第三十九話 死んだはずの父
第三十九話 死んだはずの父
【血縁反応】
検知。
【対象】
接近中。
一致率。
99.98%。
レインは。
その表示を。
何度も見直した。
「……父親」
声に出すと。
現実味が。
さらに薄くなる。
十八年前。
死んだはず。
アレンが。
自分の手で。
殺したと。
そう言った。
なのに。
血縁反応。
99.98%。
「セラ」
レインが聞く。
「未来で」
「本当に」
「ルークが父さんって呼んだんだな」
セラ。
まだ。
呼吸を整えながら。
頷く。
「はい」
「間違いありません」
「顔は?」
「……見えません」
「どうして」
「影みたいに」
「どうしても」
「顔だけ」
「見えないんです」
ノアが。
すぐに。
考え込む。
「未来視そのものが」
「妨害されている可能性は?」
セラ。
「あります」
「でも」
「ルークの表情は」
「見えました」
レイン。
「どんな顔だった」
セラ。
少し。
迷う。
「喜んでません」
「……」
「怖がっていました」
全員。
空気。
変わる。
ガルドが。
大盾を握り直す。
「なら」
「父親じゃねえ可能性もある」
アレン。
静かに。
首を横に振る。
「血縁反応が」
「99.98%」
「そこまで一致するなら」
「他人という可能性は」
「極めて低いです」
ガルド。
「じゃあ」
「双子?」
レイン。
「聞いたことない」
ミア。
「お父さんに」
「双子の兄弟がいたとか」
「それなら」
アレン。
「血縁一致率は」
「ここまで高くならないでしょう」
エマ。
不安そうに。
レインを見る。
「じゃあ」
「本当に」
「生きてるんですか?」
誰も。
答えられない。
レイン。
目を閉じる。
父親。
記憶。
封印。
姿。
ほとんど思い出せない。
でも。
一つだけ。
アレンが。
父親を殺した。
その事実。
「アレン」
アレン。
表情。
固くなる。
「はい」
「もう一度聞く」
「はい」
「お前は」
一拍。
「父親が死んだところを」
「見たのか」
アレンは。
すぐには答えなかった。
今まで。
何度も。
「殺した」
そう言ってきた。
だが。
質問は違う。
死んだところを。
見たのか。
「……いいえ」
レインの目が。
変わる。
ガルド。
「何?」
アレン。
拳を握る。
「私は」
「命令通り」
「致命傷を与えました」
「どこに」
「胸部」
「心臓?」
「はい」
「確認は」
「生命反応」
「停止を確認しました」
「遺体は?」
長い。
沈黙。
「回収班に」
「引き渡しました」
レイン。
「その後は」
「知りません」
ノアが。
すぐに口を挟む。
「つまり」
「お前が確認したのは」
「心停止まで」
アレン。
「そうです」
「完全な死亡確認ではない」
「……」
「蘇生された可能性」
アレン。
目を見開く。
「あります」
レイン。
息を吐く。
希望。
ではない。
むしろ。
嫌な予感。
父親は。
生きていた。
なら。
十八年間。
何をしていた。
なぜ。
レインの前に。
現れなかった。
なぜ。
ルークを。
十年間。
迷宮へ閉じ込めた。
そして。
なぜ。
今。
出てくる。
◇◇◇
「戻る」
レインが言った。
ノア。
即座に。
「入口へ?」
「ああ」
「待て」
「何」
ノア。
迷宮の奥を見る。
「攻略進捗18%」
「ここまで」
「一方通行だった」
「戻れる保証がない」
レイン。
確かめる。
来た道。
扉。
閉じている。
【帰還経路】
未開放。
「……」
ガルド。
「まさか」
「戻れない?」
レイン。
「今のところ」
ミア。
「そんな!」
ノア。
「落ち着け」
「迷宮には」
「必ず条件がある」
壁。
床。
天井。
見る。
「第一封印を解除した」
「だから」
「次の区画が開いた」
「なら」
「ここから戻る条件も」
「何かある」
レイン。
表示。
探す。
【灰月迷宮】
攻略進捗18%。
【現在区画】
第二層。
【帰還条件】
第二試練達成。
「出た」
「何」
「第二試練を」
「終わらせれば」
「戻れる」
ガルド。
「内容は」
その瞬間。
迷宮。
低い。
鐘のような。
音。
ゴォォォン――。
全員。
構える。
前。
暗闇。
ゆっくり。
