第二十七話 レベル100への道
第二十七話 レベル100への道
「……レベル100」
レインは、その数字を見つめたまま動かなかった。
【記憶領域】
父親関連情報。
状態――封印。
【解除条件】
実レベル100。
世界最高レベル。
50。
そのさらに倍。
しかも。
レベル51以降。
必要経験値は、それまでの五倍。
普通なら。
到底届かない数字。
だが。
レインだけは違う。
上限がない。
届く可能性だけは。
ある。
「レインさん?」
リリアの声で。
レインは我に返った。
「どうしました?」
「いや」
一瞬。
迷った。
これまで。
自分の内部レベル。
アビスとの接続。
父親の記憶。
全部。
一人で抱えようとしてきた。
でも。
リリアに言われた。
自分だけ例外なのか。
仲間を信じろ。
なら。
「話がある」
レインは全員を見る。
ガルド。
リリア。
セラ。
ミア。
ノア。
五人が。
すぐに表情を変えた。
「また何か見えたのか?」
ガルド。
「ああ」
「良い話ですか?」
ミア。
「たぶん」
「たぶん?」
「良いのか悪いのか、まだ分からない」
ノアが壁にもたれたまま言う。
「なら最初から全部話せ」
レインは少し笑った。
「分かった」
そして。
一つずつ話した。
自分の実レベルが。
世界の上限50を越えていること。
表示上は30。
Dランク。
しかし。
内部では成長し続けていること。
レベル51以降。
必要経験値が五倍になること。
それが。
制限ではなく。
自分を守るための《保護機構》らしいこと。
そして。
父親に関する記憶が。
封印されていること。
最後に。
「解除条件が」
少し間を置く。
「実レベル100」
誰も。
すぐには答えなかった。
最初に口を開いたのは。
ミアだった。
「100って」
「はい」
「50の倍ですよね」
「そうだ」
「世界最高の」
「倍だ」
ミアは。
しばらく考えてから。
「それ」
「数字だけ聞くと」
「すごく馬鹿みたいですね」
「……」
ガルドが吹き出した。
「ははは!」
「確かにな!」
「笑うところですか!?」
リリアも。
少し笑う。
セラも。
肩の力が抜けた。
レインは呆れながら。
でも。
少しだけ安心した。
重い話のはずだった。
なのに。
こいつらと話すと。
妙に。
現実になる。
ノアだけは。
真剣だった。
「必要経験値は?」
「51以降は五倍」
「今いくつだ」
レインは。
少し迷った。
正確な数字。
表示。
【実レベル】
――解析再構築中。
その下。
【暫定実レベル】
52。
「52」
全員が固まった。
「……」
ガルドが。
ゆっくり言う。
「もう越えてるじゃねえか」
「ああ」
「いつ?」
「たぶん最近」
「たぶんって何ですか」
ミア。
「俺にも正確には分からなかった」
リリアが目を見開く。
「じゃあ」
「レインさんは」
「この世界で初めて」
「レベル50を越えた人間?」
「たぶん」
「またたぶん」
セラが小さく笑う。
レインは苦笑した。
だが。
ノアは。
別のことを考えていた。
「52から100」
「あと48」
「必要経験値は五倍」
「普通にやったら」
レインが頷く。
「時間がかかる」
「どれくらい?」
「分からない」
「なら」
ノアは。
地面に地図を広げた。
「効率を上げる」
レインが見る。
「何をする気だ」
「経験値を稼ぐ」
ガルドが笑う。
「急に冒険者らしくなったな」
「違う」
ノアは即答した。
「戦う量を増やすんじゃない」
「危険を増やさず」
「取得経験値だけを最大化する」
「そんなことできるの?」
セラ。
ノアは。
レインを見る。
「お前ならできるだろ」
「俺?」
「ああ」
「支援経験値」
レインの表情が変わる。
そうだ。
