第三十一話 捨てた力
第三十一話 捨てた力
「違う」
遠く。
アビス最深部。
暗闇の存在が笑った。
「それは」
「お前が」
「最初に捨てた力だ」
◇◇◇
十二号の拳を。
レインの右手が受け止めている。
【自己支援】
解放率:0.01%
【身体能力補正】
×50
レイン自身が。
一番理解できていなかった。
「俺が……」
攻撃能力。
ゼロ。
防御能力。
最高Dランク。
それが。
レイン・アーク。
三つのパーティーから追放された。
最大の理由。
なのに。
今。
世界最高レベル50。
しかも《境界補正》を持つ十二号の拳を。
素手で止めている。
「あり得ない……」
十二号が呟く。
「私の出力は」
「現在でもAランク上限を超えている」
「俺に言うな」
レインは本気で困っていた。
「俺だって分からない!」
その瞬間。
【警告】
【自己支援継続時間】
残り――8秒。
「短っ!」
「レイン!」
ノアが叫ぶ。
「後ろ!」
王国魔術院。
三十六人。
動く。
十二号だけではない。
敵は。
まだ残っている。
「ガルド!」
「おう!」
レインが。
十二号の拳を離す。
同時。
十二号。
再び攻撃。
レイン。
避ける。
速い。
いや。
世界が。
遅い。
【自己支援】
残り7秒。
十二号の右拳。
見える。
左。
蹴り。
見える。
次。
肘。
それも。
見える。
レインは。
全部。
避けた。
「……」
十二号の顔。
驚愕。
「何で当たらない」
「俺が聞きたい!」
レイン。
後退。
【残り6秒】
「ノア!」
「何だ!」
「六秒で道を作れ!」
「無茶言うな!」
「いつも作ってるだろ!」
「六秒は初めてだ!」
ノア。
《戦場設計》。
地形。
敵。
味方。
出口。
「セラ!」
「はい!」
「五秒後!」
未来視。
「右側!」
「敵が三人開きます!」
「リリア!」
「分かりました!」
魔力集中。
「ガルド!」
「何だ!」
「その元盾!」
「元って言うな!」
「投げろ!」
「盾を!?」
「早く!」
ガルド。
金属板を持つ。
「後で絶対直せよ!」
ミア。
「任せてください!」
「お前じゃねえ!」
「私しか直せません!」
ガルド。
投擲。
巨大な金属板。
回転。
敵三人。
避ける。
セラの未来。
その通り。
右側。
開く。
「今!」
リリア。
《スター・バースト!》
光。
地面。
爆発。
敵ではない。
足元。
土煙。
視界。
遮断。
ノア。
叫ぶ。
「右!」
【自己支援】
残り3秒。
レイン。
仲間を見る。
全員。
距離。
十二号。
背後。
敵。
三十六。
「全員走れ!」
六人。
一斉に右へ。
十二号。
追う。
「レイン!」
十二号の声。
「止まってください!」
「殺せって命令されてる奴に言われて止まるか!」
「私もそう思います!」
「なら追うな!」
「命令なので!」
「面倒くさいな!」
【残り2秒】
十二号。
距離。
三メートル。
【残り1秒】
レイン。
振り返る。
十二号。
拳。
「くっ!」
レイン。
腕。
防御。
【自己支援終了】
光。
消える。
十二号の拳。
直前。
止まった。
「……?」
レイン。
見る。
十二号の腕。
震えている。
「十二号?」
黒い瞳。
人間の瞳。
交互。
「行って……ください」
「お前」
「早く!」
十二号が叫ぶ。
「今なら」
「まだ」
「止められる!」
レイン。
迷う。
「レイン!」
ノア。
「道が閉じる!」
レインは。
歯を食いしばる。
そして。
走った。
「必ず」
十二号へ叫ぶ。
「戻ってくる!」
十二号は。
僅かに。
笑った。
「それは」
「困りますね」
◇◇◇
森。
六人。
全力。
ノア。
先頭。
「北東!」
セラ。
「二十秒後に追手!」
「何人!」
「十二!」
レイン。
支援。
《速度上昇》。
全員。
《疲労軽減》。
全員。
【支援経験値】
微量獲得。
今までなら。
見過ごしていた表示。
だが。
レベル100を目指すと決めた今。
意味が違う。
走るだけでも。
仲間を支援すれば。
経験値になる。
「……そういうことか」
レインが呟く。
「何がです?」
リリア。
「俺の経験値」
「今ですか!?」
「今だから分かった!」
レインは走りながら解析する。
【経験値獲得方式】
敵討伐:低
直接戦闘:極低
支援成功:中
