第二十九話 父を殺した男
第二十九話 父を殺した男
「あなたの父親を殺した男です」
焚き火が。
パチッ。
小さく爆ぜた。
レインは動かなかった。
いや。
動けなかった。
「……今」
喉が乾く。
「何て言った?」
十二号は逃げない。
レインをまっすぐ見ている。
「あなたの父親を」
一拍。
「私が殺しました」
「……」
頭の中が。
真っ白になった。
父親。
顔も。
名前も。
声さえ。
ほとんど思い出せない男。
それでも。
確かに存在した。
そして。
目の前の男は。
自分が殺したと言った。
「理由は」
レインの声が低くなる。
「なぜ殺した」
十二号は答えない。
「答えろ!」
その声で。
全員が目を覚ました。
「レイン!?」
ガルドが飛び起きる。
リリア。
杖。
セラ。
弓。
ミア。
薬瓶。
そして。
動きを封じられていたノア。
「……!」
身体が動く。
十二号が拘束を解除した。
ノアは即座に距離を取った。
「そいつから離れろ!」
「何があったんです?」
リリアがレインの横へ。
ガルドも前へ出る。
レインは。
十二号から目を離さない。
「こいつが」
拳を握る。
「俺の父親を殺した」
全員が。
止まった。
「……何?」
ガルドの声が変わる。
十二号を見る。
「本当か」
「ああ」
「なら」
ガルドが一歩出る。
「話してもらおうか」
「待て」
レインが止めた。
「俺が聞く」
ガルドは。
数秒。
レインを見る。
そして。
下がった。
「分かった」
十二号は。
そのやり取りを。
静かに見ていた。
「ずいぶん」
「良い仲間を持ちましたね」
「話を逸らすな」
レイン。
「父親の名前は」
十二号が答える。
「言えません」
「ふざけるな」
「言えないのです」
「なぜ」
「あなたの記憶封印が」
「反応するからです」
レインの表情が変わる。
「知ってるのか」
「はい」
「誰が封印した」
「言えません」
「父親を殺した理由は」
「言えません」
「何なら言える!」
レインの怒声。
十二号は。
少しだけ目を伏せた。
「私は」
「あなたに真実を話すために来たのではありません」
「じゃあ何しに来た」
「回収です」
全員の空気が変わった。
「レイン・アーク」
十二号。
「あなたを」
「王都へ連れて帰ります」
◇◇◇
「断る」
即答だった。
十二号は。
少しだけ。
首を傾げる。
「理由を聞いても?」
「聞く必要あるか?」
レインは仲間を見る。
「俺には」
「行く場所がある」
ベルク。
迷宮。
レベル100。
そして。
父親の記憶。
「それに」
十二号を見る。
「父親を殺したと名乗る奴について行くほど」
「俺は馬鹿じゃない」
ガルドが笑う。
「その通りだ」
リリアも杖を構える。
「連れて行かせません」
セラ。
弓。
ミア。
薬瓶。
ノアは。
静かに十二号を見る。
「一つ聞く」
「どうぞ」
「お前」
「俺たち全員を相手にして」
「レインを連れて行けると思ってるのか」
十二号。
沈黙。
そして。
「はい」
即答。
ガルドの顔から。
笑みが消えた。
レイン。
解析。
【対象】
十二号
【偽装解除率】
18%。
レベル。
――解析不能。
職業。
――解析不能。
危険度。
――測定不能。
零号と。
同じ。
「ノア」
レインが小声で言う。
「見えるか」
ノア。
《生還経路》。
数秒。
「……見える」
「何本」
「十四」
レインが少し驚く。
零号の時とは違う。
「戦える?」
ノアは。
十二号を見る。
「戦った場合」
一拍。
「十三本消える」
「残りは?」
「一本」
「勝てる?」
ノアは答えない。
それで。
十分だった。
十二号が言う。
「心配はいりません」
「あなた方を殺す命令は受けていない」
ガルド。
「随分と余裕だな」
「事実です」
「なら」
ガルドが拳を鳴らす。
「試してみるか?」
「ガルド」
レインが止める。
「挑発に乗るな」
「……分かった」
十二号が。
少しだけ。
微笑む。
「良い判断です」
レインの視界。
【完全戦場解析】
起動。
敵。
十二号。
味方。
六。
地形。
森林。
夜間。
火。
岩。
木。
川。
ノアの《戦場設計》と接続。
【勝利条件設定】
十二号撃破。
結果。
――算出不能。
条件変更。
【勝利条件】
レインの確保阻止。
結果。
【達成率】
43%。
低い。
さらに変更。
【勝利条件】
全員生存で離脱。
【達成率】
68%。
「……」
戦うべきではない。
でも。
このまま。
逃がすのも違う。
レインは。
一つ。
考えた。
「十二号」
「はい」
「お前は」
「俺の父親を殺したと言ったな」
「はい」
「なら」
レインは。
真正面から聞いた。
「父親は」
「お前の敵だったのか」
十二号の表情が。
初めて。
大きく変わった。
沈黙。
長い。
「答えろ」
十二号が。
目を伏せる。
「いいえ」
レインの拳が。
少し緩む。
「じゃあ」
「なぜ殺した」
「……」
「命令か?」
十二号。
反応。
ほんの一瞬。