自分は。
敵を倒した時だけ。
経験値を得ているわけではない。
支援。
指揮。
仲間の成長。
格上討伐。
連携発動。
それらでも。
内部経験値を得ている。
「つまり」
リリアが気付く。
「レインさんが直接戦わなくても」
「私たちが強くなれば」
「レインさんも成長する?」
「そういうことだ」
ノアが頷く。
レインの視界。
【条件解析】
パーティーメンバー成長。
支援経験値獲得。
【補正】
潜在才能解放。
高倍率。
「……本当だ」
レインが呟く。
ガルドが笑う。
「なら簡単じゃねえか」
「何が?」
「俺たちが」
一拍。
「強くなればいい」
その言葉に。
全員が黙る。
そして。
セラが。
静かに笑った。
「最初から」
「そういうパーティーですもんね」
リリア。
「レインさんが」
「私たちを強くして」
ミア。
「私たちが」
「レインさんを強くする」
ノアが。
少しだけ笑う。
「循環だな」
レインは。
五人を見る。
世界から。
役立たずと捨てられた者たち。
自分も含めて。
でも。
今は。
互いが互いを。
強くしている。
「よし」
レインが立ち上がった。
「方針を決める」
全員が。
こちらを見る。
「俺は」
「レベル100を目指す」
ガルドが頷く。
「おう」
「ただし」
レインは続ける。
「それだけじゃない」
「何です?」
リリア。
「全員」
少し間を置く。
「Aランク相当まで引き上げる」
沈黙。
「……全員?」
ミアが。
自分を指差す。
「私も?」
「ああ」
「戦闘職じゃないですよ?」
「関係ない」
「でも」
「戦闘力だけが強さじゃない」
レインは。
自分で言って。
少し笑った。
さっき。
暗闇の声に言われたばかりの言葉。
強さとは。
敵を倒す力だけではない。
「ミアは」
「世界最高の錬金術師になればいい」
「……」
ミアの目が。
大きくなる。
「ノアは」
「世界最高の戦場設計士」
ノア。
無言。
でも。
口元が少し動く。
「セラ」
「世界最高の射手」
「はい」
「リリア」
「世界最高の魔法使い」
「……はい!」
「ガルド」
「世界最高の盾」
ガルドが。
大盾の残骸を見る。
「まず」
一拍。
「新しい盾からだな」
全員が笑った。
◇◇◇
旧排気坑を抜けたのは。
夕方だった。
西側。
第三鉱山から。
かなり離れた山中。
ノアが周囲を見る。
「追跡なし」
セラも未来視。
「大丈夫です」
レイン。
《完全戦場解析》。
【周辺危険度】
低。
【生還率】
98%。
「ここで休む」
全員が。
ようやく息を吐いた。
火を起こす。
食料。
水。
ガルドは。
壊れた盾を。
地面へ置いた。
ミアが。
すぐ横へ座る。
「直します」
「本当に?」
「直すだけなら」
「たぶん」
「またたぶんか!」
「でも」
ミアは。
盾の亀裂を見る。
「せっかくなら」
「直すだけじゃなくて」
「もっと強くしたいです」
ガルドが。
少し眉を上げる。
「何をする」
「自己修復」
「衝撃分散」
「魔力吸収」
「あと」
ミアの目が。
危険な輝きになる。
「変形」
「待て」
ガルドが止める。
「何で盾が変形する必要がある」
「格好いいからです」
「却下」
「ええ!」
リリアが笑う。
セラも。
焚き火の向こうで。
楽しそうに見ている。
レインは。
少し離れたところで。
その光景を見ていた。
レベル100。
父親の記憶。
アビス。
零号。
世界。
問題は。
山ほどある。
でも。
今は。
この時間が。
少しだけ。
ありがたかった。
その時。
ノアが。
隣へ座る。
「一つ聞いていいか」
「何?」
「父親の記憶」
レインの表情が。
少し変わる。
「本当に」
「何も覚えてないのか」
「……ああ」
「顔も?」
「覚えてない」