格上対象への支援:高
潜在能力解放:極高
特殊連携成立:極高
仲間の成長:共有
レインの足が。
一瞬。
止まりそうになる。
「俺……」
「どうした!」
ガルド。
「敵を倒すより」
「お前たちを強くした方が」
「経験値が多い」
沈黙。
走りながら。
ミアが言った。
「何ですかそれ」
「分からん」
「ずるくないですか?」
「どこが!」
「私たちが頑張ったらレインさんが強くなるんですよね?」
「そうなる」
「やっぱりずるいです!」
ガルドが笑う。
「いいじゃねえか!」
「俺たちも強くなるんだろ!」
「それはそうですけど!」
ノアが。
走りながら言う。
「理にかなってる」
「何が?」
「レインの能力だ」
ノアは前だけを見る。
「こいつは」
「一人で強くなるように作られてない」
レイン。
その言葉に。
反応する。
作られていない。
「仲間を強くする」
「仲間が成長する」
「その結果」
「レインも成長する」
ノア。
「つまり」
「パーティーそのものが」
「レインの成長装置だ」
「言い方!」
リリアが怒る。
「仲間です!」
「意味は同じだ」
「全然違います!」
レインは。
二人の会話を聞きながら。
別のことを考えていた。
一人では。
強くなれない。
仲間が必要。
偶然なのか。
それとも。
父親が。
そうしたのか。
◇◇◇
「止まれ!」
ノア。
全員。
急停止。
前。
崖。
「行き止まり!?」
ミア。
「違う」
ノア。
下を見る。
川。
高さ。
二十メートル。
「飛ぶ」
「はい?」
ミア。
「飛ぶぞ」
「嫌です!」
「後ろから来る」
セラ。
未来視。
「八秒!」
「もっと嫌です!」
ガルド。
ミアを抱える。
「行くぞ!」
「待って待って待って!」
「三!」
「数えないで!」
「二!」
「話し合いましょう!」
「一!」
「嫌ぁぁぁぁ!」
ガルド。
跳ぶ。
「俺たちも!」
ノア。
セラ。
リリア。
レイン。
次々。
崖から飛ぶ。
落下。
レイン。
支援。
《衝撃軽減》。
全員。
ザッパァァァン!
川。
沈む。
浮上。
「ぷはっ!」
ミア。
ガルドに抱えられたまま。
「最悪です!」
「生きてるだろ!」
「そういう問題じゃありません!」
ノア。
岸を見る。
「上がるな!」
「川を下る!」
流れ。
速い。
六人。
そのまま。
流される。
崖上。
黒装束。
十二人。
現れる。
だが。
追えない。
「成功」
ノア。
レインの視界。
【生還率】
46%。
「まだ低い」
「追って来る」
セラ。
「別ルートで」
「何分?」
「十五分」
ノア。
周囲。
「十分で川を出る」
「その後?」
「ベルクへ向かう」
レインが驚く。
「予定通り?」
「ああ」
「追われてるぞ」
「だからだ」
ノアが答える。
「予定を変えると」
「敵にこちらの目的を教える」
「ベルクへ行く理由が」
「敵にはまだ分からない」
レイン。
少し笑う。
「なるほど」
やはり。
ノアは。
こういう時。
頼りになる。
◇◇◇
十五分後。
王国魔術院。
追跡部隊。
川辺。
隊長が。
足跡を見る。
「北西」
部下。
「ベルク方面です」
「追う」
その時。
背後。
声。
「その必要はありません」
全員。
振り返る。
十二号。
立っている。
「十二号」
隊長。
「対象は?」
「逃走しました」
「なぜ追わない」
「命令系統に異常が発生しました」
「何?」
十二号。
胸。
【XII】
赤い文字。
自分の指を。
そこへ突き刺す。
ブシュッ。
血。
「何をしている!」
十二号。
自分の胸から。
小さな黒い結晶を。
引き抜いた。
【強制制御核】
「……!」
隊長。
後退。
「十二号」
「それを外せば」
「分かっています」
十二号。
結晶。
握る。
砕く。
パキン。
【強制制御】
――切断。
十二号の身体。
一瞬。
大きく揺れる。
口から。
血。
それでも。
立つ。
「これで」
「命令は」
「必要ありません」
隊長。
剣を抜く。
「反逆か」
十二号。
少し考える。
「十八年前」
「私は」
「命令に従いました」
「その結果」
「一人の男を殺した」
目。
静か。
「今日」
「同じ男の息子を」
「殺せと命令された」
一歩。
「だから」
境界。
足元。
黒い文字。
「確認することにしました」
「何を」
十二号。
「十八年前」