光。
点く。
一つ。
二つ。
十。
百。
巨大な。
円形空間。
その中央。
七つの。
石像。
いや。
八つ。
レインたちと。
同じ人数。
ガルド。
リリア。
セラ。
ミア。
ノア。
アレン。
エマ。
そして。
レイン。
姿。
そっくり。
石像の前。
表示。
【第二試練】
【喪失】
【条件】
一人を選択せよ。
「……一人?」
ミア。
嫌な声。
【選択された一名は】
【迷宮外へ帰還】
【残る七名は】
【第三層へ進行】
静寂。
ガルド。
「何だ」
「簡単じゃねえか」
レイン。
「待て」
続き。
【選択された一名は】
【以後】
【灰月迷宮への侵入権を永久喪失】
ノア。
「……なるほど」
セラ。
「一人を」
「外へ出せる」
レイン。
すぐに。
「俺が残る」
ガルド。
「当たり前だ」
リリア。
「なら」
「誰を戻すか」
レイン。
一瞬。
迷う。
全員。
必要。
でも。
今。
入口。
ルーク。
そして。
父親らしき人物。
誰かが。
行くべき。
「アレン」
アレン。
驚く。
「私ですか」
「ああ」
「理由を」
「父親を」
「知ってる可能性が」
「一番高い」
アレン。
「でも」
「私が出れば」
「もう迷宮へ戻れません」
「それでいい」
「良くありません」
珍しく。
アレンが。
強く言う。
「私は」
「あなたの父親について」
「まだ償っていません」
レイン。
「償うために」
「仲間になったのか」
「……」
「違うだろ」
アレン。
黙る。
「なら」
レイン。
「外で」
「ルークを守ってくれ」
「それが」
「今」
「一番必要だ」
アレン。
長く。
レインを見る。
そして。
「……分かりました」
石像。
アレン。
光。
【選択】
アレン。
【確認】
YES。
レイン。
選ぶ。
【第二試練】
達成。
アレンの足元。
光。
「レイン」
「何」
「一つだけ」
「何」
アレン。
真剣。
「父親が」
「本当に生きていたとして」
「すぐに」
「信用しないでください」
レイン。
「分かってる」
「あなたは」
「家族に弱い」
「……」
ガルド。
横から。
「当たってるな」
レイン。
「うるさい」
アレン。
少し笑う。
「では」
「行きます」
レイン。
「ルークを頼む」
「はい」
光。
アレン。
消える。
◇◇◇
灰月迷宮。
入口。
ルーク。
一人。
立っている。
目の前。
男。
黒い外套。
背。
高い。
白髪混じり。
顔。
影。
見えない。
「久しぶりだな」
男。
声。
ルーク。
震える。
「……父さん」
「十年ぶりか」
「なぜ」
「今」
男。
笑う。
「レインが」
「ここまで来たからだ」
ルーク。
一歩。
後退。
「兄さんに」
「何する気」
「何もしない」
「嘘だ」
「ルーク」
男。
少し。
困ったような声。
「父親に」
「その言い方は」
「悲しいな」
「父さんは」
ルーク。
拳。
握る。
「兄さんから」
「全部奪った」
男。
沈黙。
「名前」
「記憶」
「力」
「家族」
「僕まで」
「隠した」
「必要だった」
「何のために!」
男。
一歩。
近づく。
「世界を」
「守るためだ」
「兄さんは」
「世界を壊さない!」
「今のレインはな」
ルーク。
止まる。
男。
静かに。
続ける。
「だが」
「完全なレイン・アークは」
一拍。
「世界そのものを」
「食う」
ルーク。
顔色。
変わる。
「……違う」
「事実だ」
「違う!」
「だから」
男。
「私は」
「息子を」
「二つに分けた」
「優しい方を」
「こちらへ残し」
「もう一方を」
「境界へ捨てた」
ルーク。
「捨てたんじゃない」
「封印しただけだ」
「同じだ!」
男。
少し。
黙る。
その瞬間。
入口。
光。
アレン。
出現。
「……」
ルーク。
振り返る。
「アレン!」
男。
動き。
止まる。
アレン。
その男を。
見る。
顔。
影。
それでも。
分かる。
身体。
震える。
十八年前。
自分が。
殺した。
男。
「……あなた」
男。
アレンを見る。
そして。
静かに。
笑った。
「久しぶりだな」
アレン。
声。
出ない。
「十二号」
一拍。
アレン。
目。
鋭くなる。
「その名前は」
「捨てました」