それで。
十分だった。
「命令だったんだな」
十二号は。
答えない。
「誰の命令だ」
「言えません」
「王国魔術院?」
沈黙。
「境界を研究してる奴らか?」
沈黙。
「零号を作った連中か?」
十二号の眉が。
僅かに動いた。
レイン。
見逃さない。
「同じなんだな」
「何がです」
「零号と」
レインは。
十二号の胸。
【XII】
を見る。
「お前も」
「実験体なんだろ」
全員が。
十二号を見る。
ミアが。
小さく息を呑む。
十二号は。
しばらく。
何も言わなかった。
そして。
「完成個体」
静かに言う。
「何?」
「零号は」
「試作個体」
「私は」
「完成個体です」
レインの視界。
【対象識別】
十二号。
【分類】
完成個体。
「何が違う」
「零号は」
「境界の力を」
「直接身体へ取り込んだ」
「その結果」
十二号。
「強すぎた」
「強すぎた?」
「人間の制御を」
「受け付けないほどに」
だから。
首輪。
強制命令。
制裁。
「じゃあお前は?」
「私は違います」
十二号が。
自分の胸へ手を置く。
「境界の力を」
「人間の器に収まるよう」
「調整された」
「だから完成個体」
「はい」
「他にもいるのか」
十二号。
沈黙。
その沈黙が。
答え。
零号。
十二号。
なら。
その間。
「一号から十一号」
レイン。
「いるんだな」
十二号は答えない。
◇◇◇
その時。
セラが。
突然。
弓を構えた。
「来ます!」
全員。
反応。
「十二号か?」
「違います!」
セラ。
未来視。
顔色。
変わる。
「森!」
「囲まれます!」
ノアが立ち上がる。
「何人!」
「二十……」
「違う」
セラ。
さらに未来を見る。
「三十!」
レイン。
解析。
周辺。
【敵性反応】
37。
「三十七!」
ガルド。
「人間か?」
「人間」
レインが答える。
森。
音。
ほとんどない。
訓練された動き。
包囲。
ノアが。
地図を見る。
「王国兵?」
十二号が。
初めて。
明確に。
警戒した。
「違います」
「お前の仲間じゃないのか」
「違う」
声。
先ほどまでと。
全く違う。
「レイン」
十二号が。
初めて。
敬称なしで呼ぶ。
「今すぐ」
「火を消してください」
「なぜ」
「彼らに」
「見つかります」
「もう見つかってる!」
ガルド。
十二号が。
森を見る。
「なら」
黒い外套を脱ぐ。
その下。
白い服。
胸。
【XII】
「私の後ろへ」
レインが眉をひそめる。
「俺を回収するんじゃなかったのか」
「命令は」
十二号が答える。
「生きた状態での回収」
森。
人影。
現れる。
黒装束。
顔。
仮面。
武器。
全員。
同じ。
レイン。
解析。
【対象】
人間
レベル:38。
39。
37。
41。
40。
「全員高レベルだ」
リリア。
「誰なんです?」
十二号が答える。
「王国魔術院」
レイン。
「さっき仲間じゃないと言っただろ」
「所属は同じです」
「でも」
十二号。
「命令系統が違う」
森。
声。
「十二号」
低い。
「対象から離れろ」
十二号。
動かない。
「命令権限を提示してください」
「必要ない」
「なら」
十二号の目が。
冷たくなる。
「従いません」
「十二号」
「対象レイン・アークは」
一拍。
「危険個体と認定された」
レインの表情。
変わる。
「回収命令は破棄」
そして。
「処分せよ」
ガルド。
前へ。
リリア。
杖。
セラ。
弓。
ミア。
薬。
ノア。
罠。
レイン。
支援。
十二号だけが。
動かなかった。
森の男。
「十二号」
「聞こえなかったか」
「聞こえました」
「なら処分しろ」
十二号が。
ゆっくり。
振り返る。
レインを見る。
「一つ」
「訂正します」
「何を」
「私は」
十二号。
「あなたの父親を殺しました」
「それは事実です」
「でも」
初めて。
その声に。
感情。
「殺したかったわけではない」
レインは。
何も言わない。
十二号が。
森の男たちへ向き直る。
「十八年前」
「私は」
「一度」
「命令を間違えた」
両手。
下げたまま。
「だから」
一歩。
前へ。
「二度目は」
「間違えない」
森。
三十七人。
武器を構える。
十二号。
一人。
その瞬間。
レインの視界。
十二号の偽装。
完全解除。
【個体識別】
十二号
【レベル】
50。
世界最高。
Aランク。
だが。
その下。
別表示。
【境界補正】
――起動。
【実効戦闘能力】
測定不能。
レインの目が。
大きくなる。
「お前……」
十二号が。
初めて。
笑った。
「レイン」
「よく見ていてください」
「あなたの父親が」
「命を懸けて」
「あなたから隠したものを」
一拍。
「今から」
「少しだけ見せます」
十二号の足元。
地面に。
黒い文字。
【境界】
【こちら】
【あちら】
三十七人が。
一斉に動く。
そして。
十二号が。
指を一本。
上げた。
「《境界反転》」
世界が。
裏返った。
――第二十九話 了――