一拍。
「間違えたのは」
「私だったのか」
「命令だったのか」
隊長。
「くだらん」
剣。
構える。
「実験体が」
「考える必要はない」
十二号。
止まる。
その言葉。
十八年前。
同じ。
記憶。
男。
レインの父。
血。
自分の腕。
そして。
死ぬ直前。
父親が。
十二号へ言った。
『お前は道具じゃない』
『いつか』
『自分で選べ』
十二号。
目を閉じる。
十八年間。
意味が。
分からなかった。
でも。
今。
分かる。
「……そうですね」
目。
開く。
「やっと」
「選べます」
◇◇◇
その頃。
レインたち。
川を抜け。
森。
走る。
突然。
レインの視界。
【特殊条件達成】
「……?」
【対象】
十二号。
【潜在才能】
可視化可能。
「今?」
今まで。
十二号には。
何も見えなかった。
レイン。
解析。
【十二号】
現在職業:なし。
固有能力。
《境界反転》。
《空間短縮》。
《因果干渉》。
そして。
一番下。
【隠された才能】
レインの目が。
大きくなる。
【適性職業】
――後衛支援士。
「……嘘だろ」
足が。
止まる。
「レイン?」
リリア。
レインは。
表示を見続ける。
十二号。
完成個体。
世界最高クラス。
境界能力。
戦闘能力。
測定不能。
そんな男の。
本来の才能。
攻撃ではない。
支援。
自分と。
同じ。
その下。
さらに。
表示。
【潜在才能評価】
S。
世界の職業評価。
最高A。
なのに。
S。
「ノア」
「何だ」
「戻る」
全員。
止まる。
「は?」
「十二号のところへ戻る」
ガルド。
「お前」
「さっき必死で逃げたばっかりだぞ!」
「分かってる」
「じゃあ何で!」
レイン。
十二号の才能を見る。
そして。
言う。
「見つけた」
「何を?」
レインは。
少し笑った。
それは。
三度。
無能と呼ばれ。
捨てられた自分が。
今まで。
何度もしてきたこと。
誰にも評価されない。
隠れた才能。
それを。
見つける。
「次の」
一拍。
「仲間だ」
全員。
沈黙。
ガルドが。
頭を抱えた。
「またかよ!」
ミア。
「今度は敵ですよ!?」
「元敵だ」
「まだ元になってません!」
リリア。
苦笑。
「でも」
「レインさんですから」
セラも。
小さく笑う。
ノアだけが。
真剣に聞く。
「才能は?」
レイン。
答える。
「後衛支援士」
ノアの目。
変わる。
「評価」
「S」
「……」
初めて。
ノアが。
完全に言葉を失った。
レインは。
来た道を見る。
「行こう」
「十二号を」
「取り返す」
◇◇◇
同じ頃。
十二号。
一人。
王国魔術院。
三十七人。
その中央。
立っている。
血。
服。
破れている。
敵。
残り。
二十一。
十二号。
呼吸。
荒い。
境界能力。
強制制御核を外した影響。
出力。
不安定。
隊長が。
剣を向ける。
「終わりだ」
十二号。
笑う。
「そうかもしれません」
「最後に言い残すことは」
十二号。
空を見る。
十八年前。
あの男。
そして。
その息子。
「一つだけ」
「何だ」
十二号。
静かに。
言う。
「今度は」
「間違えなかった」
隊長。
剣。
振り下ろす。
その瞬間。
森の奥。
声。
「勝手に死ぬな!」
十二号。
目を見開く。
光。
一直線。
《スター・ランス!》
隊長の剣。
弾かれる。
次。
矢。
三本。
敵の足元。
《未来射撃》。
そして。
巨大な。
金属板。
飛んでくる。
ドォン!
「うおおおお!」
ガルド。
「これ盾として使いにくすぎるぞ!」
「だから車輪を!」
「まだ言うか!」
ミア。
薬瓶。
投擲。
煙。
ノア。
「左に五!」
「右に七!」
「中央九!」
レイン。
最後に。
森から出る。
十二号。
呆然。
「……なぜ」
レインが。
十二号の前へ。
立つ。
「言っただろ」
「戻ってくるって」
「でも」
「お前」
レイン。
指差す。
「俺のパーティーに入れ」
十二号。
完全に。
固まった。
周囲。
敵。
二十一人。
戦場。
ど真ん中。
十二号。
「……今」
「その話をしますか?」
レイン。
即答。
「今だからする」
そして。
笑った。
「お前」
「後衛の才能があるぞ」
十二号は。
人生で初めて。
意味が分からないという顔をした。
――第三十一話 了――