「声も?」
「覚えてない」
「名前は?」
「……」
レインが。
少し考える。
「それも」
「分からない」
ノアは。
しばらく黙る。
「おかしいな」
「何が?」
「普通」
「顔を忘れても」
「名前くらいは覚えてる」
レインも。
同じことを。
何度も考えた。
でも。
家族について。
父親だけ。
空白。
「母親は?」
「覚えてる」
「兄弟」
「いない」
「父親だけ」
「ああ」
「全部ない」
ノアが。
焚き火を見る。
「それ」
「封印っていうより」
少し間。
「最初から」
「存在しなかったように」
「消されてるな」
レインは。
答えなかった。
でも。
その言葉。
妙に。
引っ掛かった。
存在しなかったように。
その瞬間。
レインの視界に。
文字。
【記憶領域反応】
父親関連。
【外部刺激により】
微弱反応。
「……?」
一瞬。
映像。
男。
顔。
見えない。
背中。
だけ。
大きな。
背中。
子供のレイン。
その男の手を。
握っている。
そして。
声。
「レイン」
低い。
優しい声。
「絶対に」
映像が。
乱れる。
「50を――」
そこで。
消えた。
「……!」
レインが。
立ち上がった。
「どうした?」
ノア。
「思い出した」
全員が。
レインを見る。
「何を?」
リリア。
「父親の」
レインは。
自分の頭を押さえる。
ほんの一瞬。
でも。
確かに。
記憶。
「何て言ってた?」
ガルド。
レインは。
思い出す。
「絶対に」
「50を」
そこまで。
その先が。
ない。
「50を?」
セラ。
レインは首を横に振る。
「分からない」
だが。
レベル50。
父親。
保護機構。
18年前。
全て。
繋がっている。
そして。
表示。
【記憶封印】
強制解除を検知。
【警告】
解除条件未達。
【再封印開始】
「待て!」
レインが叫ぶ。
記憶。
薄れる。
父親の背中。
声。
手。
消えていく。
「待ってくれ!」
必死に。
掴もうとする。
でも。
消える。
最後。
父親の声。
ほんの。
一言。
「――見つかるな」
そして。
完全に。
消えた。
レインは。
動けなかった。
見つかるな。
誰に。
何に。
父親は。
何を知っていた。
その時。
視界。
【記憶保護機構】
再封印完了。
【不正解除試行を検知】
【監視側へ通知】
レインの表情が。
変わった。
「……監視側?」
嫌な予感。
次。
【通知先】
識別不能。
【応答受信】
一行。
【対象生存確認】
そして。
最後。
【回収優先度】
低
↓
最優先。
レインの背中に。
冷たい汗。
誰かが。
自分の記憶を監視している。
そして。
父親の記憶へ。
触れたことで。
その誰かに。
レインが生きていることを。
知らせてしまった。
◇◇◇
同じ頃。
王都。
王国魔術院地下。
誰も立ち入れない。
最深部。
暗い部屋。
一人の男が。
目を開いた。
机の上。
古い魔導器。
そこに。
十八年間。
一度も点かなかった。
赤い光。
男は。
ゆっくり。
立ち上がる。
「……動いたか」
壁。
そこには。
一枚の古い紙。
【観測対象】
レイン・アーク。
【状態】
死亡推定。
男は。
その文字を。
指で消した。
そして。
新しく。
書き直す。
【状態】
生存。
少しだけ。
笑う。
「やっと」
「見つけた」
男の顔は。
暗闇で。
見えない。
ただ。
胸元。
金色の紋章。
王国魔術院。
そして。
その横。
もう一つ。
レインが。
何度も見た。
印。
【境界】
【こちら】
【あちら】
男は。
静かに。
命令した。
「零号は放置」
「十二号を動かせ」
闇の中。
別の声。
「目的は?」
男は。
答える。
「レイン・アークの」
一拍。
「回収だ」
――第二十七話 了――




