。
横。
「僕」
「ずっと」
「怒ってた」
「うん」
「恨んでた」
「うん」
「でも」
「会ったら」
一拍。
「嬉しかった」
レイン。
言葉。
出ない。
カインも。
泣いている。
本人。
気付いていない。
レイン。
何も。
言わない。
◇◇◇
【第三試練】
達成。
【第三子名称】
復元。
ノエル・――。
姓。
なし。
レインと。
同じ。
【存在記録】
復元開始。
世界。
揺れる。
レイン。
顔。
上げる。
【世界記録修正】
第三子。
ノエル。
存在履歴。
一部復元。
その瞬間。
迷宮の外。
ルーク。
頭。
押さえる。
「……ノエル?」
記憶。
少し。
戻る。
母親の記録。
消えかけた場所。
涙。
「ノエル……」
王国魔術院。
古い。
破損記録。
名前。
一行。
復元。
そして。
世界。
完全に。
消えた。
存在。
ほんの。
僅か。
戻る。
でも。
ノエルの身体。
薄くなる。
レイン。
「待て」
「大丈夫」
ノエル。
笑う。
「僕」
「これで」
「いなくならない」
「でも」
「ここから」
「消える」
「記録は」
「戻る」
「じゃあ」
「どこに」
ノエル。
レインの胸。
指す。
次。
カイン。
「ここ」
「また」
「中?」
「うん」
レイン。
苦笑。
「今度は」
「食ったんじゃないよな」
ノエル。
笑う。
「違う」
「僕が」
「戻る」
カイン。
「本当に」
「それでいい?」
ノエル。
「うん」
そして。
少し。
いたずらっぽく。
「でも」
「いつか」
「身体」
「作って」
レイン。
「……」
カイン。
「……」
ノエル。
「カイン兄さん」
「一回」
「作れたんでしょ」
レイン。
頭。
抱える。
「聞いてたの?」
「全部」
「最初から?」
「うん」
カイン。
笑う。
「じゃあ」
「次の目標」
「増えたね」
レイン。
ため息。
でも。
笑う。
「ああ」
「絶対」
「戻す」
ノエル。
嬉しそう。
「待ってる」
そして。
光。
レイン。
カイン。
二人へ。
半分ずつ。
入る。
【第三子情報】
レイン保有率46%。
↓
50%。
カイン保有率46%。
↓
50%。
迷宮残存率8%。
↓
0%。
【存在情報】
安定。
【将来的独立生命化】
――可能。
レイン。
その表示。
見て。
笑う。
「できる」
カイン。
「何が」
「ノエル」
一拍。
「戻せる」
カイン。
表示。
見えない。
でも。
レインの顔。
見れば。
分かる。
「本当?」
「ああ」
「条件は」
レイン。
表示。
見る。
そして。
顔。
引きつる。
【独立生命化条件】
・実レベル100以上の支援核。
・完成状態の神造器。
・境界外生命情報。
・世界側承認。
カイン。
「難しそう?」
レイン。
「かなり」
「無理?」
レイン。
即答。
「やる」
カイン。
笑う。
「そう言うと思った」
◇◇◇
透明な壁。
消える。
仲間たち。
すぐ。
近づく。
リリア。
「大丈夫ですか?」
レイン。
「ああ」
ガルド。
「弟は」
レイン。
胸。
手。
置く。
「ここ」
ガルド。
「また増えたのか」
ミア。
「家族が」
「収納されていくみたいですね」
全員。
ミアを見る。
「何ですか?」
レイン。
「言い方」
「でも」
ミア。
「戻せるんですよね」
「ああ」
エマ。
《名無し》。
握る。
「私も」
「必要ですか」
レイン。
「神造器」
「完成品」
「必要」
エマ。
迷わず。
「作ります」
レイン。
「頼む」
ノア。
「実レベルは」
「59」
「じゃあ」
「次の試練で」
「60」
レイン。
頷く。
その時。
経験値。
表示。
【第三試練達成】
大量経験値。
【実レベル】
59。
↓
60。
全員。
止まる。
レイン。
自分。
表示。
見る。
「……今」
ノア。
「60?」
「ああ」
そして。
同時。
【実レベル60】
条件達成。
【《名無し》設計情報】
復元開始。
【記憶封印】
第二段階。
解除可能。
【父親関連情報】
追加開放。
さらに。
【新規支援能力】
解放。
レイン。
一気に。
表示。
増える。
「多い!」
ガルド。
「何が」
「一気に」
「色々開いた」
ノア。
「順番」
「一つずつ」
レイン。
最初。
《名無し》。
見る。
【正式名称】
復元。
エマ。
息。
呑む。
「名前」
「分かるんですか」
「ああ」
【神造武具】
第一号。
名称。
――《レゾナンス》。
意味。
共鳴。
【製造目的】
境界外存在を。
殺害するため。
ではない。
全員。
表情。
変わる。
レイン。
続きを読む。
【製造目的】
境界外存在を。
この世界へ。
適合させるため。
「……」
カイン。
指輪。
見る。
ノエル。
戻す。
ソラ。
零号。
完成個体。
そして。
自分。
レイン。
理解する。
この武器。
剣。
ではない。
「エマ」
「はい」
「これ」
《名無し》。
いや。
《レゾナンス》。
見る。
「敵を倒す武器じゃない」
エマ。
「じゃあ」
レイン。
表示。
最後。
読む。
「世界に」
「存在できない奴を」
一拍。
「存在できるようにする」
カイン。
完全に。
固まる。
レイン。
笑う。
「ノエルを」
「戻す方法」
「一つ」
「もう見つかった」
だが。
その直後。
さらに。
警告。
【レゾナンス】
最終設計者。
情報復元。
【最終設計責任者】
――レイン。
全員。
沈黙。
レイン。
「……俺?」
エマ。
「二百年前の武器ですよ」
「俺」
「三十歳」
ガルド。
「計算合わねえな」
カイン。
表情。
変わる。
「レイン」
「何」
「Rain」
一拍。
「この世界に来たのは」
「君の身体が生まれた時じゃ」
「ないのかもしれない」
レイン。
《レゾナンス》。
見る。
二百年前。
設計。
レイン。
自分。
そして。
父親は。
それを。
十八年前。
更新した。
なら。
レインという存在。
どれほど。
古い?
視界。
次。
【名称由来情報】
一部解除。
Rain。
初回記録。
――推定。
317年前。
レイン。
完全に。
声。
失う。
自分は。
三十年前に。
生まれた。
でも。
レインという存在は。
少なくとも。
三百十七年前から。
この世界に。
記録されている。
そして。
その瞬間。
アビス覚醒率。
表示。
【アビス】
覚醒率。
7%。
↓
10%。
【境界接続率】
レイン。
10%。
条件達成。
【Rain由来情報】
閲覧可能。
レイン。
目の前。
新しい。
文字。
現れる。
【Rain】
種別。
――世界渡航体。
【出身世界】
照合中。
【元個体】
人間。
レイン。
「……元」
「人間?」
その下。
さらに。
【最初の死亡】
317年前。
レインの呼吸が。
止まった。
自分は。
一度。
三百年以上前に。
死んでいる。
――第四十四話 了――