男。
少し。
驚く。
「そうか」
「今は」
「アレンです」
「……」
男。
ほんの少し。
笑う。
「良い名前だ」
アレン。
拳。
握る。
「あなたは」
「死んだはずです」
「死んだよ」
「何?」
「一度は」
男。
胸。
手。
置く。
「お前が」
「きちんと」
「殺してくれた」
アレン。
「では」
「なぜ」
男。
答える。
「死んだ後」
一拍。
「境界側で」
「作り直された」
アレンの表情。
変わる。
「あなたも」
「境界個体?」
「違う」
「では」
「私は」
男。
少し。
考える。
「レインほど」
「特別ではない」
「ただ」
胸。
黒い文字。
浮かぶ。
【境界】
【こちら】
【あちら】
「死ねなくなった」
アレン。
ルーク。
同時に。
息を呑む。
男。
「さて」
「アレン」
「何です」
「レインは」
「どこまで」
「思い出した」
アレン。
答えない。
男。
「名前」
「選んだか」
アレン。
表情。
変わる。
知っている。
迷宮の中。
見えないはず。
「どうして」
「分かる」
男。
「この迷宮は」
一拍。
「私が作った」
◇◇◇
第三層。
レインたち。
七人。
いや。
アレンが抜け。
七人。
レイン。
ガルド。
リリア。
セラ。
ミア。
ノア。
エマ。
階段。
下る。
レインの視界。
【灰月迷宮】
攻略進捗。
31%。
「一気に増えたな」
ガルド。
「第二試練の分」
「みたいだ」
ノア。
「あと69%」
「60まで」
レイン。
「六レベル」
エマ。
「迷宮を全部攻略したら」
「届きそうですね」
「たぶん」
ミア。
「またたぶん!」
その時。
レイン。
止まる。
【血縁反応】
距離。
接近。
いや。
違う。
【血縁反応】
二件。
「……二件?」
リリア。
「どうしました?」
「血縁反応が」
「二つ」
ガルド。
「ルークと父親」
「だろ?」
レイン。
首。
横。
「ルークは」
「最初から」
「表示されてた」
「なら」
ノア。
顔。
変わる。
「別の血縁者?」
レイン。
表示。
【対象A】
一致率99.98%。
父親推定。
【対象B】
一致率99.97%。
不明。
全員。
止まる。
ミア。
「お母さん?」
レイン。
心臓。
跳ねる。
母親。
記憶。
ある。
だが。
亡くなった。
そう。
記憶している。
「母親は」
「俺が十五の時」
「死んだ」
ノア。
「死亡確認は」
レイン。
「……」
自分。
何を。
見た。
葬儀。
棺。
顔。
見た?
記憶。
探す。
ない。
母親が。
病気。
亡くなった。
そう。
聞いた。
それだけ。
「まさか」
レイン。
視界。
警告。
【記憶領域】
母親関連情報。
状態。
一部改変。
「……!」
リリア。
「レインさん!」
「母親の」
「記憶も」
「いじられてる」
空気。
重くなる。
父親。
弟。
母親。
家族。
全部。
レインから。
奪われていた。
その時。
第三層。
奥。
女性の声。
「レイン」
全身。
凍る。
知っている。
記憶。
残っている。
声。
「……母さん?」
暗闇。
一人。
女性。
歩いてくる。
レイン。
息。
止まる。
十五年前。
最後に見た。
姿。
ほとんど。
変わっていない。
母親。
笑う。
「大きくなったわね」
レイン。
動けない。
ガルド。
リリア。
誰も。
動かない。
母親。
レインへ。
近づく。
「ずっと」
「会いたかった」
レイン。
目。
熱くなる。
でも。
その瞬間。
ノアが。
叫ぶ。
「近づくな!」
全員。
反応。
レイン。
止まる。
ノア。
《生還経路》。
顔色。
真っ青。
「その人に」
「触るな!」
母親。
笑顔。
変わらない。
レイン。
「なぜ」
ノア。
震える。
「触れた瞬間」
一拍。
「お前の生還経路が」
「全部消える」
レイン。
母親を見る。
母親。
それでも。
優しく。
手。
伸ばす。
「レイン」
「おいで」
レインの視界。
解析。
【対象】
母親。
血縁一致率99.97%。
【生命状態】
――死亡。
レインの呼吸が。
止まった。
目の前にいる。
母親は。
確かに。
本物。
でも。
表示。
死んでいる。
――第三十九話 了――




